外部そと)” の例文
もし自刃ならば、切物を外部そとへ向けて横差しに通しておいて前へ掻くのが普通だから、自然、痕が外部へ開いていなければならない。
丑松は仙太を背後うしろから抱〆だきしめて、誰が見ようと笑はうと其様そんなことに頓着なく、自然おのづ外部そとに表れる深い哀憐あはれみ情緒こゝろを寄せたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
我見しにこゝには溪のため外部そとよりみえざりし多くの魂サルウェ・レーギーナを歌ひつゝ縁草あをくさの上また花の上に坐しゐたり 八二—八四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
主人「なるほど妙な訳だ。受精した玉子と受精せん玉子と外部そとから見て解るかね」中川「外面そとからでは解らんが割ってみるとよく解る」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
人間の内側はどうでも、外部そとへ出た所だけをつらまえさえすれば、それでその人間が、すぐ片付けられるものと思っているからさ。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これも引ッ掛りで仕様がないから、穴の外部そとまで私がひッ背負って行ってあげますが、その代り会見談を書かして下さいね。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
塩、蜜等を入れてその竹の筒をすっかりふたをしてそれをば竹の薪木たきぎで燃やすです。よく焼けてほとんど外部そとが黒く焼けてほどよい頃まで焼きます。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
外部そとから来た男だと考え始めていた矢先きだったので、東屋氏のこの言葉には少からず驚いた。
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
けれども、それだけで彼女の心に慰安があったか? 絶対に秘密をまもり、彼女の動作については、何一つ外部そとへ知らせまいとしても、そう容易たやすく意地悪な世人が忘れようとしない。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
戸外そとは嵐が吹き巻いて、桜の花の盛りだというに、さっきから降っている牡丹雪ぼたんゆきは、嵐にまじり吹雪となり、窓の外部そとから横撲りに凄じい音を立てて襲っている。しかし屋内は静かである。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
日が暮れると、同時に重い防水布を張り、電球は取り除かれて、通風口は内部なかから厚い紙で蓋をしてしまった。操舵室も海図室も同じように暗く、内部も外部そとも、闇夜のような船であった。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
でも、私が出ちゃったら却って外部そとでの運動しごとが自由でやりいいわ。こうなるのが本望だったわね、あのゴリラの奴ったら、私を罠へかけるつもりで、その実、奴自身が罠に引っかかってるのよ。
罠を跳び越える女 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
外部そとよりひどい……どこか他所よそにしましょうか」
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
部屋は三間ばかりも有るらしい。軒の浅い割合に天井の高いのと、外部そとに雪がこひのして有るのとで、何となくうちの内が薄暗く見える。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
仕方なしに外部そとから耳をそばだてたけれども、中はしんとしているので、それにいきおいを得た彼の手は、思い切ってがらりと戸を開ける事ができた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たとへば他人ひとの願ひ表示しるしとなりて外部そとにあらはるゝとき、たふとき魂言遁いひのがるゝことをせず、たゞちにこれを己が願ひとなすごとく 一三〇—一三二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
足には足袋たびようのものをはいていて、頭には袋に作りつけの頭巾ずきんをかぶっているから、外部そとから見えているのは、両の眼がのぞいているだけだ。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
リンコルはラサ府の図面に記されてあるように一番外部そとのラサ府を巡る道なんです。この廻道リンコルはおよそ三里程ある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「空っぽうじゃないんだもの。丁度ころ柿ののようなもので、理窟がうちから白く吹き出すだけなんだ。外部そとから喰付くっつけた砂糖とは違うさ」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
衆と共にあやしみとゞまりてうちまもりゐたりしが、その外部そとことごとく紅なる喉吭のどぶえを人よりさきにひらきて 六七—六九
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
達雄は地方の紳士として、外部そとから持込んで来る相談にも預り、種々いろいろ土地の為に尽さなければ成らない事も多かった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「こんばんは……おさよさんはいますか」障子のむこうに忍ぶ低声こごえがしたかと思うと、そっと外部そとからあけたのを見て、おさよははっと呼吸をつめた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
天幕でなく板をもってうまく拵えてその外部そと切布きれで張ってある。内部うちもいろいろ立派な模様晒布更紗で張り付けてある。仮住居ですけれどもなかなか綺麗にしてある。そこへ招待された。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
どんな鋭敏な観察者が外部そとからのぞいてもとうていわかりこない性質のものであった。そうしてそれが彼女の秘密であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そは愛外部そとより我等に臨み、魂ほかの足にて行かずば、直く行くも曲りてゆくも己がごふにあらざればなり。 四三—四五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
一番広岡先生のやうな服装なりにもふりにもかまはない、何もかも外部そとへ露出して居るやうな、貧乏してそれで猶自ら棄てずに居るやうな人を置いて考へたい。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
が、磯五は、あくまで磯屋の黒幕になっていて、外部そとの人と接触したくなかったので、どうしても、お駒ちゃんのような妹役がひとり必要だったのである。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
自然おのづ外部そとに表れる苦悶の情は、頬の色の若々しさに交つて、一層その男らしい容貌おもばせ沈欝ちんうつにして見せたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
身体からだを安逸の境に置くという事を文明人の特権のように考えている彼は、この雨をいて外部そとへ出なければならない午後の心持を想像しながら、ひとり肩をすくめた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
時に見よ、いま一の光、わが方に進み出で、我を悦ばせんとの願ひを外部そとの輝に現はせり 一三—一五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
その雨戸の真ん中辺へ何か固い物が外部そとからぶつかった音に相違ないのだ。初太郎は手早く桟を下ろして、雨戸を引いた。とたんに、湿気を含んだ濃い闇黒やみが、どっと音して流れ込む。
庭には桜、石南花しゃくなげなども有った。林檎りんごは軒先に近くて、その葉の影が部屋から外部そとを静かにして見せた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ながらく外部そとへ出ずにいても、いつも世の動きを耳へ入れておくことのできたのは、このつづみの与吉があいだに立って絶えず報知しらせをもちこんできていたからで、誰知らぬ場所とはいえ
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
外部そとには穏やかな日が、障子にはめめた硝子越ガラスごしに薄く光っていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その日は達雄もひどく元気が無かった。しかし、夫はまた夫で、それを外部そとへは表すまいと勉めていた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ミシ! またしても障子の外部そと縁側えんがわに当って、何やら重い物が板をむ音。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
持って生れて来ただけの生命いのちの芽は内部なかから外部そとへ押出そうとはしても、まだまだ世間見ずの捨吉の胸はあたかも強烈な日光にしおれる若葉のように、現実のはげしさに打ち震えた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こつん、と誰かが軽く外部そとから蹴りながら
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
沸し湯ではあるが、鉱泉に身を浸して、浴槽よくそうの中から外部そとの景色をながめるのも心地こころもちが好かった。湯から上っても、皆の楽みは茶でも飲みながら、書生らしい雑談にふけることであった。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これ程何もかも外部そとへ露出した人を、私もあまり見たことが無い。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)