名題なだい)” の例文
天下名題なだいの貧乏男爵家ですから。ですが私の結婚だけでほぼ事足りていたようですから、兄は結婚の気持もなかったかも知れません。
何処どこにも白粉の影は見えず、下宿屋の二階から放出ほうりだした書生らしいが、京阪地かみがたにも東京にも人の知った、巽辰吉たつみたつきちと云う名題なだい俳優やくしゃ
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
城内と城下とを通じての美しいほうでの第一人者——という名題なだいにはなっているが、ここでは、どうしても城下は眼中に置かれません。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
“魁花春”という名題なだいに“開化”を利かせたのを見ても、いわゆる文明開化の風が世間を吹きなびかせていたことが思いやられる。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
此のたびお聞きに入れまするは、業平文治漂流奇談と名題なだいを置きました古いお馴染なじみのお話でございますが、何卒なにとぞ相変らず御贔屓ごひいきを願い上げます。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
当院たうゐん屋根普請やねふしん勧化くわんけため本堂ほんだうおい晴天せいてん七日の間芝居興行こうぎやうせしむるものなり、名題なだい仮名手本かなでほん忠臣蔵役人替名とありて役者やくしやの名おほくは変名へんみやうなり。
芝居しばいは、と尋ねると、市村いちむら、中村、森田三座とも狂言名題なだいの看板が出たばかりのころで、茶屋のかざり物、燈籠とうろう提灯ちょうちん、つみ物なぞは、あるいは見られても
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
劇場前に掲げ出される絵看板は、舞台の技芸よりも更に一層奇怪、残忍、淫褻いんせつになった。絵看板と同じく脚本の名題なだいもまたそれに劣らぬ文字が案出されている。
裸体談義 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
目ッぱの吉五郎のほうは、享和きょうわ三年、同じく延命院の伏魔殿を突きとめ、悪僧日潤にちじゅんって押えたお手先。これで、北番所きた名題なだいどころが全部顔が揃ったわけ。
御当所名題なだいの地獄極楽活人形いきにんぎょう、作人の儀は、江戸の名人雲龍斎うんりゅうさい又六、——八熱八寒地獄、十六別所べっしょ、小地獄、併せて百三十六地獄から、西方極楽浄土まで一と目に拝まれる
ツマリ『我楽多文庫』は硯友社の名題なだい披露の初舞台で、その艶っぽい花やかな元禄張の芸風を示した顔見世狂言は『新著百種』であった。硯友社の基礎はこの『新著百種』で固められた。
然るに竜池は劇場に往き、妓楼ぎろうに往った。竜池は中村、市村、森田の三座に見物に往く毎に、名題なだい役者を茶屋に呼んで杯を取らせた。妓楼は深川、吉原を始とし、品川へも内藤新宿へも往った。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
江戸えど名題なだい曲独楽きょくごまむすめ一座嵐粂吉あらしくめきち
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あらそひ入り來る故實に松葉屋の大黒柱だいこくばしら金箱かねばこもてはやされ全盛ぜんせいならぶ方なく時めきけるうちはや其年も暮て享保七年四月中旬なかば上方かみがたの客仲の町の桐屋きりやと云ふ茶屋より松葉屋へあがりけるに三人連にて歴々れき/\と見え歌浦うたうら八重咲やへざき幾世いくよとて何も晝三ちうさん名題なだい遊女を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
私が京都に「吹雪物語」を書いてゐたとき、下宿屋の娘がこの年頃で京都名題なだいの不良少女で、無軌道であつたが素直な気立のよい娘であつた。
酒のあとさき (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
当院たうゐん屋根普請やねふしん勧化くわんけため本堂ほんだうおい晴天せいてん七日の間芝居興行こうぎやうせしむるものなり、名題なだい仮名手本かなでほん忠臣蔵役人替名とありて役者やくしやの名おほくは変名へんみやうなり。
明くる二十二年の新富座三月興行から市川荒次郎と大谷門蔵の二人が名題なだい俳優に昇進して、門蔵は馬十と改名した。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
白雲先生へという名題なだいで、実は、臥竜梅がりゅうばいのうつろの中が目的であること申すまでもありません。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
(すきなおかた相乘人力車あひのりじんりきしやくらいとこいてくれ、車夫くるまやさん十錢じつせんはずむ、かはすかほに、そのが、おつだね)——流行唄はやりうたさへあつた。おつだねぶし名題なだいをあげたほどである。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いやに文字もんじあいだをくッ付けて模様のように太く書いてある名題なだい木札きふだ中央まんなかにして、その左右には恐しく顔のちいさい、眼のおおきい、指先の太い人物が、夜具をかついだようなおおきい着物を着て
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
寺島の才川平作といえば名題なだいの高利貸しであった。間接に千や二千の人間は殺してるようなものだぜ、という鬼の商法で巨万の財を築いた男。
その相手方には中村梅雀ばいじゃくという腕達者がいた。梅雀も後に歌舞伎座で名題なだいに昇進して、中村翫右衛門かんえもんとなった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いやに文字もんじあひだをくツ付けて模様もやうのやうに太く書いてある名題なだい木札きふだ中央まんなかにして、その左右にはおそろしく顔のちひさい、眼のおほきい、指先ゆびさきの太い人物が、夜具やぐをかついだやうなおほきい着物を着て
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
お米は名題なだいの淫奔娘で、すでに三人もててなし子を生み落して里子にだしており、この界隈からは然るべき聟をむかえることができない娘であった。
土地名題なだいのウマイ物店がタクサンある大阪だもの、食べ物は客の好みにまかせ、専門の料理店にまかせるのが至当。
重吉は、由之が武道教師をしていた中学での教え子であり、柔道の主将であったが、五年の中学生活を九年かかって卒業したという名題なだいの石頭であった。
復員殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
あの男が雲隠才蔵くもがくれさいぞうさ。わが社名題なだいのヤミの天才なんだよ。アイツが一人居りゃ、米だって酒だって自由自在さ。ボクたち寝ころんでいるうちに、みんな手筈を
現代忍術伝 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
このボスは東海道名題なだいのボスで、土地のボスではなく、このボスに渡りをつけるには、土地のボスの手を通す必要もあり、土地のボスもいくつかあるというわけで
当主はまだ若いが、名題なだいの貧乏で嫁をくれる者がなかったのを、夢酔が世話をしてやって知行所へ談じて出ない金をださせて格式以上の婚礼をさせてやったのである。
安吾史譚:05 勝夢酔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
豊島与志雄先生は名題なだいの猫好きで、多くの猫と長年の共同生活であるが、何が一番食いたいかというと猫が食いたい、それも自分のウチで飼ってる愛猫が食いたいとさ。
そのころ江戸湯島に長崎水右衛門という名題なだいの獣使いがおりまして、この人に雇われて鼠を使っていた藤兵衛がいま上方に住んでおります。妙庵先生、これを訪れまして
本宅の者は材木の買いつけに生れ故郷との往復もヒンパンであるから、地方で育った小番頭や小僧は云うまでもなく、東京生れの喜兵衛も重二郎も生地名題なだいの毒茸の知識はあった。
「天下名題なだいのホトケを造ったヒダのタクミはたくさん居りますが、お供え物をいただいた話はききませんや。生き神様のお供え物にきまっているから、おいしく煮ておあがり下さい」
夜長姫と耳男 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
神田の甚八といえば江戸名題なだいの賭碁のアンチャン。本職は大工だが、碁石を握ると素人無敵、本因坊にも二目なら絶対、先なら打ち分けぐらいでしょうなとウヌボレのいたって強い男。
律義名題なだいの呉氏も、神様のためには、人間の約束を破りかねない危険があった。
呉清源 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
ムカデの何とかという天下に隠れもない名題なだいの茶器に至って、質屋も後のセンギを怖れてか届け出たが、実はそれ以前にも相当な品物が同一の手からかなり度重って入質されていたのであった。
話をきくと全然無茶な答案で、名題なだいの吉屋信子女史を古屋信子と言つて済してゐる没常識だから落第に間違ひないと思つてゐたら、何百人ものうちたつた一人及第したといふのには呆れかへつた。
篠笹の陰の顔 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
話をきくと全然無茶な答案で、名題なだいの吉屋信子女史を古屋信子と言って済している没常識だから落第に間違いないと思っていたら、何百人ものうちたった一人及第したというのにはあきれかえった。
篠笹の陰の顔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
敏司は名題なだいの道楽書生であるが、ヒサに対する愛着の念はひたむきで、ヒサが中橋の妾になったのを一度ははげしく恨んだが、考えてみれば自分は親のスネをかじる書生の身であるから是非もない。
大阪で牢に入った大工の新八という名題なだいの兇状もちであるが、うまいことには牢を破って山中をうろつくうちに、熊と闘って額から頬へ平手うちをくらって、片目がつぶれ、片アゴをかみとられた。
私は東京といふ天下名題なだいの人間だらけの町に住んでゐるのだから。
私の小説 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
煙山は日本名題なだいの名スカウトであった。
投手殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)