まいり)” の例文
旧字:
今はめていても兇状持きょうじょうもちで随分人相書の廻ってるのがあるから、迂濶うかつな事が出来ないからさ。御覧よ、今本願寺まいりが一人通ったろう。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まいりがけ下ノ関に立より申候所、京師の急報在之候所、中々さしせまり候勢、一変動在之候も、今月末より来月初のよふ相聞へ申候。
遠くも無い寺まいりして御先祖様の墓にしきみ一束手向たむくやすさより孫娘に友禅ゆうぜんかっきせる苦しい方がかえっ仕易しやすいから不思議だ、損徳を算盤そろばんではじき出したら
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
然乍しかしながら御手紙まいり候ごとに一寸御返事に困るやうなるは、すなわち真直に遠慮なく所信を述べて申越され候為にして、外に類なきことと敬服いたし候事に候。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
昨日見にまいり候折参詣人さんけいにん柏手かしわでつ音小鳥の声木立こだちを隔てゝかすかに聞え候趣おおいに気に入り申候。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
文吉はすぐに玉造へお礼まいりに往った。九郎右衛門は文吉の帰るのを待って、手分をして大阪の出口々々を廻って見た。宇平の行方を街道の駕籠かご立場たてば、港の船問屋ふなどいやいて尋ねたのである。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
キテラのお社へおまいりをしに、この門を出て
たとえ中途で取殺されるまでも、おまいりをせずにくものかと、切歯はがみをして、下じめをしっかりとしめ直し、雪駄せったを脱いですたすたと登り掛けた。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
顳顬こめかみ即功紙そっこうし張りて茶碗酒引かける流儀は小唄こうたの一ツも知らねば出来ぬことなるべく、藁人形わらにんぎょうに釘打つうしときまいり白無垢しろむくの衣裳に三枚歯の足駄あしだなんぞ物費ものいりを惜しまぬ心掛すでに大時代おおじだいなり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
私が今日こちらへ泊って、翌朝あしたまいりをするッてことは、かねがね話をしていたから、大方旅行先たびさきから落合って来たことと思ったのに、まあ、お前、どうしたというのだろうね。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
或夜いつもの如く品川宿よりの帰りみちつれの者にもはぐれ、唯一人牛町うしまち一筋道ひとすじみちを大急ぎに歩みまいり候とおもいほか何処どこまで行き候ても同じやうなる街道にて海さへ見え申さず候ゆえ、これはてつきり
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
紅梅焼こうばいやきと思うのが、ちらちらと、もみじの散るようで、通りかかった誰かのわり鹿黄金きん平打ひらうちに、白露しらつゆがかかる景気の——その紅梅焼の店の前へ、おまいりの帰りみち、通りがかりに
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かつはまた百両の金の隠し場所にもこまり候故、そのまゝ引返し、とぼ/\と大門だいもんのあたりまでまいり候処、突然うしろより、モシ良乗殿りょうじょうどの、早朝より何処いずこへおでかと、声掛けられ、びっくり致し振返れば
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
意気事をめるちゅうから、しゃくに障ってな、いろいろしらべたが何事もないで、為方しかたがない、内に居る母親おふくろが寺まいりをするのに木綿を着せて、うぬ傾城買じょろうかいをするのに絹をまとうのは何たることじゃ
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二度目の婿むこを取り候後も、年々寒暑の折には欠かさず屋敷へ見舞にまいり候ほどにて、愚僧山内の学寮へ寄宿の後も、有馬様ありまさま御長屋おながや外の往来おうらいにて、図らず行逢ゆきあひ候事など思ひ浮べ、その日の昼下り
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)