出方でかた)” の例文
権威ある連中の来た時など、祝儀をもらった出方でかたが、花道に並んでその連中に見物の礼を述べたり、手打てうちをしたりして賑わしかった。
そのうちに馴染なじみの芝居茶屋の若い者や劇場の出方でかたなどが番附を配って来る。それは郵便のように門口かどぐちから投げ込んでゆくのではない。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と謂ツたが、おん出方でかたまで下司な下町式になツて、以前凛としたとこのあツた顔にも氣品がなくなり、何處か仇ツぽい愛嬌が出來てゐた。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
広田先生は夫ではなしを切つた。鼻から例によつてけむりく。与次郎は此けむり出方でかたで、先生の気分をうかがふ事が出来できると云つてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
二階から此方こなたの家の勝手口へ遠慮なくちりを掃き落すというので出方でかたのかみさんは田舎者は仕様がないとわるく言切っている。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一座は粂吉を初めとして、番頭格の馬春堂、用心棒の道中師の伊兵衛、若い娘芸人や出方でかたや男衆などの小屋者、すべて、すぐッて十七、八名
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
口上言いや出方でかたが飛んで行って、印度人を連れ戻そうとするのを、印度人は頓着とんちゃくなしに楽屋に逃げ込んでしまいます。
そんな出方でかたもあったか、などと言われると、僕は実に、どうにも不愉快だ。殴ったのは、僕の失態でした。ごめんなさい。かっとしちゃったのです。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
玉川向たまかはむかふ、すなは神奈川縣下かながはけんかぞくする方面はうめんには、あま有望いうぼう貝塚かひづかい。いや貝塚かひづかとしては面積めんせきひろく、貝層かひそうふかいのがいでもいが、土器どき出方でかたはなはわるい。
名に負う大家たいけの事でございますから、お大名様方にもお出入でいりが沢山ございまして、それが為めに奉公人も多人数たにんず召使い、又出方でかた車力しゃりきなども多分に河岸へ参りますゆえ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ある日の事、私が何気なく見物していますと、一人の出方でかたが、それはそれは見事なお菓子、今のようなもち菓子ではなく、手の入った干菓子の折に入ったのを持って来て
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
のち木挽こびき町の芝居守田勘弥かんや座の出方でかたの妻となったが、まもなく夫と死別し、性来の淫奔大酒いんぽんたいしゅに加うるにばくちを好み、年中つづみの与吉などというならずものをひきいれて
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と、出方でかたがいった。出方でかたは、いいわると、拍子木ひょうしぎをたたいて小舎こやおくはいりました。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
……一がいに茶屋や出方でかたを止そうとなすってみごとおしくじりなすった。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
空子 あなたの出方でかた次第よ。
五月晴れ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「いや、ペエペエならまだ好い。この間、僕が通ったら、ありゃあ出方でかたかしらと言っていた。あいつらはどうも口が悪くていけないよ。」
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
くめあらし粂吉は、その突き当りの二畳ばかりな狭い場所に、一枚のビラ幕を下げて鏡台をひかえていましたが、そこへ一人の出方でかたが腰をかがめて
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ありがとう御在ございます。お酒はどうも……。」と出方でかたは再びエヤシップを耳にはさんでもじもじしている。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それを一桝とれとか二桝ともいった。桟木ませは——ツマリ仕切りは、出方でかた——劇場員によって取りはずしてくれるから、連れであることは桝を見ればわかるのだった。
木戸番と役割とがここで組打ちを始めてしまうと、最初からこの近いところにいた口上言いや出方でかたや世話役の連中、これもあんまり市五郎が横柄おうへいで乱暴だから飛んで来て
広田先生は例によつて烟草を呑みした。与次郎は之を評して鼻から哲学のけむを吐くと云つた。成程けむ出方でかたが少しちがふ。悠然として太く逞ましい棒が二本穴をけてる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
楽屋に通ずる、高座の横の戸があいて、あわてた顔の出方でかたのひとりが、現れた。壁ぎわの板廊下を木戸口のほうへ急いだかと思うと、すぐ席主の幸七を呼んで引っ返して来た。
釘抜藤吉捕物覚書:11 影人形 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そういう出方でかたをなさろうとは、智慧者のポローニヤスにも考え及ばぬ事でした。ポローニヤスも、お言葉のように、としをとったものと見えます。なるほど、いやな噂が、もう一つあった。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
ずこれだけは余所よその物を拾ったのじゃねえ、うちの物を拾ったのだから、これは旦那様へ上げべえ、わしが斯うして人に見せればちっとは出方でかたのものも草履を大事でえじにしべえと思って、お手本に貯めたので
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この座の特色としては、在来の男の出方でかたを全廃して、場内の案内や食物の世話などは、すべて若い女に扱わせていたのである。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
芝居へ入って前の方の平土間ひらどまへ陣取る。出方でかたは新次郎と言って、阿久の懇意な男であった。
深川の散歩 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
広い寄席よせの真中にたった一人取り残されて、楽屋の出方でかた一同から、冷かされてるようなものだ、手持無沙汰てもちぶさたは無論である。ことさら今の自分に取っては心細い。のみならずあわせ一枚ではなはだ寒い。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
出方でかたの男は、楽屋がくや裏のむしろを上げて
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
劇場の出方でかたや茶屋の若い者などは、休場中に思い思いの内職を稼ぐのが習いで、焼鳥屋、おでん屋、飴屋、糝粉しんこ屋のたぐいに化けるのもあった。
半七捕物帳:54 唐人飴 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今の築地二丁目の出方でかたの二階へ引っ越して来た時には、女からもらった手切てぎれの三千円はとうに米屋町こめやまち大半あらかたなくしてしまい、のこりの金は一年近くの居食いぐいにもう数えるほどしかなかった。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
芸者、芸人、鳶者とびのもの、芝居の出方でかた博奕打ばくちうち、皆近世に関係のない名ばかりである。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
茶屋の若い者や出方でかたのうちでも、如才じょさいのないものは自分たちの客をさがしあるいて、もう幕があきますと触れてまわる。それにうながされて、少年もその父もその姉もおなじく急いで帰ろうとする。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と見れば、同じ軒の下の右側の窓はこれまで閉めきってあったのが、今夜は明くなって、燈影ほかげの中に丸髷の顔が動いている。新しいかかえ——この土地では出方でかたさんとかいうものが来たのである。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)