人波ひとなみ)” の例文
すると人集ひとあつまりのしている活動写真館かつどうしゃしんかんまえに、なえりきが、くろ人波ひとなみにもまれながら、はっきりとられたのです。
赤いえり巻き (新字新仮名) / 小川未明(著)
……その風かをる橋のうへ、ゆきつ、もどりつ、人波ひとなみのなかに交つて見てゐると、撫子なでしこの花、薔薇ばらはな欄干らんかんに溢れ、人道じんだうのそとまで、瀧と溢れ出る。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
しつもまれつする人波ひとなみのあいだから、およぐように顔をだした鞍馬くらま竹童ちくどうは、忍剣にんけん小文治こぶんじなどの、仲間なかまの者までむちゅうになってしのけながら
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
講堂の一同は、何事かと眼をそばだてているうちに、佐伯氏は、錯乱したように演壇を駆けおりると、人波ひとなみをおしわけながら入口から走り出して行ってしまった。
キャラコさん:03 蘆と木笛 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
彼は人波ひとなみの後をぬけ、神庫の前を通って暗いいちいの下まで来かかった。そのとき、踊りのむれからした一人の女が、彼の後からけて来た。彼女は大夫の若い妻であった。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
我先われさきその端艇たんてい乘移のりうつらんと、人波ひとなみうつて嘈閙ひしめさまは、黒雲くろくもかぜかれて卷返まきかへすやうである。
おもはずこゑだかにまけましよまけましよとあとふやうにりぬ、人波ひとなみにのまれて買手かひてまなこくらみしをりなれば、現在げんざい後世ごせねがひに一昨日おとつひたりし門前もんぜんわすれて、かんざしほん七十五せん懸直かけねすれば
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
開会中ルート氏が座長ざちょうとなって人波ひとなみなだめた手腕はすさまじいもので、当時の記事を読んで僕がつくづく感服かんぷくしたのは、かねがね聞いているアングロサクソン人種の秩序ちつじょ的なる一点である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
人波ひとなみてる狹き道をば、容赦ようしやもなく蹴散けちらし、指して行衞は北鳥羽の方、いづこと問へど人は知らず、平家一門の邸宅ていたく、武士の宿所しゆくしよ、殘りなく火中にあれども消し止めんとする人の影見えず。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
天柱てんちうくだけ地維ちいかくるかとおもはるゝわらこゑのどよめき、中之町なかのちやうとほりはにわか方角ほうがくかはりしやうにおもはれて、角町すみちやう京町きやうまち處々ところ/″\のはねばしより、さつさせ/\と猪牙ちよきがゝつた言葉ことば人波ひとなみくるむれもあり
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)