とん)” の例文
とん、と一つ、軽くせなかを叩かれて、吃驚びっくりして後を振返って見ると、旦那様はもうこらえかねて様子を見にいらしったのです。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
真顔作れる母は火鉢ひばちふちとん煙管きせるはたけば、他行持よそゆきもちしばらからされてゆるみし雁首がんくびはほつくり脱けて灰の中に舞込みぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
近所合壁きんじょがっぺき、親類中の評判で、平吉がとこへ行ったら、大黒柱より江戸絵を見い、という騒ぎで、来るほどに、たかるほどに、とん片時かたときも落着いていたためしはがあせん。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まれたは御自分でありませんが、いや、とんとそのぬしのような美人でありましてな、」
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とんとんとん梯子段はしごだんを上って来る人の気配がしました。旦那様は急に写真を机の引出へ御隠しなすって、一口牛乳を召上りました。白い手帕ハンケチで御口端をきながら、聞えよがしの高調子
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「根ツからゐさつしやらぬことはござりますまいが、日は暮れまする。何せい、御心配なこんでござります。お前様まえさま遊びに出します時、帯のむすびめをとんとたたいてやらつしやればいに。」
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
たがねはほんとうのを懐中ふところから、鉄鎚かなづちを取って、御新造さんとじっと顔を見合って、(目はこう入れたわ。)とん!(左は)ちょうと打込むさえに、ありありとお美しい御新造さんのびんのほつれをかけて
はくのついた芸娼妓くろうとに違いないと申すもあるし、えらいのは高等淫売いんばいあがりだろうなどと、はなはだしい沙汰さたをするのがござって、とんと底知れずの池にむ、ぬしと言うもののように、素性すじょうが分らず
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
老爺ぢいしはぶきひとわざとして、雪枝ゆきえ背中せなかとん突出つきだす。これに押出おしだされたやうに、蹌踉よろめいて、鼓草たんぽゝすみれはなく、くも浮足うきあし、ふらふらとつたまゝで、双六すごろくまへかれ両手りやうていてひざまづいたのであつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
今時誰が来るもんか。といううち門の戸をとん、丁、丁
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つゑつたかふを、とんたゝ
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
とんさををつく、ゆらりと漕出こぎだす。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)