鼻汁はな)” の例文
こっちで死ぬほど思っている人は鼻汁はなもひっかけてくれないし、いやでいやでたまらない奴は振っても巻いてもついて来やあがるし
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
御承知の通り鼻汁はなをかむ時は、是非鼻を抓みます、鼻を抓んで、ことにこの局部だけに刺激を与えますと、進化論の大原則によって
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
垣根の外には村の小供等が鼻汁はなを嘗めながら珍らしさうに眺めて居る。今度の洪水に就て、急に用事が出来たので昨夜ゆうべ出で来たと云ふお話。
大野人 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ある者は食事が長いからとて、またある者は鼻風邪を引いていて、ひっきりなしに鼻汁はなをかむからといって憎らしがる。
『しかしこの死態ざまをば情婦いろおなごい見せたナラ、大概の奴が愛想あいそ尽かすばい。眼球めんたまをばデングリがやいて、鼻汁はな垂れカブって、涎流よだくっとる面相つらあドウかいナ』
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
姉をおせいと言ッて、その頃はまだ十二のつぼみおとといさみと言ッて、これもまた袖で鼻汁はな湾泊盛わんぱくざかり(これは当今は某校に入舎していて宅には居らぬので)
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「後ろ手に縛られて首を絞められ、眼を廻して鼻汁はなだらけになって、大納戸なんどの布団の中にほうり込まれて居ましたよ」
それまではてんで鼻汁はなもひつかけなかつた、この教育法を、その頃から妙に真理の様にも考へさせられだした。
殴る (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
ただくわつと逆上のぼせて云ふべき臺辭せりふも忘れ、きまるさに俯向うつむいて了つた——その前を六騎のきたない子供らが鼻汁はなを垂らし、黒坊くろんぼのやうなあかつちやけた裸で
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
鼻の頭へ黄豆粉きなこをつけているものもある。上唇についた黒ごまと鼻汁はなとを一緒になめているものもある。
「でも、あの兄さん、いい人があるんだから俺らことなんか鼻汁はなも……の方なんだから、駄目の皮。」
錦紗 (新字新仮名) / 犬田卯(著)
「死んでも鼻汁はな垂らさんやうに、鼻の穴へ綿を詰めてる。……矢ツ張りこの人はえらいのう。」
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
そうして羊の毛織りの端くれで鼻汁はなをかんで、その鼻汁をかんだ切布を頭の上に載せて乾しながら、うつうつと坐睡いねむり好い心持に暖まって居るざまというものはないです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
謝ると、今度は、泣き声を変えて、甘えるように、わあん、わあんと、鼻汁はなをたらして泣く。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鼻汁はなかんだら鼻が黒もうばかりの古臭い書画や、二本指でひねつぶせるような持遊もてあそび物を宝物呼ばわりをして、立派な侍の知行何年振りの価をつけ居る、苦々しい阿房あほうの沙汰じゃ。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
吾輩は君たちなんぞに鼻汁はなもひつかけんぞと反りくり返つてやりたいだけのことさ。
狂人日記 (旧字旧仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
往来ゆききの人々は、いずれも鼻汁はなをすすったり、眼側まぶちを紅くしたり、あるいは涙を流したりして、顔色は白ッぽく、ほお、耳、鼻の先だけは赤く成って、身を縮め、頭をかがめて、寒そうに歩いていた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
鼻汁はなをたらしていると、東京へ行って笑われるで、綺麗きれいに行儀をよくしているだぞ。」と、父親はお庄の涕汁はななぞをんでやった。気の荒い父親も旅へ出てからの妻や子に対する心持は優しかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
薄暗い店先で、鼻汁はなを垂らした子供が早い線香花火を上げていた。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「お前たちがまだ、鼻汁はなをたらしていた時分のことだ」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なかには鼻汁はなをすするやつまでいる。
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「うん、出てくる鼻汁はなよ」
ハナとタマシヒ (新字旧仮名) / 平山千代子(著)
飯たき久七が茶碗酒ちゃわんざけをあおって、なみだ鼻汁はなをいっしょにこすり上げているさわぎ。いやもう、裏もおもてもたいそうなにぎやかさ。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いや御不審はごもっともですが論より証拠この通り骨があるから仕方がありません。すでに骨が出来る。骨は出来ても鼻汁はなは出ますな。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「オヽイ、馬丁さん、早くしてお呉れよ、からだがちぎれて飛んで仕舞しまひさうだ——戯譃じやうだんぢやねえよ」と、車のうちなる老爺おやぢ鼻汁はなすゝりつゝ呼ぶ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
それまではてんで鼻汁はなもひつかけなかつた、この教育法を、その頃から妙に真理の様にも考へさせられだした。
小熊秀雄全集-15:小説 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
指頭で紙巻烟草シガレットを製する事も出来、片手で鼻汁はなく事も出来るが、その代り日本の事情は皆無解らない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
あのが達者なときはたまにからかってもみたが、駒次郎という大きなえさに喰い付いているせいか、こちとらには鼻汁はなも引っかけなかった娘だが、死んでみると可哀想だ
流石さすがの謹厳な八代大将も総義歯いればをハメ直しハメ直し鼻汁はなと涙を拭い敢えず、苦り切ってシキリに汗を拭いていた武谷博士も、とうとう落城してニヤリとしたのが運の尽き。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
市をとほりながら、くしやみもしたし、ハンカチで鼻汁はなもかんだけれど肝腎のことはすつかり忘れてしまつてゐたのぢや。で、やつと気がついた頃は、市の関門を六露里ウェルストばかりも距たつてゐた。
跣足はだしで、そとから素ッ飛んで帰って来ると、青い鼻汁はなを横にこすって
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから主人はこれを遠慮なく朗読して、いつになく「ハハハハ面白い」と笑ったが「鼻汁はなを垂らすのは、ちとこくだから消そう」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
昨夜見た時はぴんぴんしていた人のこの有様に、諸行無常生者必滅とでも感じたものか、鼻汁はなを手の甲へすりつけながら、彦兵衛も寒々と肩をすぼめていた。
「極りは悪いが、言ってしまいましょう、実は——あの娘へちょいちょい当ってみたんですが、容貌きりょう自慢でツンツンしやがって、こちとらへは鼻汁はなも引っかけませんよ」
こもごも、挨拶する間、秀吉の方は、鼻汁はなばかりかんでいた。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老人は鼻汁はなすゝり上げつ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「てめえ惚れた女のことだけあっていやにくわしいぜ。しかし、武士りゃんこがついていたんじゃあ、手前なんかに鼻汁はなもひっかけやしめえ。お気の毒さまみたようだなあ」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
こちとらには鼻汁はなも引つかけないし——あの米吉といふ野郎は、氣の知れない若造ですよ。
鼻汁はなをこすりながら、むしろ彼は泣きたそうな顔をした。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こちとらには鼻汁はなも引っかけないし——あの米吉という野郎は、気の知れない若造ですよ、物腰は女みてえで妙に物静かなくせ、ひどく気象に激しいところがあって、小僧の春松などは
その一枚を揉んで、鼻汁はなをかんで捨てて——
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と小僧は鼻汁はなすすった。
驚くべきはブッシュの矜持きょうじだ。古典の傑作、古今の巨匠たちの最も芸術的な作品でなければ、ブッシュは——卑俗な言葉を使うことを許して貰えるならば、本当に鼻汁はなも引っかけないのだ。
「紙へ、鼻汁はなが垂れたわ」
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こちとらには鼻汁はなも引つかけなかつた娘だが、死んで見ると可哀想だ