黙々もくもく)” の例文
旧字:默々
相手あいて黙々もくもくとした少年しょうねんだが、由斎ゆうさいは、たとえにあるはしげおろしに、なに小言こごとをいわないではいられない性分しょうぶんなのであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そして髭を剃るのをやめて、黙々もくもくと、炉端ろばたへ行って坐った。松代は怖々おずおずと、炉端へ寄って行った。そしてお互いにしばらくっと黙っていた。
栗の花の咲くころ (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
丁度ちょうどその時、時計は午後十時のところに針がかさなったので、三人はそのまま黙々もくもくと立って、測定装置の前に、並んだのだった。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
網代笠あじろがさをかぶった三人の僧形は、黙々もくもくとして、そのれいをうけ、やがてあんないにしたがって、菊亭殿きくていどのの奥へ、スーッと姿すがたをかくしてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……あたしたちの仲間には、たとえば、小道具係りのように、すこしもむくいられない仕事を、喰うや喰わずで黙々もくもくとやっているひともあります。
キャラコさん:06 ぬすびと (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
千三は子どものときからなんとなく黙々もくもく先生がこわかった。しかしかれとして学問をするにはこの私塾しじゅくより他にはない。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
じいさんはとれば何所どこかぜくとった面持おももちで、ただ黙々もくもくとして、あちらをいて景色けしきなどをながめていられました。
銀蠅ぎんばえの飛びまわる四じょう部屋へやは風も通らず、ジーンと音がするように蒸し暑かった。種吉が氷いちごを提箱さげばこに入れて持ち帰り、皆は黙々もくもくとそれをすすった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
それでいて、黙々もくもくと寄りって、歩いているだけで、おたがいには、なにもかもが、すっかりわかりきっているのだ。あたたかい白砂だ。なごやかな春の海だ。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
大河がそこいらにあった木の枝を運び去ったあと、次郎は、まるで質のちがった二つのにがい味を、同時に心の中で味わいながら、黙々もくもくとして鋸をひいた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
やが嫁入よめいり行列は、沈々ちんちん黙々もくもくとして黒い人影は菜の花の中を、物の半町はんちょうも進んだころおい、今まで晴れていた四月の紫空むらさきぞらにわかに曇って、日があきらかに射していながら絹糸のような細い雨が
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
佐助もお嬢様が話しかけて来ない限りは黙々もくもくとしてただ過ちのないように気を配った。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
とちのきも、しらかばのも、黙々もくもくとして、やがてやってくる凋落ちょうらく季節きせつかんがえているごとくでありました。あたりのたににこだまして、夕暮ゆうぐれをげるひぐらしのこえが、しきりにしています。
谷間のしじゅうから (新字新仮名) / 小川未明(著)
「……」鴨田は黙々もくもくとして第一のタンクの傍へ寄り、スパナーで六角の締め金を一つ一つガタンガタンとはずしていった。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
回が進んだ、一対一が二対二となり、五回、六回におよんだとき、浦中は五点、黙々もくもくは三点になった。二点の相違! このままで押し通すであろうか。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
かしこい彼女は、黙々もくもくとして聞えぬふりで歩いていたが、そのひとみは、ときどき意外な表情をして民部にそそがれた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
にもかかわらず、いつも黙々もくもくとして式場にのぞみ、黙々として理事長と塾長とのあいさつをきき、そして黙々として帰って行く。次郎には、それが不思議でならないのだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
黙々もくもく千鳥ちどりのように川幅かわはばっていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
黙々もくもく先生がいもだわらを載せた豆腐をにない、そのそばに豆腐屋のチビ公がついてゆくのを見て町の人々はみんな笑いだした。ふたりは黙々塾もくもくじゅくへ着いた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
「ちょっと私から申上げますが」と先刻さっきから黙々もくもくとして卓子テーブルの上に表向きにしたこまを種類どおりに綺麗に並べあげて、その表をつくづくと眺めていた帆村探偵が言った。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その間、荒田老は、黒眼鏡をかけた顔をおくのほうに向け、黙々もくもくとして突っ立っていた。事務室にいた塾生たちは、入り口の近くに重なりあうようにして、その光景に眼を見はっていた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
超短波は電気天井を抜け、地球の羈絆きはんを切って一直線に宇宙へ黙々もくもくとして前進しているのです。
科学が臍を曲げた話 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
最前さいぜんより黙々もくもくとして、話をきいていたゴルドンは、このときはじめて口を開いた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
岩は黙々もくもくとして室に入った。右手を深くポケットに入れたまま、大変疲れている様子だ。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
警官はサッと三つの隊にわかれ、黙々もくもくとして敏捷に、たちまち行動を起しました。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
漆黒しっこくの夜空の下に、巨大な建物が、黙々もくもくとして、立ち並んでいた。えくさい錆鉄さびてつの匂いが、プーンと鼻を刺戟した。いつとはなしに、一行は、ぴったりと寄り添い、足音を忍ばせて歩いていた。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼女は黙々もくもくとして、ウイスキーを私達の前に並べたが
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
辻永は左右へ眼を配りながら、黙々もくもくと歩いてゆく。
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
検事は黙々もくもくとしてうなずいた。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)