すくな)” の例文
江戸先哲の嘉言善行にして世に伝えらるるものは既にすくなくない。鷲津毅堂母子の逸事の如きは特に記すべき価なきものかも知れない。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
香取秀真かとりほつま氏が法隆寺の峰の薬師で取調べたところにると、お薬師様に奉納物ほうなふものの鏡には、随分すぐれた価値ねうちのものもすくなくなかつたが
すくなくも道学者流の偽善はない。まことに明朗快闊、すべからく男性たるものかくの如く晏如あんじょたるべしといいたいところである。
現代能書批評 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
またついでに言うがよく植物学にも用うる毛茸を往々モウジと発音して教えている人がすくなくないが、これはモウジョウで茸にジの字音は無い。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
誰しも然樣さう自分の思つたやうに物事の運べて居るものはすくないのであるから、歳末には日月の逝き易くして、流水奔馬の如くなるを今更ながら感歎し
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
奥様はそと御歓楽おたのしみをなさりたいにも、小諸は倹約しまつ質素じみな処で、お茶の先生は上田へ引越し、謡曲うたいの師匠はあめ菓子を売て歩き、見るものも聞くものもすくないのですから
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
賃銀値上の運動にたづさはつた連中は、それを好い汐に馘首されたものもすくない数ではなかつた。
籠の小鳥 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
二に曰く、あつく三宝を敬へ、三宝はほとけのりほふしなり、則ち四生よつのうまれつひよりところ、万国の極宗きはめのむねなり。いづれの世何の人かみのりを貴ばざる。人はなはしきものすくなし、く教ふるをもて従ひぬ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
然るにいわゆる芸人に名取の制があって、今なお牢守ろうしゅせられていることには想い及ぶものがすくない。尋常許取ゆるしとりらんは、芸人があるいは人のそしりを辞することを得ざる所であろう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
今日の浮浪民たる所謂山家さんかなどという類の者の中にも、この浮浪系統の者で、昔から帝国臣民の戸籍に這入らず、代々浮浪生活を継続しているのもすくなからずあろうと思います。
すべてそのころの歴史の局面は、遠く、ひろく、三韓の野山を包み、干戈かんくわつねに動きて止まず、任那の日本府また危からんとするの間に於て、悲壮なること、酸鼻なること、太だすくなしとせず。
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
此の河岸の古本屋で珍書をあさる人もすくなくないが、掘出物は滅多にないらしい。僕もしばしば、眼を皿のようにし、片端から漁って歩いたが、ニザールの仏文学史四巻を二十フランで買ったのが関の山だった。
愛書癖 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
その男のいふのでは、牛程人間の役に立つものはすくない。田をたがへし、荷車をき、頭から尻尾しつぽさきまで何一つ捨てるところも無い。
孔子は「人飲食せざるはし、く味を知るものすくなきなり」と言っているが、確かに、その通りだと思うのである。
料理も創作である (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
自ら内より發する病もすくなくはない。山林庭園の草木を枯死せしむるものはひとり俗客の跋渉によるが爲めのみではない。樹木にはおのづから樹木の病がある。
十年振:一名京都紀行 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
元の天下を得る、もとより其の兵力にると雖も、成功の速疾なるもの、劉の揮攉きかくよろしきを得るにるものまたすくなからず。秉忠は実に奇偉卓犖きいたくらくの僧なり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
これまで発行せられたいろいろの雑誌に私の書いた小品文はそうすくなくなかった。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
世間を見るに、い声がまず口唇くちびるから出るのはめずらしくも有ません。然し、この女のようなのもすくないと思いました。一節歌われると、もう私は泣きたいような心地こころもちになって、胸が込上げて来ました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
女流声楽家三浦たまきと今は故人の千葉秀浦しうほとの関係は一頻ひとしきやかましい取沙汰とりさたになつたので、世間には今だにそれを覚えてゐる人もすくなくあるまい。
いま小唄川柳都々一の三形式についてはしばらく言はず、まず俳諧と狂歌とについて見るにこの二者はその歴史的関係たがいに相深くその趣味また相似たる処すくなからず。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
とは言っても、孔子の言った如く、「人飲食せざるはし、く味を知るものすくなきなり」は事実である。
味を知るもの鮮し (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
隅田川の水としいえば黄ばみ濁りて清からぬものと思いれたれど、水上にて水晶のようなる氷をさえ出すかと今更の如くに、源の汚れたる川も少く、生れだちより悪き人のすくなかるべきを思う。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
三タビ稿ヲ改メントスルノ意図ナキニ非ラザリキ。然レドモ当初稿ヲ脱セシ時ヨリ既ニ半歳ヲ過ギ一時蒐集しゅうしゅうシタリシ資料ノ今はやクモ座右ニとどメザルモノマタすくなシトナサズ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ところが、「人飲食せざるはし、く味を知るものすくなきなり」
道は次第に狭し (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
其集には却て収載せられてゐないものがすくなくないので、これを編輯したいと言ひ、白井は三代目種彦になつた高畠転々堂主人の伝をつくりたいと言つて、わたくしを驚喜させた。
来訪者 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
宗子そうし城邑ヲ納メラルヽモシカモ朝廷更ニ駿遠参三国ヲ賜ヒ、先祀せんしヲ奉ゼシム。君あずかツテ力アリ。然レドモ謙冲敢テ功ニ居ラズ。マタカツテ人ニ語ラズ。ここテ世コレヲル者すくなシ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)