高価たか)” の例文
旧字:高價
人々は、緊張が去ってざわめきはじめ、やれやれ、気紛きまぐれにもせよ五十万ミルは高価たかいと、ようやく、方々で扇の音が高まってきた。
人外魔境:05 水棲人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
月給の高価たかいのを目標に集まって来たような連中ばかりだから、内地の官吏よりもズット素質が落ちていたのは止むを得ないだろう。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
へ、お生憎さまだて! どんなえれえ若者だか、ひとめお眼にかけてえもんだ! 長上衣スヰートカだけでもおめえ短衣コフタと赤革の靴より高価たかかんべえ。
甘藷さつまいもやすいからとか、七面鳥の肉は高価たかいからとかいふ、その値段の観念にわづらはされないで、味自身を味はひ度いといふのだ。
その言葉が思いがけず自分の今たことのなかにあると思った。石鹸は自分にとって途方もなく高価たかい石鹸であった。自分は母のことを思った。
泥濘 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
「あア悉皆みんな内へいれちゃったよ。外へ置くとどうも物騒だからね。今の高価たかい炭を一片ひときれだって盗られちゃ馬鹿々々しいやね」
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
どうせ、中身はたいして変らぬのだが、特製といえば、なにか治りがはやいように思って、べらぼうに高価たかいのに、いや、高価いだけに、一層売れた。
勧善懲悪 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
あの手袋は、なかなか高価たかいものらしいが、十秒かせいぜい三十秒の演技のために、随分金をかけるものである。
パーティ物語 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「驚ろきましたねえ、薬の高価たかくなったにも。このソマトーゼはもとは六円五十銭でしたが、只今は十円近いでしたよ。いや実に高価たかくなったものです」
草藪 (新字新仮名) / 鷹野つぎ(著)
国の財政に赤字が多く、外国為替がとても高価たかいときに、外国品を好んで買うことなぞはいかがなものでしょう。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
五文の木戸銭は高価たかくはないが、芸人は劉ひとり、それも、刀操術などと大きく、武張ぶばったところで、能とする演技は、例の小刀投げのいってんばりだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ある宿屋に着いてその宿屋から秣草すなわち小麦わら、麦藁、豆の木などを買うて馬にやらなければならない。ところが此秣これがなかなかチベットでは高価たかいのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「ああすこしいい気もちになった。これが三碗ニシテ丘ヲ越エズの酒か。高価たかいものにつきゃあがった」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ずいぶん高価たかい水だが、生温なまぬるになった水でも、お氷が溶けた水だといえば、ありがたい気がする。
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
事実あの「大名物」より安かりし器はなく、またそれ等より今において高価たかくなった器はないのです。清貧においてでなくば、富有はないと説かれるのと同じなのです。
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
品物は品物なんですから、綿布三尺なら三尺、糸ひと巻ならひと巻、品物はちゃんと渡すんですからな、また高価たかいと云ったって御禁制の品を裏で売ってやるんですから
良人うちのひとがそれを聞きまして、そんな馬鹿な話はない、家にいもしない猫に高価たかい魚をたくさん持って来るには及ばないから、もう止した方がいいと七之助さんに意見しました
半七捕物帳:12 猫騒動 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私も度々たびたび行きました。また行くつもりです。しかし、もうあんまり掘出し物はありませんな、高価たかいばかりで。いや、たかいの何のって、とても私なんかにあ手が出ません。
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
おひるになったんで御飯たべようとすると、いまはまだ食堂があいていません、というんで、高価たかいスペシアルを部屋へとったの。七時頃、夕飯をたのむと、またそういうの。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「この前に出よつた時は千二百円ほど借銭をさらすし、其の前の時も彼れ是れ八百円はあつたやないか。……今度の千円を入れると、三千円やないか。……高価たかい養子やなア。」
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
高価たかい肥料もフンダンに使わなければならんような、それでいて草や木がその養分を吸い上げてくれるのを待っているような、そんな旧式な、そんな消極的な農芸じゃないんです。
火星の魔術師 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「縁起はどうでもいが、そんな高価たかいものを買う勇気は当分こっちにもなさそうだ」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
食事に彼らは倹約するつもりで、定食を断わって質素な食べ物を注文したが、それがまた非常に高価たかくて、おまけにすぐ腹がすいた。彼らの幻影は到着すると間もなく消えてしまった。
そしてやっぱり球根を見ていられたがそこから大きなのを三つばかりって僕にれた。僕がもじもじしているとこれは新らしい高価たか種類しゅるいだよ。きみにだけやるから来春えてみたまえと云った。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「そうね。ラジウムて随分ずいぶん高価たかいんでしょ」
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
高価たかい!」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つまりアンナ風な各国語に通じた正直な人間を高価たかい金でレコード用に雇っておいて、極めて重要なメッセージを送る場合に使うんだ。
人間レコード (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「どうですかね、それでは高価たかいとでも言いなさるんで?」と言ってソバケーヴィッチは、やがてこう附け加えた。「じゃあ、あんたの附値つけねはどの位なんで?」
「それなら下痢止めの高価たかい良い薬が、ちゃんと買ってやってあるではないか、何故あれを使わない」
草藪 (新字新仮名) / 鷹野つぎ(著)
わが家のアメリカ教育が、意外に高価たかくつくので、さすがの賢夫人も、嫌気いやきになっているらしい。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それを高価たかすぎるとか物が悪いとかぬかす、たしかに三日ですり切れる綿布もあるでしょう、糸なんぞふけていて物が縫えないかも知れない、……だがそれだからってなんでしょう
「そうだとも。炭一片とお言いだけれど、どうだろうこの頃の炭の高価たかいことは。一俵八十五銭の佐倉さくらがあれだよ」とお徳は井戸から台所口へ続く軒下に並べてある炭俵のひとつを指して
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
これは新たに造らせるからこんなに高価たかいんだろうということになって、そこで方々の書物商、酒屋、乾物商、葉茶屋などへ人を急派して探させてみたが、どの商店にもほとんどないし、二
夏は水鉄砲と水出し、取分けて蛙の水出しなどはひどく行われたものでした。秋は独楽こま鉄銅かねどうの独楽にはなかなか高価たかいのがあって、その頃でも十五銭二十銭ぐらいのは珍らしくありませんでした。
我楽多玩具 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
物価だけ無闇に高価たかくなったけれども銭は殆んど通用しなくなった。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
結局、鷺太郎は高価たかい社会学の月謝を払ったようなものだった。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
高価たかく踏んで、四十五文か、精ぜい五十文の物だった。
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「あら、——」とマスミはこっちへクルリと振り向き「嘘よ、そんなこと、気がついたのは家へ送っていただいてからよ。だってそうでしょう。お隣りの独身紳士と取引する気なら、なにもあんな高価たかいホテルまで銜えこみはしないわよ」
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いや あれは高価たかいのです
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
高価たかすぎるかえ」
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
毛皮売りは大道商人の中でも一番高価たかいものを売るのだそうだが、まだこのほかにも一円以上のものを大道で売るのが沢山居る。
貂皮てんはなるほど高価たかかったので買わなかったけれど、そのかわりに、店じゅうで一番上等の猫の毛皮を——遠目にはてっきり貂皮てんと見まがえそうな猫の毛皮を買った。
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
お徳が朝から晩まで炭が要る炭が高価たかいて泣言ばかり言うのも無理はありませんわ
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
高価たかいのは当然のことじゃありませんか、この理屈がわからないで、野良犬どもはよそへぬけ買いにゆく、彼らは御政治を嘲笑ちょうしょうし私どもを破産させようとしているのです、この際どうしても
「あら、困るわねえ合わない帳簿なんて。高価たかいもの、それ?」
字で書いた漫画 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
「プールの水を使われると、高価たかいものにつくのだが」
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
珍しい本だと思えば高価たかそうだし、欲しさは欲しし……店番のオヤジのつらア間抜けに見えるし……てんで、相当お立派な御人格の方がツイ
悪魔祈祷書 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「へっ! 成程お前さんも相当なもんだ! よく考えて御覧なさい! そんなものがお前さんとこでは、一体なんです、ダイヤモンドほど高価たかいものだとでもいうのですかね?」
「然しちょっと高価たかくつきますぜ梶井さん、相当に高価くつくがいいですか」
山椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
こんなふうに日向ソルよりも日蔭ソンブラの席がずっと高価たかい。