雉子きゞす)” の例文
燒野の雉子きゞす、夜の鶴といふ古くさいむかしのことばどほりな母にたいして、自分も、古い子どもで居ようといふ氣もちからであつた。
折々の記 (旧字旧仮名) / 吉川英治(著)
寄つてお出でよと甘へる聲も蛇くふ雉子きゞすと恐ろしくなりぬ、さりとも胎内十月の同じ事して、母の乳房にすがりし頃は手打てうち/\あわゝの可愛げに
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
お父さまは敏ちやんの寢顏を打戍うちまもり乍ら仰有おつしやいます「圭一郎に瓜二つぢやなう」とか「燒野の雉子きゞす、夜の鶴——圭一郎は子供の可愛いといふことを知らんのぢやらうか」
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
思ふ事貴賤きせん上下の差別さべつはなきものにて俚諺ことわざにも燒野やけの雉子きゞすよるつるといひて鳥類てうるゐさへ親子の恩愛おんあいにはかはりなしかたじけなくも將軍家には天一坊はじつの御愛息あいそく思召おぼしめさばこそかく御心を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
澄みとほる小夜さよ雉子きゞすのこゑきけば霜こごるらし笹の葉むらに
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
谷深み五百枝いをえ大楠おほくす立ちならぶしゞまの森に雉子きゞすこもらふ
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
鳴く聲きけば雉子きゞすなり。
北村透谷詩集 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
つておでよとあまへるこゑへびくふ雉子きゞすおそろしくなりぬ、さりとも胎内たいないつきおなことして、はゝ乳房ちぶさにすがりしころ手打てうち/\あわゝの可愛かわいげに
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
のみねといと信實まめやか看病みとりなせども今ははや臨終いまはの近く見えければ夫婦ふうふ親子の別れのかなしさ同じ涙にふししばおこる日もなき燒野やけの雉子きゞす孤子みなしごになる稚兒をさなごよりすてゆく親心おやごころおもまくら
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
春永うしていたづらに吹く微風そよかぜに垂尾の雉子きゞすあらはれにけり
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
いきとし生る物子を愛せざるはなし燒野やけの雉子きゞすよるつる皆子を思ふが故に其身のあやふきをもかへりみずいはんや萬物のれいたる人間界にんげんかいに於てをや然るに情け無くも吉兵衞は妻の死去せしより身代を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
道のべに雉子きゞすあらはれうつくしき尾を曳きぎる春ふけにけり
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
手早てばやりておわすあそばしたかととりすがりてるゝ燒野やけの雉子きゞす我子わがこならねどつながるえんとてはゝをんなこゝろよわくオヽおたかいなたかどのかなんとして此樣このやうところたづねてれましたとおろ/\なみだこゑきゝけてや膝行出いざりいづる儀右衞門ぎゑもんはくぼみしにキツとにらみてコレなに
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)