陣羽織じんばおり)” の例文
その話を聞いた老人夫婦は内心この腕白わんぱくものに愛想あいそをつかしていた時だったから、一刻も早く追い出したさにはたとか太刀たちとか陣羽織じんばおりとか
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と、二、三十人ほどの手下が、そこへ、ぎとった太刀や陣羽織じんばおりや金をつんでみせると、呂宋兵衛るそんべえ土手どての上からニタリと横目にながめて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
桃太郎ももたろうはおさむらいるような陣羽織じんばおりて、かたなこしにさして、きびだんごのふくろをぶらげました。そしてもものかいてある軍扇ぐんせんを手にって
桃太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
当方武士数十人、鎧兜よろいかぶと、抜き身のやり陣羽織じんばおりを着し、騎馬数百人も出、市中は残らず軒前のきさき燈火あかりをともし、まことにまことに大騒動にこれあり候。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一郎はおかしいとおもって、ふりかえって見ますと、そこに山猫が、黄いろな陣羽織じんばおりのようなものを着て、緑いろの眼をまん円にして立っていました。
どんぐりと山猫 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
肩や両脇りょうわき太紐ふとひもで荒くかがって風のけるようにしてある陣羽織じんばおり式の青海流の水着をぐと下から黒の水泳シャツの張り付いた小初の雄勁ゆうけいな身体がき出された。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
半鐘はんしょうの音はその暴風雨あらしの中にきれぎれに響いた。郡奉行こおりぶぎょうの平兵衛は陣笠じんがさ陣羽織じんばおり姿すがた川縁かわべりへ出張して、人夫を指揮して堤防の処どころへ沙俵すなだわらを積み木杭きぐいを打ち込ましていた。
水面に浮んだ女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
海陸飛脚の往来櫛歯くしのはくよりもいそがわしく、江戸の大都繁華のちまたにわか修羅しゅらちまたに変じ、万の武器、調度を持運び、市中古着あきなう家には陣羽織じんばおり小袴こばかま裁付たっつけ簑笠みのかさ等をかけならべ
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
もとの家老とかの屋敷やしきを買い入れて、そのまま開業したという話だが、なるほど見懸みかけからしていかめしい構えだ。家老の屋敷が料理屋になるのは、陣羽織じんばおりい直して、胴着どうぎにする様なものだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
蕃人巡査花岡一郎は始め巡査の制服を着て司会者側に参列していたが、いつの間にか制服はぬぎすて、陣羽織じんばおりに似た麻の蕃布ばんぷを身にまとっていた。彼が蕃装することはめったにないことである。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
妻籠の大野屋の娘というが二人ふたりとも烏帽子えぼし陣羽織じんばおりのこしらえで、引き馬に乗りながら静かにその門前を通った。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と、すぐに廊下ろうかをふみ鳴らしてきた三人の武者むしゃがある。いずれも、あざやかな陣羽織じんばおりを着、大刀だいとうりうたせていた。まなこをいからせながら、きッとこなたにむかって
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
の夏休み中で、一番面白おもしろかったのは、おじいさんと一緒いっしょに上の原へ仔馬こうまれに行ったのと、もう一つはどうしても剣舞けんばいだ。とりの黒いかざった頭巾ずきんをかぶり、あのむかしからの赤い陣羽織じんばおりた。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そこのとりで、ここの胸壁の跡には、打ち捨ててあるかぶとや小銃や鎗や脇差わきざしや、それから床几しょうぎ陣羽織じんばおりなどの間に、目もあてられないような敵味方の戦死者が横たわっている。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
陣羽織じんばおりのようなかわそでなしに、鮫柄さめづかの小刀を一本さし、年は四十がらみ、両眼するどく、おまけに、仕事場で火傷やけどでもしたけがか、片鼻かたはなが、そげたようにけている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)