鋸屑おがくず)” の例文
第三の函からこれもまた鋸屑おがくずとも鋼鉄はがね屑とも見分けの付かぬ、例の詰物を取り出して、マクドナルド博士とともに掌で揉んでみたり
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
一軒一軒虱潰しらみつぶしに出所を調べてまわっても構わない覚悟で、飯田町一帯の材木置場の隅から隅まで鋸屑おがくずを掻きまわしたもんだ。
近眼芸妓と迷宮事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私は鋸屑おがくずにかわで練っていたのだ。万豊の桐畑から仕入れた材料は、ズイドウ虫や瘤穴こぶあなあとおびただしくて、下彫の穴埋あなうめによほどの手間がかかった。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
錠前がはずれて鋸屑おがくずがばらばらと落ちた。クリストフは室の中に駆け込み、窓に駆け寄ってそれを開いた。冷たい空気がどっと流れ込んできた。
従ってこの集の中には「鋸屑おがくず移徙わたましの夜の蚊遣かな 正秀」とか、「ふむ人もなきや階子はしごの夏の月 臥高」とか、「上塗うわぬりも乾や床の夏羽織 探芝」
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
彼はテーブルの上にあった吸墨用の箱から鋸屑おがくずを機械的につまみ出しながら、ちょっと考え込んだ、そしてつけ加えた。
薊の匕首あいくちは彼の脾腹ひばらにふかく入った儘離れなかった。狂う程かまきりは自ら血をしぼって。その血は、月に青光りして、あたりの鋸屑おがくずに斑々とこぼれた。
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雨降がつづいて、木片きぎれ鋸屑おがくずの散らかった土間のじめじめしているようなその店へ、二人は移りこんで行った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
製板所の構内だということはもくもくした新らしい鋸屑おがくずかれ、のこぎりの音が気まぐれにそこをんでいたのでわかりました。鋸屑には日がって恰度ちょうどすなのようでした。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
トロカデロ宮前を通り過ぎると、小さいキャフェには昔風に床へ鋸屑おがくずを厚くいているのが匂った。トロカデロ宮を裏へまわった広庭はセーヌの河岸で、緩い傾斜になっていた。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
小屋のうちにはただこればかりでなく、両傍りょうわきうずたかく偉大な材木を積んであるが、そのかさは与吉のたけより高いので、わずか鋸屑おがくず降積ふりつもった上に、小さな身体からだ一ツ入れるより他に余地はない。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
木骨混凝土もっこつコンクリートの二枚の間に、鋸屑おがくずや畳の古床を詰めて絶縁体にしてあるんです……ところで、豚のやっこさん、あんなところへおしこめられて、食うものがなくなり、苦しまぎれに
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
乃公は草の上に坐って弁当を開けた。今日は玉子焼かと思ったらパンだった。道理で少し軽いと思った。それではバターか、ジャムか、と思ってって見たら、鋸屑おがくずが入っていた。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
葉子は鋸屑おがくずを塗りこめてざらざらと手ざわりのいやな壁をなでて進みながらようやく事務室の戸の前に来て、あたりを見回して見て、ノックもせずにいきなりハンドルをひねった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
と、エミリイは今までにないうつろな眼をして、鋸屑おがくずを詰めた手足を棒のように投げ出しているのです。たった一人のエミリイまでこんなでは——セエラはがっかりしてしまいました。
「マネキン人形は鋸屑おがくずと紙を型にはめて、そとがわにビニールを塗るのですか」
悪霊物語 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
はつよきの音、板削るかんなの音、あなるやらくぎ打つやら丁々かちかち響きせわしく、木片こっぱは飛んで疾風に木の葉のひるがえるがごとく、鋸屑おがくず舞って晴天に雪の降る感応寺境内普請場の景況ありさまにぎやかに
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
歯の浮くような・やにさがった調子で「人形は美しい玩具だが、中味は鋸屑おがくずだ」などという婦人論を弁じなければ気が済まぬのか? 二十歳のスティヴンスンは、気障のかたまり、厭味いやみ無頼漢ならずもの
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
その穴の口に何か色のついた粉か鋸屑おがくずを持っていき、一方牧場の泉の上に濾過器を仕掛ければ、水の流れによってはこばれる粉粒がそれに引っかかるだろうからそれで判る、と提案した人があった。
窓の下、畳の上にわずかばかり残った鋸屑おがくずを見付けたのです。
鋸屑おがくずをこしらえて、それを隠れの入口のところにく。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
間に鋸屑おがくずを詰めた客用の寝室がありました。
斧を持った夫人の像 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
そっと覗いてみると、暗い、微かな光線の中に一面に散らばった鋸屑おがくずの上に、百斤入きんいりと見える新しい味噌桶が十個、行儀よく二行に並んでいる。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
が、ほんとうの値打ちというものはむしろ、皆さんがはなも引っかけずにいられるそこにある函や、鋸屑おがくずのような詰物、絵やこの巻物なぞの方にあるのですよ
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
毛脛けずねが、出ている。鋸屑おがくずだらけなまげが、そッくり返っている。二寸ほど鞘辷さやすべりしている大刀の刀身も、賭場で、勝負をしてしまったのか、あわれにも、竹である。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それ見い。云わんこっちゃないわい。百斤入の桶が十個に味噌がタッタ三百五十斤……底の方に鋸屑おがくずと小判が沈んどるに、きまっとるやないか」
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
次いで私共は、函の中に納められた諸物品を調べ始めましたが、まず第一に鋸屑おがくずとも付かず、鋼鉄はがね屑とも付かず、またセロファン屑とも付かぬ、この軽い綿のごときものであります。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
鋸屑おがくずを着けている材木屋、上方流れの安芸人やすげいにん肩肱かたひじを突ッ張っている無法者、井戸掘りらしいひとかたまりの労働者、それとふざけている売笑婦、僧侶、虚無僧——そして武蔵のような牢人者。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
男は切尖きっさき鋭く万平を松板の間に追詰めながら、すきがあったら逃げよう逃げようとしたので、万平は足元の鋸屑おがくずを掴んでは投げ掴んでは投げ防ぎ戦った。
芝居狂冒険 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
十個の味噌桶の底にそれぞれまがい小判を平等に入れて、上から鋸屑おがくずおおいかぶせ、その上から味噌を詰込んでアラカタ百斤の重さになるように手加減をした。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かついでいた杉皮の束を、鋸屑おがくずの山盛りの上に置くと、ハテナという思い入れ宜しくあって抜足さし足も半分、芝居がかりに壁のように並んだ松板の蔭に近寄った。
芝居狂冒険 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
暗黒の底に水飴みずあめのように流れ拡がる夥しい平炉の白熱鉱流は、広場の平面に落ち散っている紙屑、藁屑わらくず鋸屑おがくず、塗料、油脂の類を片端から燃やしつつグングンと流れ拡がって行く。
オンチ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
飯田橋の停車場の方へ抜けて行く途中の、鋸屑おがくずのフワフワ積った小径の上に、コロリと俯伏うつぶせに倒れている……材木の蔭から躍り出た兇漢に、アッという間もなく脳天を喰らわされたんだね。
近眼芸妓と迷宮事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
拳固げんこを固めてポカリと頭をたたき割ったら、鋸屑おがくずの脳味噌がバラバラと崩れ落ちて来た。胴を掴み破ると、ボール紙の肋骨ろっこつが飛び出した。その下から又、薄板の隔膜と反故紙ほごがみの腸があらわれた。
微笑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
鋸屑おがくずだらけの道をけつまろびつ逃げて行った。
芝居狂冒険 (新字新仮名) / 夢野久作(著)