はり)” の例文
また二間ばかりの竿では、此処ここでは鉤先はりさきが好い魚の廻るべきところに達しない。岸近きしぢかに廻るホソの小魚こざかなしかはりには来らぬであろう。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いつものように黄昏たそがれの軒をうろつく、嘉吉引捉ひっとらえ、しかと親元へ預け置いたは、屋根から天蚕糸てぐすはりをかけて、行燈を釣らせぬ分別。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこでホヲリの命が釣道具を持つて魚をお釣りになるのに、遂に一つも得られません。そのはりまでも海に失つてしまいました。
小娘は釣をする人の持前の、大いなる、動かすべからざる真面目の態度を以て、屹然きつぜんとして立っている。そして魚をはりから脱して、地に投げる。
(新字新仮名) / ペーター・アルテンベルク(著)
はりがなにかにひっかかったんだろう」益村はそう云った、「心配するな、のない鉤に魚はくいつきゃあしないから」
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かねて四郎と二人で用意しておいた——すなわち田溝たみぞで捕えておいたどじょうをはりにつけて、家を西へ出るとすぐある田のここかしこにまきました。
あの時分 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
乃公は伯父さんを魚屋の店に吊してある鮟鱇あんこうと見立て、冗談半分に釣る積りで、口のあたりはりを下した。遠くでやる仕事だから、どうせ巧くは行かない。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
物置からはり箱を出してくることであったり、時には庭の梅の木の枝ぶりをめることであったりした。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
そういうのははりにかぶさりすぎなくていいんだ。村のミミズはあんまり大きすぎる。銀魚シャイナーなんか鉤までとどかないうちにそこからひと御馳走いただいてしまうからね。
はりづれのしてゐない鮎といふものは、全く渓谷の処女で、新らしい、荒い、美しいものである。
夏と魚 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
唯だ絲の降りてゐる海底が岩石原であるため、馴れないうちはよくはりをそれに引つ懸けました。
樹木とその葉:33 海辺八月 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
はや釣りの寄せ餌を投げ込んで、先づ一服する。心の眼に今の寄せ餌に集つて来る愛すべき彼女等を視る。程こそよけれと竿を振る。はりは思ふ壺に落ちて、続いて浮子うきが立つ。
健康を釣る (新字旧仮名) / 正木不如丘(著)
カガシラとは獣毛を赤黒黄等に染めたる短きものを小さきはりにつけて金または銀の小さき頭がついてゐる。鮎はこの美しき鉤を見て蚊と思ひあやまりて喰ひつくといふ事である。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
一番味のいのは友釣で漁ったのできた鮎を水の中へ泳がせると外の鮎が追駆おいかけて来てはりに掛ります。それは鮎が充分を食て心地好ここちよく遊んでいる時でなければ決して友を追いません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
はりのついたえさを食った魚のように、自分を生命の危難にっつけてしまった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
私の甥はその間中はりにかかったはえも忘れるくらい、聞き耳を立てて居りましたが、この夢の話を聞いている中は、橋の下の涼しさが、何となく肌身にしみて、そう云う御姫様の悲しい御姿を
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この事は人間よりも魚の方によく披露しておき度いものだ。もしか鮎や、鰻のやうな無益やくざな魚が、ひよつくりはりにかからうものなら、露伴氏は腹立紛れに鰻よりもずつと長い詩を作るかも知れない。
はりを産む風は輝く宝石のごとく私をおさへてうごかさない。
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
はりにも似たる爪先の雨にぬれたる岩ばなに
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
なんぢうみにゆきてはりれよ。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
けれど、はりを離すと、
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
あとはまた直ぐはりをくっつければそれでいいのです。この人が竿を大事にしたことは、上手に段〻細にしたところを見てもハッキリ読めましたよ。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
依つてその大神に詳しく、兄が無くなつたはりを請求する有樣を語りました。そこで海の神が海中の魚を大小となく悉く集めて、「もしこの鉤を取つた魚があるか」と問いました。
「この秋の初めのことですがね、大滝の上流で釣りをしていたんです」と安宅が云った、「どうしたわけだかえさをすっかり取られちまいまして、餌なしのはりだけで釣っていました」
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
暫く見つめて居るうち、一尾の魚が彼のはりにかゝつたらしい。彼は忽ち姿勢をくづして、腰から小さな手網を拔きとり、竿をたわませて身近く魚を引寄せ、つひに首尾よく網の中に收めて了つた。
古い村 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
十幾本のはり凧糸たこいとにつけて、その根を一本にまとめて、これをくりの木の幹に結び、これでよしと、四郎と二人が思わず星影寒き大空の一方を望んだ時の心持ちはいつまでも忘れる事ができません。
あの時分 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
宿へ帰ると間もなく、新太郎君の室の窓下で鶏がけたたましく騒ぎ出した。顔を出して見ると釣竿が転んで動いている。はりにゴカイをつけたまゝにして置いたら、それを鶏が喰べて引っかゝったのだった。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
はりさきに虫を附けて雑魚ざこ一筋を釣るという仙人業せんにんわざをしまするよ。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
独語ひとりごとを言ひ言ひ、はりを合はせてぐつと引揚げた。
そのかかりにはとかくに魚が寄るものであります。そのかかりの前へ出掛けて行って、そうしてかかりとれ擦れにはりを打込む、それがかかり前の釣といいます。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
釣りあげて、はりから外すと、そのまま水の中へ放してやり、放された鮠が、白い腹をひらめかせながら、すばやく、流れの中へ消えてゆくのを、甲斐は楽しげに見まもるのであった。
但し此奴釣りあげてから厄介で、私などの細指をば唯だの一噛みで噛み切らうといふ鋭い齒を持つてゐるので、はりをはづすが大難澁、私など大抵一匹ごとにはりを切つて新たなのを用ゐました。
樹木とその葉:33 海辺八月 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
縄というのは長い縄へ短い糸の著いたはりが著いたもので、此鉤というのは「ヒョットコ鉤」といって、絵に書いたヒョットコの口のようにオツに曲って居る鉤です。
夜の隅田川 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
私は鯊をはりから外してバケツに入れ、新しい餌を付けて、また糸を投げた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
自分が魚餌えさはりよそおいつけた時であった。偶然に少年は自分の方におもてを向けた。そして紅桃色こうとうしょくをしたイトメという虫を五匹や六匹ではなく沢山に鉤に装うところを看詰みつめていた。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
私は鯊をはりから外してバケツに入れ、新しいえさを付けて、また糸を投げた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
竿釣にも色〻ありまして、明治の末頃はハタキなんぞという釣もありました。これは舟の上に立っていて、御台場おだいばに打付けるなみの荒れ狂うような処へはりほうって入れて釣るのです。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
続いてまた二ひき、同じようなのがはりに来た。少年はあせるような緊張した顔になって、うらやましげに、また少しは自分の鉤に何も来ぬのを悲しむような心を蔽いきれずに自分の方を見た。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
恰もはりもどりの如く、薔薇の刺の如く、人をして右せんとすれば右する能はざらしめ、左せんとすれば左する能はざらしむるものであるが、此が一回轉して暴ぶ氣になれば、狠毒苛辣を極めて
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)