諸肌もろはだ)” の例文
その西洋式の讃美者は、この興行主のお角が諸肌もろはだを脱いで、江戸前の刺青師ほりものしに、骸骨の刺青を彫らせていることを知るものがない。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
杉の枯木のこちらに、男や女が七八人立ち並び、一人のたくましい男が諸肌もろはだぬぎになって、革鞭かわむちのような物で裸の女を打っていた。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
智深が法衣ころも諸肌もろはだを脱いだからだ。そしてその酒身しゅしんいっぱいに繚乱りょうらんと見られた百花の刺青いれずみへ、思わず惚々ほれぼれした眼を吸いつけられたことであろう。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここを日本のメロドラマでゆくと、委細いさいみ込んだ姐御あねごが、湯上りの身体を鏡台の前にえて諸肌もろはだ脱いで盛大な塗立工事にかかろうというところ。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
そのとき、二間とははなれていないところに、浴衣ゆかた諸肌もろはだをぬいで一人の男が寝ころがっていた。その男にちがいない。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
わたくしは、そうしていさぎよ諸肌もろはだ脱ぎになり、物憂い身体を化粧の鏡台に向って坐り直すのでした。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
封生はいきなり諸肌もろはだを脱いで盃を手にした。杜陽にはその不行儀ぶぎょうぎが面白くなかった。
陳宝祠 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
塔は何より地行じぎょうが大事、空風火水の四ツを受ける地盤の固めをあれにさせれば、火の玉鋭次が根性だけでも不動が台座の岩より堅く基礎いしずえしかとえさすると諸肌もろはだぬいでしてくるるは必定ひつじょう
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
宗近君は米沢絣よねざわがすりの羽織を脱いで、袖畳そでだたみにしてちょっと肩の上へ乗せたが、また思い返して、今度は胸の中から両手をむずと出して、うんと云う諸肌もろはだを脱いだ。下から袖無ちゃんちゃんあらわれる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
学生の隣にすくみたりし厄介者やっかいもの盲翁めくらおやじは、このとき屹然きつぜんと立ちて、諸肌もろはだくつろげつつ
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、叫ぶと、職人が、諸肌もろはだ脱いだので、大阪の喧嘩しか知らぬ私は
死までを語る (新字新仮名) / 直木三十五(著)
せっかく彫り上げた骸骨に牡丹の刺青ほりものが役に立たず、諸肌もろはだ押しぬいでタンカを切る物凄い場面も見せないで済んだのが、何よりというものです。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
相手の大坊主が、せつなに、法衣ころも諸肌もろはだを脱ぎ、その肌一面の花の如き刺青いれずみが、ばっと眼に映ったからだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さあ、どっからでも斬れ。……そういってちょうど、あなたのしたように、彫青の諸肌もろはだぬぎになって、大の字に寝ましたなあ。斬れるもんか、と、なめきっているんですね。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
慈善会場の客もあるじ愕然がくぜんとしてながむれば、渠はするすると帯を解きて、下〆したじめ押寛おしくつろげ、おくする色なく諸肌もろはだ脱ぎて、衆目のる処、二布ふたのを恥じず、十指のゆびさす処、乳房をおおわず、はだえは清き雪をつか
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それを、加勢がまた殖えてきたと見たのか、名古屋の料理屋の親方、河嘉の松五郎は、諸肌もろはだをぬいでしまいました。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
近江訛おうみなまりの蚊帳かや売りや、ものう稽古けいこ三味のが絶えて、ここやかしこ、玉の諸肌もろはだを押し脱ぐ女が、牡丹刷毛ぼたんばけから涼風すずかぜかおらせると、柳隠れにいろは茶屋四十八軒
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
抜刀隊は、これも、誰かが号令を降したかのように、いずれも、諸肌もろはだぬぎになった。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
さか見霽みはらしで、駕籠かごかへる、とおもひながら、傍目わきめらなかつた梶原かぢはらさんは、——そのこゑ振返ふりかへると、小笠原氏をがさはらしが、諸肌もろはだぬぎになつて、肥腹ふとつぱらをそよがせ、こしはなさなかつた古手拭ふるてぬぐひくびいた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
丸山がようやくあわてだしたが、仏頂寺弥助はそれに取合わないで、その次の仕事が内ぶところへ両手を入れ、おもむろに諸肌もろはだを脱いでしまったところです。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
墨染すみぞめ法衣ころもねて、諸肌もろはだぬげば、ぱッと酒気にくれないを染めた智深が七尺のりゅうりゅうたる筋肉の背には、渭水いすい刺青師ほりものしが百日かけて彫ったという百花鳥のいれずみが、春らんまんを
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見れば、荷駄馬の手綱たづなをそこへほうり出した一人の馬子、相撲取と見まがうばかりの体格のやつが、諸肌もろはだぬぎに、向う鉢巻で、ひげだらけの中から悪口をほとばしらせ
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
熊は、自分の声に、昼間のよいをよけいに顔へ出して呶鳴った。額の汗が、西陽に光って、見る者の眼にも暑苦しい。それでもまだ、熊は威嚇いかくが足らないと思ったか、胸毛だらけな諸肌もろはだを脱いで
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まず壺振りの芸当始まり——こうして諸肌もろはだぬぎの、本式は諸肌なんですが、ここは片肌で御免をこうむりやすよ、こう尻をヒンマクる、これ壺振りの作法でござんして、つまり
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
やにわに、諸肌もろはだを脱ぎ、脇差を引き抜くよと見えたが
剣の四君子:04 高橋泥舟 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この連中にとっては、回向院境内の仮小屋の棟の高さがことのほかに目ざわりであります——そういう者の存在を知って知り抜いている女軽業の親方お角さんは、その真白な年増盛としまざかりの諸肌もろはだをぬいで
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)