あか)” の例文
旧字:
「之以外のどんな方法で勇敢さをあかし得るか?」又、「ダヴィッドがゴライアスを退治した時、彼は巨人の首を持帰らなかったか?」
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「後醍醐のきみの御脱出が、虚伝でないことをあかしている。——また、その御脱島は、首尾よく運ばれたものと観ていいだろう」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのあかしには二人で、せいぜい稼業を励もうと、これ、こうやって途中から引き返して来たではないか——おりんは言った。
第一、『聖霊』はイエスの神の子たることをあかし、イエスを信ずるすべての者の心に働いている。これに対するものは第六の『悪鬼』である。
大小さまざまな石と、透きとおるような水の流れと、その中を活溌に泳ぎまわる魚と、それは自然の活きているあかしそのもののようにみえた。
おごそかな渇き (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「そうか。だが、そんならどうしてさっき、常吉はそれを云わなかったんだろうな。それだけでも、身のあかしの助けになるというもんだが……」
死ぬほどの苦しみを抱いていたものが信ずることによって救われた、という意味のことを店員風の青年が立ってあかした。
ソクラテスもまた、逃亡によって生を永らえ得るにかかわらず、自ら甘んじて不正なる判決に従い、その倫理的覚醒の使命のあかしとして毒杯を飲むのである。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
それは嘗て聴いた乞食の老人のあかしに照応するものでございます。一昨年の暮でしたか、まだその頃はわたくしは学園の女生徒だった前身時代でございます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
斯の如きもの復讐の精神なりとせば、復讐なる一事は、人間の高尚なる性質をあかしするものにあらずして、極めて卑き、動物らしき性質をあらはすものに外ならず。
復讐・戦争・自殺 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
女とよりはむしろ男らしかりしことのあかしにもならんかとて、えて身の羞恥はじをば打ち明くるなり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
紙の古きは大正六年はじめて万年筆を使用されし以前にあがなわれしものを偶々たまたま引出して用いられしものと覚しく、墨色は未だ新しくしてこの作の近き頃のものたる事をあかす。
遺稿:01 「遺稿」附記 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
紙の古きは大正六年はじめて万年筆を使用されし以前にあがなわれしものを偶々たまたま引出して用いられしものと覚しく、墨色は未だ新しくしてこの作の近き頃のものたる事をあかす。
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それでもお島の試された如才ない調子が、そんな仕事に適していることをあかすに十分であった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
なにしろ人間が天国からのあかしを見なくなってから、もう十五世紀もたっているんだよ。
厳島は平家の守護神として、別格に崇敬されている社である。これに参拝されれば、平家への協力へのあかしともなろう、清盛の心をやわらげることもできよう。が、これは表のことである。
幸運の人というにほかならぬことがあかしされていくにつけて、この人の母である夫人と、伊勢いせ御息所みやすどころとの双方の自尊心が強くて苦しく競い合った時代に次いで、中宮とこの大将が双方とも
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
雪之丞にそそられて、浪路は、どこまでも言いあかしたい。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「神様は天に善行のあかしを示した」といった。
あかせかし、常に猶
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
それに、掛売りの帳面、目薬屋のあかし手形など、細々こまごました物もみな出してくれい。……なに、頭か。なるほどまげの形もこれではいけまい。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
柱も敷板も窓框まどがまちも、みなつやつやと鼈甲色べっこういろに拭きこんであり、きちんと置かれた道具類も高価な品ではないが、たいせつにされてきた年月のあかしのように
日本婦道記:萱笠 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
遠く望んで美人の如く、近く眺めて男子の如きは、そも我文学史のあかしするところの姿にあらずや。アルプスの崇厳、或は之を欠かん、然れども富嶽の優美、何ぞ大にゆづるところあらん。
富嶽の詩神を思ふ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
「おめえは覚えのねえことだというあかしを立てて出て来たんだろうな」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
天よりのあかし今はなければ
ホツレ毛を帯びた梨の花のような白い顔は泣いたところだけをほの紅くらしており、眸の光に、狂者をあかしているのである。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「刀は人をるためにあるのではなく、おのれの志操をまさしく保つことのあかしとしてあるのだ」と直衛は柔和な口ぶりで云った、「もういちどよくこの刀を見ろ」
改訂御定法 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
明日、樊川はんせんへ向って立つからには、敵の関羽と勝負を決し、大きくは君恩にこたえ、一身にとって、武門の潔白をあかし立てんと存ずるのである。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
話せばきっとあかしを立てて呉れるだろう、……逢えさえすればと機会をうかがったが、それを知って避けるように、出ることの好きなおたまがまったく外へ姿を見せない
金五十両 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
なぜならば、鎌倉同僚間の彼の不人望がそれをあかしているし、頼朝が死んだ後の彼の行いもかんばしいものではなかった。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが灰色になったあの髪の一筋ひとすじは、世間の怨嗟えんさ誹謗ひぼうを浴びながら、たゆまず屈せず闘ってきたあかしなのだ。都留は廊下のこちらから主計の姿を見やりながらそう思った。
晩秋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それゆえに、阿能局なる女性が信長の側にいたかいないかすら疑問視された。当時のうわさはそれをいたみ合っても、名は伝説に付されてあかすべきものも後にない。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは薄く墨でぼかした地に夕顔の花が描いてあり、三分の一のところで二つに切れ、かなめでつながっているだけでした。自慢の腕が臆病のあかしをしたか、私はそう思って苦笑しました。
失蝶記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それと戦いとは違うが、民の性根しょうねというものは、これ程なものだというには、あかし得て余りがあろう。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どんなことがありましても」悠二郎はあかしを立てるように云った。
桑の木物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
数正との約をやぶり、数正逐電ちくてんの秘密を事前に知ってしまった以上、とどまる松平近正は、かならず、急を浜松に報じて、身の潔白をあかし立てるに利用するだろう。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「では、各〻に任すが、孫堅はきっと、玉璽を盗んでいないか。そのあかしはどうして見せるか」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おおむね、内に理由をもち、自壊にじょうぜられ、強力な野性に取って代られること、古今、歴史のあかすところです。これを、保元、平治の大乱にみても、例外ではありません。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『さこそと思われる。さもあらば、忠盛の進退こそ、弓矢人ゆみやびとあかし。ただ、恥あるな』
かく身のあかしは立っても、その子のすでに首斬られていることを知ったら、あの父の心はどんなだろう。……ここまでは一途いちず信義しんぎを守って来た士も、かえってこの先において織田家を
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いえいえ、これが妾の罪ほろぼし、重蔵様のご最期の言葉に、初めて迷いの夢をさましたこの身が、ふッつり新九郎様を思い切ったというあかしを立てる、いわば自分の為に過ぎませぬ」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また、部下を使って人を闇打ちさせるがごとき卑劣漢でない自己をあかし立てたい意味もあろう。——断わるのは狭量に似る。尊氏は正成からじぶんの幅や奥行きを測られてはならぬと思った。
天意の皮肉、歴史のおもしろさ、じつにそれは、人為を超えた自然の大作用が人為のほかにあることをあかしています。そして、この時を境として、源平紅白の二世界に地上は染め分けられました。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)