稀世きせい)” の例文
いかに頑愚ぐわんぐの手にありしとはいひながら、稀世きせいの宝玉鄙人ひじん一槌いつつゐをうけてほろびたるは、玉も人もともに不幸といふべしとかたられき。
其後そのご一週間いつしゆうかんむなしく※去すぎさつたならば、櫻木大佐さくらぎたいさつひには覺悟かくごさだめて、稀世きせい海底戰鬪艇かいていせんとうていともに、うみ藻屑もくづえてしまうことであらう。
梅痴は安政五年九月九日に没した。そして明治二十四年枕山の没した後稀世きせいの古硯はその子新吉の売却ばいきゃくするところとなった。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
大きさに於て稀世きせいの逸品であるばかりでなく、世にも珍らしいブリューで、その色の美しさは譬うるに物がありません。
呪の金剛石 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
ちなみに宗眼日録は泰春院さま御一代の記録であって、御歴代の中興であると同時に、稀世きせいの名君といわれる侯の、生涯と治績とが詳述されてある。
桑の木物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
時には実験の心得について、稀世きせいの名教訓が出たり、現代の物理学の限界を論ぜられたりすることもあった。
張角はしかし稀世きせいの秀才と、郷土でいわれていた。その張角が、あるとき、山中へ薬をとりに入って、道で異相の道士どうしに出会った。道士は手にあかざの杖をもち
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藤吉郎こそ稀世きせいの傑物、関白までも経昇へのぼる男、二重瞳孔に不思議はない! しかるにそなたの才能は藤吉郎のなかばもなくて、しかも悪虐あくぎゃくの性質は彼に百倍勝っている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
したはせ今に至るまでも名奉行と言る時は只に忠相ぬし一にんとゞまるが如く思ひ大岡越前守の名は三歳の小兒といへども之をしりしきり明斷めいだんたゝへるこそ人傑じんけつさい稀世きせいの人といふ可し是等を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
守青年は、夜の更けるのを待ちかねて、この稀世きせいの名探偵との初対面を、寧ろ喜び勇んで出かけて行った。彼の行手に、どんなに意外な恐ろしい運命が、待ち構えているかも知らないで。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
稀世きせいの女がたは、楽屋を出て行った。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
いかに頑愚ぐわんぐの手にありしとはいひながら、稀世きせいの宝玉鄙人ひじん一槌いつつゐをうけてほろびたるは、玉も人もともに不幸といふべしとかたられき。
神祖偃武えんぶ以来のれ場所は実に今でなくて武士の一生涯にまたとあろうか——鐘巻自斎いかなる稀世きせいの剣妙であるとも、勝たねばならぬ、撃ち込まねばならぬ。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしそれをなすには、稀世きせいの天才を待つより仕方がない。しかし一歩下って、現在の科学だけに話を限定しても、なお比較科学論は成り立つように、私には思われる。
比較科学論 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
されど我らが義兄と立てる御嶽冠者と申す者は、年若けれど稀世きせいの名将、智仁勇を兼ねた人傑でござれば、この者のためにその大砲をお造りくださることなりますまいか
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
稀世きせい海底戰鬪艇かいていせんとうていこと孤島こたう生活中せいくわつちう有樣ありさま、それから四年よねん以前いぜんには、穉氣あどけなく母君はゝぎみわかれたりし日出雄少年ひでをせうねんいまおほきくなりて、三年さんねんあひだ智勇ちゆう絶倫ぜつりん櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさ愛育あいいくしたに、なにからなにまで
「ウームおそろしい奴だ。いったい彼は、稀世きせいの大馬鹿者か、それとも、天下の大智者か。江漢先生の裏を掻くほどの代物しろものじゃ、とてもおれの手におえんのは当りまえだ」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
万古不朽ばんこふきう洪福こうふくたもつ㕝奇妙不思議ふしぎの天幸なれば、じつ稀世きせい珍物ちんぶつなり。
「礼に欠ける。そんなことで、どうして、彼の如き稀世きせいの賢人を、わが門へ迎えられよう」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
万古不朽ばんこふきう洪福こうふくたもつ㕝奇妙不思議ふしぎの天幸なれば、じつ稀世きせい珍物ちんぶつなり。
はやくも見こんでいるとおり、後年太閤たいこう阿弥陀峰頭あみだほうとうの土としてのち、孤立こりつ大坂城おおさかじょうをひとりで背負せおって、関東かんとう老獪将軍ろうかいしょうぐん大御所おおごしょきもをしばしばやした、稀世きせい大軍師だいぐんし真田幸村さなだゆきむらとは
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)