石鹸シャボン)” の例文
下女は先刻さっき洗濯せんたく石鹸シャボンを買いに出た。細君ははばかりである。すると取次に出べきものは吾輩だけになる。吾輩だって出るのはいやだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「えゝ奥様はお出でゞございましょうか。手前は苦学生でございますが、何かお石鹸シャボン香水の類に御用がございましたらお購求もとめを願います。」
The Affair of Two Watches (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼は一度だけ白波と血との石鹸シャボン泡のようになった水面へ浮び上ったが、それからまた沈んで、それっきり浮き上らなかった。
それで、きっと貴方は、私がんだ檸檬水レモナーデ麦藁ストローから、石鹸シャボン玉が飛び出したとでも……。いいえ私は、麦藁ストローを束にして吸うのが習慣なのでございますわ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「僕が仇討ちの為めに流浪るろうしていることを知っていたんだ。野口君、君の辞令を見た日から僕は石鹸シャボンで首を洗って待っていたと昔と同じ積りで冗談を言うんだ」
首切り問答 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そうしてい加減、暖たまったところで立ち上るとすぐに、私を流し場の板片いたぎれの上に引っぱり出して、前後左右から冷めたい石鹸シャボンとスポンジを押し付けながら
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
石鹸シャボンを巻いた手拭てぬぐいを持ったままで、そっと階子段はしごだんの下へ行くと、お源はひらき附着くッついて、一心に聞いていた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのまゝ、かれは、手拭と石鹸シャボンを西崎にわたして茶の間へ入った。金神こんじんさまのまえに一寸手を合せ、すぐに長火鉢のまえの、友禅の大きな蒲団のうえにすわった。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
軽い朝風のはだざわりは爽快そうかいだったが、太陽の光熱は強く、高原の夏らしい感じだった。そうしているうちに加世子も女中と一緒に、タオルや石鹸シャボンをもって降りて来た。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
石鹸シャボン泡沫ほうまつ夢幻むげんの世に楽をでは損と帳場の金をつかみ出して御歯涅おはぐろどぶの水と流す息子なりしとかや。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それから毛が汚れてきたなくなつたと言つて、嫌がるやつを無理にたらひに入れて、石鹸シャボンをつけてごし/\洗つて遣ると、鼻をクンクン言はせながら鳴き騒いだことを覚えて居る。
(新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
硝子ガラス棚、バリカン、廻転椅子、カバーの白白白、立ち廻る理髪師の背広の、ズボンの白、掻き立てなすりつけた客の頬やあご石鹸シャボンの白、琥珀こはくの香水、剃刀かみそりの光、鋏のチャキチャキ
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
柴山は、「海だよ」と答えてくれました。ぼくも船板ふなばたから、見下ろした。真したにはすこし風の強いため、舷側げんそくくだけるなみが、まるで石鹸シャボンのようにあわだち、沸騰ふっとうして、飛んでいました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
昨日きのうなどもお風呂をつかっている最中にこの石鹸シャボンは臭いからいやだなんて、愚図り出して、そこらじゅう水だらけにして跳ね廻ったあげく、腹を立ててすっかりその石鹸シャボンを喰べてしまったのよ。
いう迄もなく、博士は、患者の腕を煮て石鹸シャボンを作ったのである。
二重人格者 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
石鹸シャボンのあぶくのようなざまだ。
出がけに御邪魔でもこれをお持ちなさいと云って細長い箱をくれたから、何だろうと思って、即座に開けて見ると、石鹸シャボンが三つ並んでいた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
輝くはだ露呈あらわして、再び、あの淡紅色ときいろ紗綾形さやがたの、品よく和やかに、情ありげな背負揚が解け、襟が開け緋が乱れて、石鹸シャボンの香を聞いてさえ、身にみた雪をあざむく肩を、胸を
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
主人は打水をえて後満足げに庭の面を見わたしたが、やがて足を洗って下駄げたをはくかとおもうとすぐに下女をんで、手拭てぬぐい石鹸シャボン、湯銭等を取り来らしめて湯へいってしまった。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
やがて蓮太郎はそこに在る石鹸シャボンを溶いて丑松の背中へつけて遣り乍ら
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「ふうん」とその父は乱れた髪の毛を石鹸シャボンで洗いかける。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「湯に行くから石鹸シャボンや何か階下へ出しときねえ。」
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
二人は並んで石鹸シャボンをつかっていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
敬太郎が石鹸シャボンけた頭をごしごしいわしたり、堅い足の裏や指の股をこすったりする間、森本は依然として胡座をかいたまま、どこ一つ洗う気色けしきは見えなかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗助が机の前の座蒲団ざぶとんを引き寄せて、その上に楽々らくらく胡坐あぐらいた時、手拭と石鹸シャボンを受取った御米は
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こちらの方では小桶こおけを慾張って三つ抱え込んだ男が、隣りの人に石鹸シャボンを使え使えと云いながらしきりに長談議をしている。何だろうと聞いて見るとこんな事を言っていた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うちの主人は時々手拭と石鹸シャボンをもって飄然ひょうぜんといずれへか出て行く事がある、三四十分して帰ったところを見ると彼の朦朧もうろうたる顔色がんしょくが少しは活気を帯びて、晴れやかに見える。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれども人の足音はどこにもきこえなかった。用事で往来ゆききをする下女の姿も見えなかった。手拭と石鹸シャボンをそこへ置いた津田は、うちの書斎でお延を呼ぶ時のように手を鳴らして見た。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうして頭の中で、自分の下宿にいた法科大学生が、ちょっと散歩に出るついでに、資生堂へ寄って、三つ入りの石鹸シャボンと歯磨を買うのにさえ、五円近くの金を払う華奢かしゃを思い浮べた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分が物新しそうにシェーヴィング・ブラッシを振り廻して、石鹸シャボンの泡で顔中を真白にしていると、先刻さっきからそばに坐ってこの様子を見ていたお重は、ワッと云う悲劇的な声をふり上げて泣き出した。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗助は手拭てぬぐい石鹸シャボンを持って外へ出た。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)