眼前まのあたり)” の例文
祝言さするは、これ眼前まのあたり。ただ、恨めしきは伊右衛門殿。喜兵衛一家の者ども、ナニ、安穏あんのんに置くべきや。思えば思えば、エエ恨めしい。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
奈何いかに頭をほてらせて靈魂の存在を説く人でも、其の状態を眼前まのあたり見せ付けられては、靈長教の分銅ふんどうが甚だ輕くなることを感得しなければなるまい。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
これは小生わたくしの父が、眼前まのあたりに見届けたとは申しかねるが、直接にその本人から聞取った一種の怪談で今はむかし文久の頃の事。その思召おぼしめしで御覧を願う。
お住の霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
却説さて大雷たいらいの後の稀有なる悲鳴を聞いた夜、客が蔀を開けようとした時の人々の顔は……年月としつきを長く経ても眼前まのあたり見るような、いずれも石を以て刻みなした如きものであった。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此子このこ笑顏ゑがほのやうに直接ぢかに、眼前まのあたり、かけあしとゞめたり、くるこゝろしづめたはありませぬ、此子このこなん小豆枕あづきまくらをして、兩手りやうてかたのそばへ投出なげだして寢入ねいつてとき其顏そのかほといふものは
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
影もかはらで空に澄みたる情無かりし風情さへ、今眼前まのあたりに見ゆるがごとし。
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
オルムスの大会で王侯の威武に屈しなかったルーテルのきもいたく思わない、彼が十九歳の時学友アレキシスの雷死を眼前まのあたりて死そのものの秘義に驚いたその心こそ僕の欲するところであります。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
眼前まのあたり、ゆくてのみちのたゞなかを獅子はふたぎぬ。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
却説さて大雷たいらいあと希有けうなる悲鳴ひめいいたよるきやくしとみけようとしたとき人々ひと/″\かほは……年月としつきながても眼前まのあたりるやうな、いづれもいしもつきざみなしたごときものであつた。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
眼前まのあたり、ゆくての途のたゞなかを獅子はふたぎぬ。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
眼前まのあたりお春が最期さいごを見てしより、旗野の神経狂出くるひだし、あらぬことのみ口走りて、一月余ひとつきあまりも悩みけるが、一夜あるよ月のあきらかなりしに、外方とのかたに何やらむ姿ありて、旗野をおびきいだすが如く
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
予は万々ることのあるべからざる理をもて説諭すれども、かれは常に戦々兢々せんせんきょうきょうとしてたのしまざりしを、ひそかに持余もてあませしが、今眼前まのあたり一本杉の五寸釘を見るに及びて予はおもいなかばに過ぎたり。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(再び、御機嫌のお顔を拝することを得まして、わたくし一代の本懐です。生れつきの口不調法が、かく眼前まのあたりに、貴方のお姿に対しましては、何も申上げることばを覚えません、ただしかし、唯今。)
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
眼前まのあたり真黄色な中に、機織はたおりの姿の美しく宿った時、若い婦人おんなと投げたおさの尖から、ひらりと燃えて、いま一人の足下あしもとひらめいて、輪になってひとねた、しゅ金色こんじきを帯びた一条いちじょうの線があって
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)