“直(ぢか)” の例文
無論誠吾が直(ぢか)に逢つたのではないが、妻(さい)に云ひ付(つ)けて断(ことわ)らした。夫でも其子(そのこ)は期日迄に国へ帰つて差支なく検査を済(す)ましてゐる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「さあ、直(ぢか)に私が言つてもいゝが——。」浅子女史は鴉のやうにぶる/\肩を顫(ふる)はせながら、柱暦(はしらごよみ)を見た。暦には三月——日と出てゐた。
座蒲団なんてえものもなく、荒削りの松板に直(ぢか)に坐っている上にあっちこっちにぶっつけるもんだから頭じゅう瘤(こぶ)だらけ。
顎十郎捕物帳:23 猫眼の男 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
さう言つて、西郷に直(ぢか)談判をして、この薩長秘密攻守同盟を締結させたのである。慶応二年一月二十一日のことである。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
ヂュリ 眞(ほん)の事(こと)は讒訴(ざんそ)とは言(い)はれぬ、ましてこれは後言(かげごと)ではない、直(ぢか)に面(かほ)に對(むか)うて言(い)うてゐるのぢゃもの。
あら、しつとりしてるわ、夜露(よつゆ)が酷(ひど)いんだよ。直(ぢか)にそんなものに腰(こし)を掛(か)けて、あなた冷(つめた)いでせう。眞(ほん)とに養生深(やうじやうぶか)い方(かた)が、其(それ)に御病氣(ごびやうき)擧句(あげく)だといふし、惡(わる)いわねえ。
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「常藏からの手紙に、貴下へは直(ぢか)に申上げたからといふ事でございますから別にもう申上げません。此上は不束ものでございますが何うか幾久しくお見棄てないやうに照の一身はお頼み申します」
「其りやお解になりますまいよ、どうせ何にも知らない継母(まゝはゝ)の言ふことなどを、お聴き遊ばす御嬢様ぢや無いんですから——我夫(あなた)から直(ぢか)にお指図なさるが可(よ)う御座んすよ、其の為めの男親でさアね」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「ああ、さやうかね、御承知の無い訳は無いのだ。ははは、大分(だいぶ)久い前の事だから、お忘れになつたのか知れん、それでは宜(よろし)い。私(わし)が直(ぢか)にお目に掛らう。この部屋は間貫一さんだね、ああ、それでは間違無い」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「それをお前の手から、相手へ直(ぢか)にやつたのか」
序だから、与次郎に教へて呉れと、頼んだ。与次郎は訳なく承知した。よし子を見舞に来(く)る様にしてやるから、直(ぢか)に聞いて見ろといふ。旨(うま)い事を考へた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「まあ、そんな御親切がお有(あ)んなさるんだつたら……」客は幾らか冷かし気味に言つた。「あなた直(ぢか)に言つて上げて下さいよ、幸ひ明後日(あさつて)は金曜日で祈祷会なんでございますから。」
同時(どうじ)に、さう云(い)ふ譯(わけ)なら、自分(じぶん)が直(ぢか)に宗助(そうすけ)から相當(さうたう)の値(ね)で讓(ゆづ)つて貰(もら)へば可(よ)かつたに、惜(を)しい事(こと)をしたと云(い)つた。最後(さいご)に横町(よこちやう)の道具屋(だうぐや)をひどく罵(のゝ)しつて、怪(け)しからん奴(やつ)だと云(い)つた。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
女の声は後(うしろ)で聞(きこ)えた。三四郎は振(ふ)り向(む)かなければならなかつた。女と男は直(ぢか)に顔を見合せた。其時女は廂(ひさし)の広い髪(かみ)を一寸(ちよつと)前に動(うご)かして礼をした。礼をするには及ばない位に親(した)しい態度であつた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「ぢや、貴方(あなた)から直(ぢか)に御父(おとう)さんに御話(おはなし)なさるんですね。それ迄は私(わたくし)は黙(だま)つてゐた方が好(い)いでせう」と聞いた。代助は黙(だま)つてゐて貰(もら)ふ方が好(い)いか、話(はな)して貰(もら)ふ方が好(い)いか、自分にも分(わか)らなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
心臓は、夫程丈夫にもならないが、決して前よりは悪(わる)くなつてゐない。弁(べん)の作用に故障があるものとは、今は決して認められないといふ診断であつた。——是は三千代が直(ぢか)に代助に話(はな)した所である。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)