白紙しらかみ)” の例文
はれやかに成つて、差寄さしよせる盆に折敷おりしいた白紙しらかみの上に乗つたのは、たとへば親指のさきばかり、名も知れぬ鳥の卵かと思ふもの……
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
頭から無茶に白紙しらかみを貼りかぶせてしまったんじゃ、見た目があんまり良い気持がしねえ、御当人だって晴れの額面へ持って行って
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お前さんはそう一に決めていても、世の中の事というものは白紙しらかみへ一文字を引いたように、無造作にわかるものじゃあねえ。
勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今まであんなに書き続けてあった文字が一字も無く、この書物は全くの白紙しらかみの帳面と同じ事になっていた。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
かね受取うけとりたりや」と電報の様なものを白紙しらかみいてした。三四郎は返事をかうと思つて、教師の方を見ると、教師がちやんと此方こつちを見てゐる。白紙しらかみを丸めてあししたげた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
植物あるいはまた滑稽おどけ人形の絵を切って湯に浮かせ、つぶつぶと紙面に汗をかくのを待って白紙しらかみに押し付けると、その獣や花や人の絵が奇麗に映る西洋押絵というものを買いに行った。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
杯盤狼藉はいばんろうぜきと取散らしてある中に、昇が背なかにまろく切抜いた白紙しらかみを張られてウロウロとして立ている、そのそばにお勢とお鍋が腹を抱えて絶倒している、が、お政の姿はカイモク見えない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
懷中くわいちうより取出し長庵が前へ摺寄すりよりひらきて見ればは如何に文字もんじきえ跡形あとかた無くたゞなさけなき白紙しらかみなり是は長庵が惡計にて跡の證據に成らざるやう最初さいしよよりたくんで置きたる大惡だいあく無道ぶだうおそろしかりける事共なり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
清書のためにもらってあった白紙しらかみが残り少なになった。
最後の一句 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「あら、白紙しらかみだわ」
すごさも凄いが、えんである。その緋の絞の胸に抱くおおい白紙しらかみ、小枕の濃い浅黄。隅田川のさざ波に、桜の花の散敷くおもかげ
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と皆に挨拶をして香奠こうでんと書いた白紙しらかみの包みを仏前に供えうやうやしく礼拝して帰ったので皆顔を見合わせた。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「うむ、比留間与助、知ってる、桜井なにがし、あれも名前は聞いている、それから三番目……のはどうしたんだ、白紙しらかみを頭から貼りかぶせたのは不体裁ふていさい極まるじゃないか」
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あつい襖を隔てて他人ひとのすること一から十まで言い当てらるる。お師匠さまが白紙しらかみを切って、印をむすんで庭に投げられたら、大きいひきめがその紙に押しつぶされて死んでしもうた
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「金受け取ったりや」と電報のようなものを白紙しらかみへ書いて出した。三四郎は返事を書こうと思って、教師の方を見ると、教師がちゃんとこっちを見ている。白紙を丸めて足の下へなげた。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
覺え無とは何故ぞ受取證書が白紙に成て居るのも不審ふしんの一ツと云ば長庵は大いに笑ひ戲氣たはけと云も程こそあれおぼちがひも事による證據の書附有などと其の白紙しらかみが何になるさうして見ればお若いが正氣しやうきでは御座るまい診察しんさつして藥を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ああ目覚めざましいと思う目に、ちらりと見たのみ、呉織くれはとり文織あやはとりは、あたかも一枚の白紙しらかみに、朦朧もうろうえがいた二個ふたつのその姿を残して余白を真黄色に塗ったよう。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
次の頁は只の白紙しらかみで、一字も文字が書いて無いではないか。これは不思議……今まであった話が途中で切れるはずはないと思いながら、慌てて次の頁を開いたがここも白紙はくしで何も書いて無い。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
拝殿はいでん裏崕うらがけには鬱々うつうつたる其の公園の森をひながら、広前ひろまえは一面、真空まそらなる太陽に、こいしの影一つなく、ただ白紙しらかみ敷詰しきつめた光景ありさまなのが、日射ひざしに、やゝきばんで、びょうとして、何処どこから散つたか
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
拝殿の裏崕うらがけには鬱々うつうつたるその公園の森を負いながら、広前ひろまえは一面、真空まそらなる太陽に、こいしの影一つなく、ただ白紙しらかみを敷詰めた光景ありさまなのが、日射ひざしに、ややきばんで、びょうとして、どこから散ったか
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と雨戸を離れて、肩を一つゆすってこうとする。広縁のはずれと覚しき彼方かなたへ、板敷を離るること二尺ばかり、消え残った燈籠とうろうのような白紙しらかみがふらりと出て、真四角まっしかくに、ともしび歩行あるき出した。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぼうとなどった白紙しらかみで、木戸の肩に、「貸本」と、かなで染めた、それがほのかに読まれる——紙が樹のくまを分けた月の影なら、字もただ花とつぼみを持った、桃の一枝ひとえだであろうも知れないのである。
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と載せたまま白紙しらかみを。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)