つか)” の例文
それでも夏はそれほどひどくは気にならないけれど冬羽織着物、下着、半衿とあんまりちがう色をつかうのは千世子はいて居なかった。
千世子(二) (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
死骸しがいのかたわらに出刃庖丁でばぼうちょうが捨ててあった。の所に片仮名かたかなのテの字の焼き印のある、これを調べると、出刃打ちのつかっていた道具だ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『然う?』と、静子は解きかけたネルの単衣にものさしつかつて見て、『七寸……六分あるわ。短かなくつてよ、幾何いくら電信柱さんでも。』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
思うようにつかえなかった、十一時に下りかける、然しまた、たまらなくなって、再び最高点の雪の上を歩きまわって見廻わした。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
『第九』の緩徐調アダジオの第二の主題のための草案(65)の中に「おそらく合唱をここにつかったら歓喜がいっそう美しいだろう」
女学校でつかう手芸用のへらだよ、此奴が裏の塀の根元を掘て手紙を埋めたり掘出したりした奴さ、塀の内外うちそとは夜なら誰にも知れず一仕事やれるからね
誘拐者 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
「百まなこ」とは柳丸がよくつかった花見の目かづらのようなものだが、これが「百面相」を生んだ母胎だろう。
随筆 寄席風俗 (新字新仮名) / 正岡容(著)
部屋の中央にある机の側に立って、足立達のつかう教科書や字書を眺めた目を窓の外へ移し、毎日々々塵埃ほこりになって器械体操なぞを教える広い運動場の方を眺めながら
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
村井は五月蝿うるさいと云ひげに眉をひそめしが「そりや、其のあれだ、手短に言へば皆ンなで働いて皆ンなでつかふのだ、誰の物、彼の物なんて、そんな差別は立てないのだ——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「ぢやあこの黄色いのは何をつかつた。」俺は髪の毛をもじやもじやと真黄色になすりつけたのだ。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「このラムプは九万燭光ですが、千時間つかふと二割方光度が減じます。尤もそれは肉眼では感ぜられぬ程度でありますが、千時間毎に電球は付け換ることになつてゐます。」
或るハイカーの記 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
運動の時間はずい分有効につかっている。運動場の廻りを百回づつ走っているよ。では又来週!
「小式部さん、これを上げよう」と、初緑は金盥の一個ひとつを小式部がかたへ押しやり、一個ひとつに水を満々なみなみたたえて、「さア善さん、おつかいなさい。もうお湯がちっともないから、水ですよ」
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
緊羯羅こんがら童子を使うて、世間の新聞一切報告せしむる方を載せ、この童子用なき日は、一百金銭を持ち来り、持呪者に与う、しかしその銭は仏法僧のためにつかはたし、決しておしんじゃいけないとは
弟夫婦は年少としわかきまま無益むやく奢侈おごりに財をついやし、幾時いくばくも経ざるに貧しくなりて、兄のもと合力ごうりょくひに来ければ、兄は是非なく銭十万を与へけるに、それをも少時しばしつかひ尽してまた合力を乞ひに来りぬ。
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
この男、つかえる。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それ丈頭を無駄につかったわけだと今になって一寸口惜しいけれども又、相当に考える事も必用だからと自分でなぐさめて居る。
又自分の手柄は君等にしろ、無論僕にしろ、成るべく多くの人に知らせたいものだよ。流行はやり言葉もつかつて見たしな。
我等の一団と彼 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「それにしても俺の名前などをつかふなんて可笑しいな。いたづらにしては酷過ぎるし……」
秋・二日の話 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「そもそも半座はんざを分けるなどとは、こういう敵手あいてつかやすい文句じゃないのだ。」
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
麻裏はどの穢多のうちでも作るので、『中抜き』と言つて、草履の表につかふ美しい藁がところ/″\の垣根の傍に乾してあつた。丑松は其を見ると、瀬川の家の昔を思出した。小諸時代を思出した。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
皆それぞれさっぱりしたなりをして袴をはいて居るのもある。いつになく儀式ばった様子で来るので箸のあげ下しにも気をつかって居る様に見える。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
××村の小学校では、小使の老爺おやぢ煮炊にたきをさして校長の田辺が常宿直じやうしゆくちよくをしてゐた。その代り職員室でつかふ茶代と新聞代は宿直料の中から出すことにしてある。宿直料は一晩八銭である。
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
組合せ香水とかといふので、七いろばかりの綺麗なハイカラな香水の瓶が、行儀よくづらりと並んでゐた。調合器が付いてゐて、何でも自分の好きな香ひを調合してつかふやうになつてゐた。
香水の虹 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「こんな時にでもつかわなくッちゃ、君なんざ生涯つかう時は有りゃしない。」
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其処は、ふだん使わない部屋で、参観人が、ちょっと休んだり、先生方の小さいお集りの時などにつかう処なのです。
いとこ同志 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
尤もかういふ都會では、女なら隨分資格の無い者もつかツてる樣だけれど、男の代用教員なんか可成なるべく採用しない方針らしいですから、果して肇さんが其方へ入るにいゝどうか、そら解りませんがね。
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ボンヤリと空をながめて居たり、うなだれて眼ばかり上眼をつかって物をねらう様な様子をしたりする。
秋毛 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
尤もかういふ都会では、女なら随分資格の無い者もつかツてる様だけれど、男の代用教員なんか可成なるべく採用しない方針らしいですから、果して肇さんが其方へ入るにいいどうか、そら解りませんがね。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
其を食事の時、いろいろにつかって、春江ちゃんが「洋食洋食」と云った「然しまだ洋食のうちはいいさ」、「かわきがすぐ止る! かハハハハ」等と云うように用われた。
茶は一斤半として九十銭、新聞は郵税を入れて五十銭、それを差引いた残余の一円と外に炭、石油も学校のを勝手につかひ、家賃は出さぬと来てるから、校長はどうしても月に五円づつ得をしてゐる。
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ヒマワリの油をつかうのでしょうか、私はあの不消化工合にはこまった覚えがあるのですが。ヒマワリの種をたべるところの庶民的食用油はヒマワリで、それはこなれにくいわ。
絶望! そんな言葉を此の男はつかふのか? 私はさう思つた。
我等の一団と彼 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
食堂との境は、左右に開く木扉で区切っても、単に大きい帳をつかってもよいでしょう。
書斎を中心にした家 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
乳母はこんなことをそママを向きながら云って居る。紅は何となく眠気がさして来た。頭ばかりつかって眠る時間の少いために、うつむいたまま形をくずさないでしずかに眠って居る。
錦木 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)