煩瑣はんさ)” の例文
2 振り仮名は原文にあるものは大半これを付したが、とくにわかりきったよみで、あまり煩瑣はんさにわたる場合は、これを省略した。
雨月物語:01 凡例 (新字新仮名) / 鵜月洋(著)
2 振り仮名は原文にあるものは大半これを付したが、とくにわかりきったよみで、あまり煩瑣はんさにわたる場合は、これを省略した。
... 煩瑣はんさなる形式生活に追随するのみを知って人生の意義を解するを忘れたる物質主義素町人主義は皆排せざるべからず」といい、また
婦人指導者への抗議 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
彼は殆んど城に詰めっきりで、殆んど夜と昼の区別なしに恪勤かっきん精励した。それは熱烈というより狂熱的であり、煩瑣はんさ論的にさえなった。
思い違い物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その上、停電と乗換と出入国の煩瑣はんさな手続とが、みんなをすっかり逆上させていて、誰も私のために足を停めようとするものはなかった。
踊る地平線:10 長靴の春 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
やたらに煩瑣はんさで、そうして定理ばかり氾濫はんらんして、いままでの数学は、完全に行きづまっている。一つの暗記物に堕してしまった。
愛と美について (新字新仮名) / 太宰治(著)
しかるを何者の偏視眼者流ぞ、いたづらに学風を煩瑣はんさにし、究理と云ひ、探求と称して、貴とき生命を空しく無用の努力に費やし去る。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
それにき方が、ある人には煩瑣はんさにすぎると思はれるやうな細かい描写をやつてゐる。一分間の独想を二頁も三頁も書いてゐるところがある。
J. K. Huys Mans の小説 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
同時に内容の方では興味が失われ、ダルになり煩瑣はんさになってしまった。これらをひっくるめて物語性の喪失と私はいいたい。
童話における物語性の喪失 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
しかもこの定形律は、韻文としてきわめて大まかのものであって、一般外国の詩に見るような、煩瑣はんさな詩学上の法則がない。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
それで一見いわゆるはなはだしく末梢的まっしょうてきな知識の煩瑣はんさな解説でも、その書き方とまたそれを読む人の読み方によっては
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかし煩瑣はんさな、冗漫な文字もんじで、平凡な卑猥ひわいな思想を写すに至ったこの主義の作者の末路を、飽くまで排斥する客の詞にも、確に一面の真理がある。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
一々の弟子を取り上げるのは煩瑣はんさでもあるから、ここには右の顔回と子路との場合をもって代表させることにしよう。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
むしろあまりに小さくかつ煩瑣はんさなる仕事であるがゆえに、多くの人がこれに入ってみようとしなかったのである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
磁器の素地きじに伴う種々煩瑣はんさな工程、これを土素地つちきじに比べるなら如何に大きな差違であろう。おそらく病根は素地を余りにも精製するそのことから発する。
北九州の窯 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
私はここに認識論の煩瑣はんさな理論を書くことを欲しないが、とにかくその頃の私は唯心論の底に心を潜ませていた。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
実際、武人ぶじんたる彼は今までにも、煩瑣はんさな礼のための礼に対して疑問を感じたことが一再ならずあったからである。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
あんな煩瑣はんさな規則のうちに雅味があるなら、麻布あざぶ聯隊れんたいのなかは雅味で鼻がつかえるだろう。廻れ右、前への連中はことごとく大茶人でなくてはならぬ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
当時はそんな事件が多く煩瑣はんさにたへかねて、召喚しただけで問題にしなかつたが、その証拠はちやんと栗原の調書や自分の提出した始末書に残つてゐるぞ。
現代詩 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
作者より——。次の行から現われる暗号の説明が、幾分煩瑣はんさに過ぎるかと思われますので、相互の識別を容易ならしむるために、暗号の部類に属する欧文活字を
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
日本語の発声法では、アルファベットのように子音と母音を別々にして組み立てるのは煩瑣はんさでしかない。
文字と速力と文学 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
かえって煩瑣はんさですし、またここではその必要を認めませんので省略しておきますが、ただここで、ぜひとも注意すべき大切なことは、「十二」という数字よりも
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
が、われ等は、決して彼等のひそみならって実行不能、真偽不明の煩瑣はんさ極まる法則などは述べようとはせぬ。
「そのことは、弟直義に、よっく申しふくめてありまする。じつは、日ごろから、諸政軍事にわたるまで、煩瑣はんさのあらましは、直義にまかせきっておりますので」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十日一水を画き五日一石を画くというような煩瑣はんさな労作は椿岳はいさぎよしとしなかったらしい。が、椿岳の画は書放しのように見えていても実は決して書放しではなかった。
しかし伝授には後になると様々の切紙が何通もつくようになって煩瑣はんさを極めるようになってくる。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
いたずらに典礼ばかり重んじて、虚偽な煩瑣はんさな形式にばかりとらわれた祝日らしくないのがうれしい。
煩瑣はんさなる階級の差等さとう、「おん」とか、「せさせ給ふ」とかいう尊称語を除いてみれば、後世の型にとらわれた文章よりも、この方が、よほど、今日の口語こうごに近い語脈を伝えていて
『新訳源氏物語』初版の序 (新字新仮名) / 上田敏(著)
この丘陵は松の多い雑木山で、その煩瑣はんさな起伏を土地の人は九十九谷なぞと呼んでいます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ことに私をして人工心臓をあこがれしめたものは、心臓に関する極めて煩瑣はんさな学説です。
人工心臓 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
心理試験について知っている読者に、余りにも煩瑣はんさな叙述をおびせねばならぬ。が、若しこれを略する時は、外の読者には、物語全体が曖昧になって了うのだから、実に止むを
心理試験 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
戦術が煩瑣はんさなものになって専門化したことは恐るべき堕落であります。それで戦闘が思う通りにできないのです。ちょっとした地形の障害でもあれば、それを克服することができない。
最終戦争論 (新字新仮名) / 石原莞爾(著)
一度剥がして、また新しいテープを同じ長さに切り、同じ位置に正確に貼っておくということは、理論上できなくはないにしても、実際にはとても面倒で煩瑣はんさで、できるものではない。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
少数の学徒の間に行われた煩瑣はんさなる教理の講説や伝習そのことは、生きた国民の思想とは没交渉であった。仏教の弘通が日本人の生活を印度化したのでないことは、いうまでもあるまい。
保護者との関係の煩瑣はんさな女性に求婚するようなことははばかられるのであった。
源氏物語:44 匂宮 (新字新仮名) / 紫式部(著)
用心深い策略の煩瑣はんさな規則を見ると、憫笑びんしょうに価するようなものばかりであった。
その頃までに、古典電子論は発達の極致に達し、電子の大きさ、剛性ごうせい荷電かでんの分布状態などについて、議論は尽きるところを知らず、煩瑣はんさ哲学の趣きが、ありありと物理学の上に現われていた。
比較科学論 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
他には規模の厖大ぼうだいとか煩瑣はんさな技術の目まぐるしい積みかさねとか、偏った末梢美の誇示とかいう類のものはあっても、よく美の中正を行き芸術の微妙な機能の公道を捉えているものは甚だ少い。
美の日本的源泉 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
伯父は母親のように正面からはげしく反対をとなえはしなかったけれど、聞いて極楽見て地獄のたとえを引き、劇道げきどうの成功の困難、舞台の生活の苦痛、芸人社会の交際の煩瑣はんさな事なぞを長々と語ったのち
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
もう救荒本草きうくわうほんざう類の圖書をあつめる便宜もなくなり、專ら親試しんしに頼るのみである。そして既に五十幾種かの自然生の葉莖を食べ試みた。少し煩瑣はんさわたるが、その名を、思ひついた順序に書き附けて見よう。
すかんぽ (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
世態と日常とは益〻各面から煩瑣はんさになります。そして、私たちは健全な豊富な意味で益〻書生生活に腰を据えなければならないのです。歌舞伎座が立ちゆかず、やすい芝居をするようになるそうです。
旧弊で煩瑣はんさなものは、みんなぶちこはされて、一種の革命のあとのやうな、爽凉さうりやうな気がゆき子の孤独を慰めてくれた。何処よりも居心地のよさを感じて、酸つぱい蜜柑の袋をそこいらへ吐き散らした。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
どの物にも煩瑣はんさな分類がない
南洋館 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
神をも恐れず、一点いつわらぬ陳述の心ゆえに、一字一字、目なれず綴りにくき煩瑣はんさいとわず、かくは用いしものと知りたまえ。
創生記 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ここには煩瑣はんさな生活も世間の義理もありません、夜のしじまと樹や草のほかには、この恋を妨げるものはなにもありません
合歓木の蔭 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
自分で其頃の詩作上の態度を振返つて見て、一つ言ひたい事がある。それは、実感を詩に歌ふまでには、随分煩瑣はんさな手続を要したといふ事である。
弓町より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
またその上に文部省の監督があまりに行き届き過ぎるために教場における授業が窮屈で煩瑣はんさな鋳型にはいってしまって
さるかに合戦と桃太郎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
 都会生活の自由さは、人と人との間に、何の煩瑣はんさな交渉もなく、その上にまた人人が、都会を背景にするところの、楽しい群集を形づくつて居ることである。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
只寺院の側から観た煩瑣はんさな註釈を加えた大冊の書物を、深く究めようともせずに、貯蔵しているばかりである。そして日々の為事には、国から来た新聞を読む。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
時と場合によると物真似をする方がその間の手数と手続と、煩瑣はんさな過程を抜きにして、すぐさま結局だけを応用する事ができるから非常に調法で便利であります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)