晴々せいせい)” の例文
今日は気も晴々せいせいとして、散歩にはあつらえ向きというよい天気ですなア。お父様とッさまは先刻どこへかお出かけでしたな。といつもの調子軽し。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
鼠色ねずみいろの空はどんよりとして、流るる雲もなんにもない。なかなか気が晴々せいせいしないから、一層いっそ海端うみばたへ行って見ようと思って、さて、ぶらぶら。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
造りたての平庭ひらにわを見渡しながら、晴々せいせいした顔つきで、叔母と二言三言、自分の考案になったや石の配置について批評しあった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから少しばかりの薬を与えて「これをのむと非常に気分が晴々せいせいするからお飲みなさい。それから朝晩観音様かんのんさま参詣さんけいなさい」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
はらるだけのことをいはしてしまへば彼等かれらはそれだけこゝろ晴々せいせいとしていきほひ段々だん/\にぶつてるので、そのあひだ機嫌きげんもとつて
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
染めぬいた紺の絣に友禅の帯などを惜しげもなくしめてきりっと締まった、あの姿で手のさえるような仕事ぶり、ほんとに見ていても気が晴々せいせいする。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
手前てめえのような能なしを飼っておくより、猫の子を飼っておく方が、はるかにましだ。」とか、「さっさと出て行ってくれ、そうすれば己も晴々せいせいする。」
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
紅矢は馬が走れば走る程、気持ちがだんだん晴々せいせいして来るようですから、なおも構わずに走らせていますと、そのうちに夜が明け離れて、向うに遠く白く光るものが見えて来ました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
んだ事は、もうめやう。佐々木も昨夜ゆふべ悉くあやまつて仕舞つたから、今日けふあたりは又晴々せいせいして例の如く飛んであるいてるだらう。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
四五日振りの湯上りで晴々せいせいして、戸外おもてへ出るのが嬉しくって、気がいたものらしかった。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「罰などあたっても構わない。こんなラサのような所に生れて来ない方がありがたいのだ。実に気が晴々せいせいした。ラサに居る悪魔共が俺にばちてることが出来れば気がいてる」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
お庄は久しぶりで、こんな晴々せいせいしたところを見ることが出来た。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
であるからして自分が唐詩選とうしせんでも高声こうせいに吟じたら気分が晴々せいせいしてよかろうと思う時ですら、もし自分のように迷惑がる人が隣家に住んでおって
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
足許だけぼんやり見える、黄昏たそがれ下闇したやみを下り懸けた、暗さは暗いが、気は晴々せいせいする。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
佐々木も昨夜ことごとくあやまってしまったから、きょうあたりはまた晴々せいせいして例のごとく飛んで歩いているだろう。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると、いつのにか心が晴々せいせいして今までの心配も苦労も何もかも忘れて、生れ変ったような心持になる。女性の影響というものは実に莫大ばくだいなものだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
むこうで引きり出してくれたのだから、中途で動けなくなった間怠まだるさのない代りには、やっとの思いで井戸を掘り抜いた時の晴々せいせいした心持も知らなかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分はとうとうしまいまで一言いちごんも云わずに兄の言葉を聞くだけ聞いていた。そうしてそれほど疑ぐるならいっそあによめを離別したら、晴々せいせいして好かろうにと考えたりした。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この際はそれよりも窮屈な人間を通り抜けて晴々せいせいしたと云う意識の方が一度に余の頭を照らした。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
代助は笑いながら、両手で寐起の顔をでた。そうして風呂場へ顔を洗いに行った。頭をらして、縁側まで帰って来て、庭を眺めていると、前よりは気分が大分晴々せいせいした。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
病院へ顔を出す前ちょっと綺麗きれいになっておきたい考えのあった彼女は、そこでずいぶん念入ねんいりに時間を費やしたあと晴々せいせいした好い心持を湯上りの光沢つやつやしい皮膚はだに包みながら帰って来ると
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
湯から上ったら始めてったかになった。晴々せいせいして、うちへ帰って書斎に這入ると、洋灯ランプいて窓掛まどかけが下りている。火鉢には新しい切炭きりずみけてある。自分は座布団ざぶとんの上にどっかりと坐った。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
余はその時に心からうれしく感じた。世の中にこんな洒落しゃらくな人があって、こんな洒落に、人を取り扱ってくれたかと思うと、何となく気分が晴々せいせいした。ぜんを心得ていたからと云う訳ではない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ちっと旅行でもなすったらどうです。少しは晴々せいせいするかも知れません」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれども、音も響もない車輪が美くしく動いて、意識に乏しい自分を、半睡の状態で宙に運んで行く有様が愉快であった。青山のうちへ着く時分には、起きた頃とは違って、気色が余程晴々せいせいして来た。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ああ晴々せいせいしてい心持だ」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)