時刻とき)” の例文
なあ、おつかあ、正真正銘、嘘いつはりのねえ話だが、おめえのその御面相が太鼓に見えてさ、おいらがその太鼓で朝の時刻とき
時刻ときちまするので、ただ居てはと思召おぼしめして、婆々に御馳走ごちそうにあなた様、いろいろなものをお取り下さりますように存じます、ほほほほほ。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「だが、夜明けまで。——時刻ときはない。——何をする間もない。ああ、いかなる鬼神でも、その間に、どうして、真の下手人が捕えられよう」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時刻ときばかりすると百姓は便所に往きたくなったから、苦しいのを忍えて庭の隅にある便所へ往って来たが、それからけろりと腹の痛みが癒った。
雀の宮物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「おいとま申す芳江殿」と名残り惜しそうに声を掛けた。「お聞き遊ばせや、一番鶏が帰らねばならぬいつもの時刻ときを告げているではござりませぬか」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
呼聲が地球外に佇ずんでゐるからなんだらうか! 常識外れのした時刻ときを携へてゐるからか! 見るまでもなく返事を
山之口貘詩集 (旧字旧仮名) / 山之口貘(著)
顎十郎は、氷室の腰掛へかけて時間のくるのを待っていると、そのうちにお時計のあるほうからドーンと時刻ときの太鼓。
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
わたしは愚かにも、その金色の小蜘蛛に化した大仙女西王母をゆめ見て、時刻ときを消しては、あわてたりしてゐる。
(旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
を慕って来た千鳥だろう。銀のはさみを使うような澄んだ声が、瀬音にも紛れず、手に取るように聞えて来る。女も藤十郎も、おし黙ったまま、しばらくは時刻ときが移った。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
線香は時刻ときを測つて丁度半刻はんとき(一時間)で煙硝の口火に燃えつくやうにし、それを川の見える窓側に置き、筒先を佛壇の眞ん中に向けて、自分は花見船に乘つて出かけた
私達わたくしたちはあまり対話はなしはいって、すっかり時刻ときつのもわすれていましたが、不図ふとがついてると何処どこかれたか、二人ふたりかみさんたち姿すがたはそのあたり見当みあたらないのでした。
時刻ときにはひまあり、まうで来し人も多くは牧師館に赴きて、広き会堂電燈いたづらに寂しき光を放つのみなるに、不思議やへなる洋琴オルガン調しらべ、美しき讃歌の声、固くとざせる玻璃窓はりまどをかすかにれて
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
万象のこれはみづから光る明るさの時刻とき
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
逢引の時刻ときを忘れてゐる。
影絵 (新字旧仮名) / 富永太郎(著)
時刻とき
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
狼は樹の周囲まわりを廻ることをやめなかった。そして、一時刻ときばかりもすると、廻っていた狼が樹の幹に執っつきはじめた。
鍛冶の母 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「お前達のような凡眼には、時刻ときは深夜、間隔あわいは遠し、なるほどねえ、見えないかも知れない、が、確かに恐ろしい船が、一隻帆走って来るのだよ」
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
空しく時刻ときのうつるのを見て、つひに彼は、この悪魔の身内がこちらの言ひ分を聴き入れようが入れまいが、兎にも角にも用件を切り出すより他はなかつた。
「折角ですが、老先生。もはや事件はあまりに片づいております。もう、そんな時刻ときはありません」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
線香は時刻ときを測ってちょうど半刻はんとき(一時間)で煙硝の口火に燃えくつようにし、それを川の見える窓側に置き、筒先を仏壇の真ん中に向けて、自分は花見船に乗って出かけた
「先生、御検案は。……殺されてから、大体どのくらい時刻ときが経っておりましょう」
相当そうとう時刻ときっているめにうしても気息いきかえさないのでした。
「えらい時刻ときにやって来たものだて! ここは宿屋じゃありましねえで、女地主の邸だがね。」
小半時あまりも時刻ときを経た時、まき生垣いけがきに取り巻かれ、広い庭に厚く植え込みが繁り、その中に萱葺きの屋根などを持った、三棟ほどの風雅の家が、ひっそりと立っているという
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
こえたのは、すでによほど前ではないか。余りに時刻ときが経ち過ぎている為、いかに駒を
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どれ位の時刻ときが經つてから、見に行つたので?」
「そうだ! なんのかのと、時刻ときをうつしてさわがせたのは、このすきをうかがうための徳川方とくがわがたさくだったのだ。おそらく咲耶子さくやこの身は、きゃつらに、うばられたにそういない」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どこやらの時計台でかすかに午後九時の時刻ときを報じている。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その他、上野介様の御代になってからは、寺の荒れたるはつくろい、他領のような苛税かぜいは課せず、貧しきにはほどこし、梵鐘ぼんしょうて久しく絶えていた時刻ときの鐘も村に鳴るようになった程じゃ。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「うるさい! 黙れ! 時刻ときが経つわい!」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「今夜、薄田兼相すすきだかねすけのやしきへ行って兼相と会う約束がしてあるんだ。今から出ても時刻ときが半端だし……。それに、そうだ、貴公の望みももっとよく聞いて置かなければ、先へ行って話もできない」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これや、一筋縄で恐れいる曲者しろものじゃない。お奉行、あれに口をかせるには、だいぶ時刻ときがかかります。てまえに、お任せ下さいましょうか。……では其奴そいつを、ひとまず、湯灌ゆかんさせておきますが」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)