明暮あけくれ)” の例文
持し其翌年女子一人出生しければ夫婦ふうふの喜び云ばかりなく其名をおかうつけ兩人の中のかすがひと此娘お幸が成人するを明暮あけくれたのしみくらしけるとぞ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
年上で嫉妬深いお杉は、明暮あけくれに夫の不実を責めて、ある時はお前を殺して自分も死ぬとまで狂いたけった。重蔵はいよいよお杉に飽いた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
みてはしりがきうるはしく四書五經ししよごけい角々かど/″\しきはわざとさけて伊勢源氏いせげんじのなつかしきやまとぶみ明暮あけくれ文机ふづくゑのほとりをはなさず
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
天下動乱の色あらはる。いかゞ成行なりゆくべきらん。心ぼそきものなり。神慮にまかせて、明暮あけくれするまで也。無端事はしなきこと。無端事。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
因縁いんねんずくと思われるほどに骨身に食い入っていて、明暮あけくれ、弁信を憎み憤っていたが、さてその後、弁信は再びの土蔵へは帰って来ませんでした。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼が明暮あけくれ望んでいた通り、恩人に大なる危害が迫っている。しかもその危害の糸を引く者は、実に彼自身であった。
恩を返す話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「これを見れば延喜えんぎ御代みよに住む心地する」といって、明暮あけくれに源氏を見ていたというが、きまりきった源氏を六十年もそのように見ていてまなかったところは
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そして明暮あけくれ蔬菜の生長を見て楽んでいるうちに、雲東は自分でも伯雨のまねをしてみずから土に親んで得た園味を思うさま描き現わしてみたいと思うようになった。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
文「まア何は扨置さておき、明暮あけくれ其方そちのことを案じぬ日とてはなかった、く達者でいてくれた、人も通わぬ無人島、再び其方に逢うというのはんな嬉しいことはない」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
虫より細い声だけれども、五十年の明暮あけくれを、一生懸命、そうした信仰で鐘楼を守り通した、骨と皮ばかりのじいが云うのだ。……鐘のおのずから鳴るごとく、僕の耳に響いた。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昨日とち今日と過ぎ、たちまち三四年経つてしまひました。けれども明暮あけくれ子良しりやうがどんなに待つても天人の母は帰つて来ません。どうなつたものやら風の便りすらないのでした。
子良の昇天 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
それ以来、私は明暮あけくれこの本をひっくり返して見ては色々の植物の名を憶えた。当時は実際の知識はあるが、名を知らなかったので、この本について多くの植物の名を知ることができた。
君のベターハーフたるべく、明暮あけくれ、身をもだえて、恋いこがれている可憐の少女に相違ない事が、科学的立場から見ても寸分間違いのない事を、若林と吾輩の専門の名誉にかけて誓言しておく。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
次第にさぶき明暮あけくれの風 知足ちそく
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
つがせ其身はたゞ明暮あけくれ念佛ねんぶつの門に入て名號みやうがうとなふるほか他事たじなかりしとぞ依て追々おひ/\佛果ぶつくわを得富右衞門は長命ちやうめいにてつひに年齡八十一歳に至りねむるが如く大往生だいわうじやうを遂げしとぞ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
嬌然にっこり笑っているいやらしい笑い方が、だんだんとお絹の面になってくると、肉体そのものまでが異人ではない、明暮あけくれ自分のそばにいるあの模範的の淫婦娼婦だ。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
先生様が言わっしゃるには、伝もない、おしえもない。わしはどうした結縁けちえんか、その顔色かおつきから容子ようすから、野中にぼんやり立たしましたお姿なり、心から地蔵様が気に入って、明暮あけくれ、地蔵、地蔵と念ずる。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
娘は女郎じょうろにならなけりゃアならない、悪い病を受けて死ぬかも知れないから、明暮あけくれ凶事のないように、平常ふだん信心する不動様へでもんでも、お線香を上げてくれと、男泣きに泣きながら頼みましたが
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
神慮にまかせて、明暮あけくれするまで也。無端事はしなきこと。無端事。
折々の記 (旧字旧仮名) / 吉川英治(著)
知て何時にても用達ようだてて呉るのみならず諸處ヘ引付ひきつけ出入場も多く出來るに付明暮あけくれ立入たちいり隱居いんきよの用事とあれば渡世とせいやすみても致し居たり或時雨天うてんにて彦兵衞はあきなひを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それはほんとうに私たちの切なる望み、明暮あけくれ祈っている事で御座います。
アイヌ神謡集 (新字新仮名) / 作者不詳(著)