しろ)” の例文
「金はねえがしろがある」懐中ふところからくしを取り出した。「先刻さっき下ろした鰻掻、歯先に掛かった黒髪から、こんな鼈甲べっこうが現われたってやつさ」
隠亡堀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
『おわかりになりしや、其時こそは此の老婆ばゞにも、秋にはなき梶の葉なれば、渡しのしろは忘れ給ふな、世にも憎きほど羨ましき二郎ぬしよ』
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
我は唯だ世の人の多く語るところにして、我が爲めにもをかしとおもはるゝものなるからに、人々の一粲いつさんを博するしろにもとおもひし迄なり。
そもそも、物産や究理の学問は、儒書をひねくるのとちがって、模型を作ったり、究理実験をしたり、薬品のしろだけでも並々ならぬ金がいる。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
小鳥を刺してそれをその日その日の生計たつきしろにしている鳥刺しが、獲物を入れるべき袋を腰にしていないということは、大いに不埓千万ふらちせんばんなのです。
内侍所ないしどころに雨や月影が洩って、冬ともなれば、御衣ぎょいしろにすら事を欠くと、勿体なげに沙汰する下々の憂いもまことであろう。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旧記によると、仏像や仏具を打砕いて、そのがついたり、金銀のはくがついたりした木を、路ばたにつみ重ねて、たきぎしろに売っていたと云う事である。
羅生門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
我がその人の一人娘として生まれ出し頃には、父君も母君も、日毎に自ら耕したまひ、辛ふじて衣食のしろを支へたまふほどの、貧しき御身になり下りゐたまへしなりとか。
葛のうら葉 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
その頃、国原の水は、水渋そぶ臭く、土濁りして、日のみ子さまのお喰しのしろに叶いません。天の神高天たかま大御祖おおみおや教え給えと祈ろうにも、国中は国低し。山々もまんだ天遠し。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
それも毎日見ては段々に面白味が減じて、後には頭の痛む時などかへつて頭を痛めるしろになる。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
すべての者は、その豊かなる内より投げ入れ、この寡婦はその乏しき中より、すべての所有、すなわち己が生命のしろをことごとく投げ入れたればなり。(一二の四三、四四)
自分の手による労働だけにたよって生活のしろをえていた時のことであった。
新井白石の折焚柴おりたくしばを読ませても、藤田東湖の常陸帯ひたちおびを読ませても、神尾にとっては一笑のしろでしかあるに過ぎないけれど、夢酔道人の「夢酔独言」ばっかりは、こいつ話せる! いずれにしても
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
パンのしろにかえながらいつまでもこの上海シャンハイ頑張がんばっている決心ですぞ
茶の煙かすかなれども現身うつしみ朝餐あさげしろに立てし茶の煙
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
されど君は君自らの生活のしろを得給うゆえに
遥かなる憧憬 (新字新仮名) / 西村陽吉(著)
わが嫁入の衣裳いしょうしろを造らんとにや。
銀座の朝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
混食のしろとするてふかたじけなさよ。
生活のうるほひ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
うがひのしろ水薬すゐやく
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
舊記によると、佛像や佛具を打砕うちくだいて、そのがついたり、金銀のはくがついたりした木を、路ばたにつみ重ねて、たきぎしろに賣つてゐたと云ふ事である。
羅生門 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そは他年わが拿破里の遭遇の悉く夢ならぬを證せんしろにもとてなり。嗚呼、われ拿破里を見たり、拿破里の市を彷徨はうくわうせり。わが得しところそも幾何いくばくぞ、わが失ひしところはたそも幾何ぞ。
光厳こうごん光明こうみょう崇光すこうの三上皇も、御幸みゆきしていらせられたので、一山には、守護の武士たちや、公卿くげたちも、おびただしい数にのぼり、賊軍の襲来に備える兵馬兵糧のしろはもとよりのこと、永い年月のうちには
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あるは聞く、化粧けはひしろ毒草どくさうの花よりしぼり
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
されどそは充分なる生活のしろを購い難し
遥かなる憧憬 (新字新仮名) / 西村陽吉(著)
觀棚さじきしろは甚だやすく晝夜とも空席を留めぬを例とす。
昼餐ひるげしろやいただかう。
第二海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
昼餐ひるげしろやいただかう。
第二海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)