ちり)” の例文
十月廿一日、広い森林を抜けて川上かはかみの方へ行つたときには、広い葉の並木はしきりに落葉し、さういふちりしいた落葉を踏んで私どもが歩いて行つた。
イーサル川 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
十月もなかばを過ると、落葉の早い碧梧桐あおぎり、朴、桜などはほとんどちり尽し、ほかの樹木も枝がうすくなって、透いて見える秋の空がくっきりと高かった。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
此邸こゝにては煤取すゝとりさゝ座敷ざしきにこぼれて、ひやめし草履ぞうりこゝかしこの廊下らうかちりみだれ、お雜巾ぞうきんかけまするもの、おたゝみたゝくもの家内かない調度てうどになひまはるもれば、お振舞ふるまひさゝふて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
みちにさした、まつこずゑには、むさらきふじかゝつて、どんよりした遠山とほやまのみどりをけた遅桜おそざくらは、薄墨色うすずみいろいて、しか散敷ちりしいた花弁はなびらは、ちりかさなつてをこんもりとつゝむで、薄紅うすあかい。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
低徊るに忍びず、墓門に立尽して見るともなしに見渡せば、其処そこここにちりのこる遅桜おそざくらの青葉がくれに白きも寂しく、あなたの草原には野を焼くけむりのかげ、おぼろおぼろに低くい高く迷いて
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
信如は今ぞ淋しう見かへれば紅入べにいり友仙の雨にぬれて紅葉もみぢかたのうるはしきが我が足ちかくちりぼひたる、そぞろにゆかしき思ひは有れども、手に取あぐる事をもせずむなしう眺めて憂き思ひあり。
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
梅も大方はちりくした頃であるが、名にし負う信濃路は二月の末からふりつづく大雪で宿屋より外へは一歩ひとあしも踏出されぬ位、日々炉を囲んで春の寒さにふるえていると、ある日の夕ぐれ、山の猟師が一匹
信如しんによいまさびしうかへれば紅入べにい友仙ゆうぜんあめにぬれて紅葉もみぢかたのうるはしきがわがあしちかくちりぼひたる、そゞろにゆかしきおもひはれども、とりあぐることをもせずむなしうながめておもひあり。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)