ふる)” の例文
旧字:
あんまひどすぎる」と一語ひとことわずかにもらし得たばかり。妻は涙の泉もかれたかだ自分の顔を見て血の気のないくちびるをわなわなとふるわしている。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
平田は上をき眼をねむり、後眥めじりからは涙が頬へすじき、下唇したくちびるは噛まれ、上唇はふるえて、帯を引くだけの勇気もないのである。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
そう思って、この痩せ衰えた盲人めくらを見ると、何となくこの盲人が怖しいように感ぜられた。二人はその後無言であった。私の手は折々おりおりふるえた。
黄色い晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかし自分も貧乏が大好だいすきだとも云兼いいかねる。貧乏神の渋団扇であおがれてふるえながら、ああ涼しいと顎を撫でるほど納まりかえっている訳にも行かぬ。
貧富幸不幸 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
女のかおり——書中の主人公が昔の恋人に「ファースト」を読んで聞かせる段を講釈する時には男の声も烈しくふるえた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
としきりに彼らをんでかからんとつとめたが、なかなかめない。いかに心中では豪傑をてらわんとするも、真底しんそこよりの豪傑でないから、ますます怖気おじけてガタガタふるえる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
無理やりに葡萄酒のびんつかませて、男の手の上に御自分の手を持添えながら、茶呑茶椀へ注ごうとなさいました。御二人の手はぶるぶるとふるえて、酒は胡燵掛こたつがけの上にこぼれましたのです。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
といいながら、銚子ちょうしの裾の方を器用に支えて、渡瀬の方にさし延べた。渡瀬もそれを受けに手を延ばした。親指の股に仕事いぼのはいった巌丈な手が、不覚にも心持ちふるえるのを感じた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
自分の前に寒さと一種の畏敬の念にふるえて立っている子供を見下した——その眼には涙がたたえられて、顔には神々こうごうしい柔和な光りが輝いていた。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
まだ温気あたたかみを含まぬ朝風は頬にはりするばかりである。窓に顔をさらしている吉里よりも、その後に立ッていた善吉はふるえ上ッて、今は耐えられなくなッた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
いや、番頭の白い顔がちらとこっちを振り返ったのが見えた。てっきりその身の罪を告げている! とお作は思った。お作は顔を蒼青まっさおにしてぶるぶるとふるえた。
ネギ一束 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
まゆしわむる折も折、戸外おもてを通る納豆売りのふるえ声に覚えある奴が、ちェッ忌々いまいましい草鞋わらじが切れた、と打ち独語つぶやきて行き過ぐるに女房ますます気色をしくし
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
八千円ばかりの金高から百円を帳面ちょうづら胡魔化ごまかすことは、たとい自分に為し得ても、直ぐあと発覚ばれる。又自分にはさる不正なことは思ってみるだけでも身がふるえるようだ。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
私は頭から冷水を浴びせられたよりもふるい上ったが、此処ここだと思って、度胸を据えて、戦える指頭で皺になった薄青い袋から小さな紙包をつまみ出して
老婆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「吉里さん、げるよ、献げるよ、私しゃこれでもうたくさんだ。もう思い残すこともないんだ」と、善吉は猪口を出す手がふるえて、眼を含涙うるましている。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
荒れわたる海の怒濤の中で惨めにふるへてゐる私を発見した。孤独と戦ふために歯を喰ひしばつてつとめて忍耐してゐる私を発見した。次第に私はいろ/\なものを捨てた。
心の階段 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
延喜えんぎでも無いことを云ふ、と眉を皺むる折も折、戸外おもてを通る納豆売りのふるへ声に覚えある奴が、ちェッ忌〻しい草鞋が切れた、と打独語うちつぶやきて行き過ぐるに女房ます/\気色をあしくし
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
吉太はさも大事そうに、自分の心臓でもてのひらに載せているように、雪焼のした汚らしい手をふるわしていた。で、私の言ったことなどに耳を傾けていなかった。
不思議な鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
赤児は火のついたように間断ひっきりなしに泣く。それを聞くと、母親というものは総身の血がふるえるほどに苦しく思った。で、お作もその身の食物を求めるよりもまず赤児の乳を尋ねまわった。
ネギ一束 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
また折々子供の時分に聞いた三味線の調子を思い出して、耳に、ふるい付くその怨めしいような歌の声を考えた。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
彼は、見つかった! と頭の上で言われる時には、身がぶるぶるとふるえるように、ぞっとするのを覚えた。
過ぎた春の記憶 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「あっ、幽霊だ!」と一人は覚えず叫んで、其処に腰をぬかした。同じくこれを見た一同は満身に水を浴せられたようにぶるぶると手足がふるえてすくんでしまった。
北の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「私は家へ帰るよ。」と半分周蔵に気兼きがねをして、——このまま彼の苦しむのを見捨てて帰るのが不人情のようで心にとがめたから——声がふるえたのである。すると周蔵は私の名を呼んだ。
黄色い晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
寒さにふるえている、力のない姿が、この衰えた声で目に見るように分った。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
太郎は少し言葉がふるえて
百合の花 (新字新仮名) / 小川未明(著)