ほしいまゝ)” の例文
枕元にひゞく上草履うはざうりの音もなく、自分は全く隔離されたる個人として外縁ヴエランダの上なる長椅子に身をよこたへ、ほしいまゝなる空想に耽けることが出来た。
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
彼も人生を諸行無常のメリーゴーラウンドと感じて、楽みをほしいまゝにするときの人間の哀れさを胸に覚え出したためでしょうか。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
感情に就いての證言を提出した——また過ぎ去つた二週間近くの間私がほしいまゝにしてゐた心の状態に就いてもまた證言した。
かれは大いに疲労して、白昼はくちうの凡てに、惰気だきを催うすにも拘はらず、知られざる何物なにものかの興奮のために、静かなほしいまゝにする事が出来ない事がよくあつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
自然に対する驚異、又は自然力に対する恐怖、知識と体感との程度が低ければ低いほど、その無法な想像の力が根本の要求と共に跳梁をほしいまゝにするのである。
エンジンの響 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
さればがう屋敷田畝やしきたんぼ市民しみんのために天工てんこう公園こうゑんなれども、隱然いんぜんおう)が支配しはいするところとなりて、なほもち黴菌かびあるごとく、薔薇しやうびとげあるごとく、渠等かれらきよほしいまゝにするあひだ
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
燒け殘りたる築垣ついがきの蔭より、屋方やかたの跡をながむれば、朱塗しゆぬり中門ちゆうもんのみ半殘なかばのこりて、かどもる人もなし。嗚呼あゝ被官ひくわん郎黨らうたう日頃ひごろちように誇り恩をほしいまゝにせる者、そも幾百千人の多きぞや。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
そして事実になるまで、おれの胸には一度もうたがひきざさなかつた。今度はどうもあの時とは違ふ。それにあの時は己の意図がほしいまゝに動いて、外界げかいの事柄がそれに附随して来た。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
為憲、明に、貞盛と協謀し、三千余の兵を発し、ほしいまゝに、兵庫の器仗をとり出して、戦ひを挑む。こゝにおいて将門、やむをえず、士卒を励まし、為憲等が軍を討ち伏せたり。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
而るに為憲と貞盛等と心を同じうし、三千余の精兵を率ゐて、ほしいまゝに兵庫の器仗戎具きぢやうじゆうぐ並びにたて等を出して戦をいどむ。こゝに於て将門士卒を励まし意気を起し、為憲の軍兵を討伏せ了んぬ。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
左大臣が権勢をほしいまゝにしていた間こそ、彼女も本院の北の方として多くの人の崇敬を集め、羨望の的となっていたであろうが、左大臣の死後は、恐らく昔日せきじつ栄華えいがも一朝の夢と化して
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
悍悪かんあくの事に狼の字をいふもの○残忍ざんにんなるを豺狼さいらうの心といひ○声のおそろしきを狼声らうせいといひ○どくはなはだしきを狼毒らうどくといひ○事のみだりなる狼々らう/\反相はんさうある人を狼顧らうこなきを中山狼○ほしいまゝくふ狼飡らうざんやまひはげしき
學校の書生おほしといへども、その家世、その才智、並に人に優れたるは、ベルナルドオといふ人なりき。遊戲に日をおくるは咎むべきならねど、あまりに情を放ちて自らほしいまゝにするさまも見えき。
水の鋼鉄にうなじを敲かしほしいまゝなるしばしのとき……
水浴び (新字旧仮名) / 仲村渠(著)
私はかゝる夜を幾度いくたび、ほしいまゝをんなと手を取り、重たげに蔽ひかぶさる櫻の花の下を歩いたであらう。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
一門の采邑、六十餘州のなかばを越え、公卿・殿上人三十餘人、諸司衞府を合せて門下郎黨の大官榮職をほしいまゝにするもの其の數を知らず、げに平家の世は今を盛りとぞ見えにける。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
蘭軒は或は多く此に力を費さなかつたかも知れない。わたくしは嘉永七年に成つた枳園本の体裁が、全く枳園自家の労作に出でたと云ふことには、敢てほしいまゝに異議をさしはさまうとはしない。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
悍悪かんあくの事に狼の字をいふもの○残忍ざんにんなるを豺狼さいらうの心といひ○声のおそろしきを狼声らうせいといひ○どくはなはだしきを狼毒らうどくといひ○事のみだりなる狼々らう/\反相はんさうある人を狼顧らうこなきを中山狼○ほしいまゝくふ狼飡らうざんやまひはげしき
予ハ二十分以上モ所謂ネッキングヲほしいまゝニシタ。
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
大阪は全国の生産物の融通分配を行つてゐる土地なので、どの地方に凶歉きようけんがあつても、すぐに大影響をかうむる。市内の賤民が飢饉に苦むのに、官吏や富豪が奢侈をほしいまゝにしてゐる。平八郎はそれをいきどほつた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)