思出おもいだ)” の例文
けれどもそのうちにフイッと何か思出おもいだしたように私の顔を押し離すと、私の眼をキットにらまえながら、今までと丸で違った低い声で
支那米の袋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
與太郎は、あの話を思出おもいだしました。どんな物をでも可愛がってやろう、そしてどんな物とでも話をして、仲よくしようとそう考えました。
たどんの与太さん (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
それを、その折からお十四五年ののち、修禅寺の奥の院みち三宝ヶ辻にたたずんで、蛙を聞きながら、ふと思出おもいだした次第なのである。
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「じゃあ伯父さん、僕はまた明日伺います」龍介はなにを思出おもいだしたか、そういうと共に大急ぎで書斎をとび出した。
黒襟飾組の魔手 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その町の灯を見た時、母さん狐は、ある時町へお友達と出かけて行って、とんだめにあったことを思出おもいだしました。
手袋を買いに (新字新仮名) / 新美南吉(著)
今更いうも愚痴なれど……ほんに思えば……岸よりのぞ青柳あおやぎの……と思出おもいだふしの、ところどころを長吉はうち格子戸こうしどを開ける時まで繰返くりかえし繰返し歩いた。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
全体は医者の塾であるから衛生論もやかましく言いそうなものであるけれども、誰も気が付かなかったのかあるい思出おもいださなかったのか、一寸ちょいとでもやかましくいったことはない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
同様おなじよう手燭てしょくを外に置いて内へ入って蹲踞しゃがんでいながら、思わず前の円窓まるまどを見て、フト一ヶ月ばかり前に見た怪しき老婆を思出おもいだした、さあ気味が悪くなってたまらないが
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
ふと思出おもいだして、例の医者から勧められた貝を出して、この貝を食っては待ち、食っては待って、とうとう潮が引いて、両人が出てくるまでにはよほど多量の貝を平げました。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お前が日頃まぼろしに描いている、理想境の、たった一部分丈けでも思出おもいだして見るがいい。それに比べては、一人と一人の人間界の恋などは、余りに小さな取るにも足らぬ望みではないか。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
過去かこ思出おもいだすのもいやだ、とって、現在げんざいもまた過去かこ同様どうようではないか。』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
猟人「短くって、長くって」猟人は、自分が何をしているかを思出おもいだして、「坊ちゃん、ぼくはその兎を探しているのだよ」
(新字新仮名) / 竹久夢二(著)
忘れがち……と言うよりも、思出おもいださない事さえ稀で、たまに夢にて、ああ、また(あの夢か。)と、思うようになりました。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は冬の書斎のひる過ぎ。幾年いくねんか昔に恋人とわかれた秋の野の夕暮を思出おもいだすような薄暗い光の窓に、ひとり淋しく火鉢にもたれてツルゲネーフの伝記を読んでいた。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
その貧乏が過ぎさった後で昔の貧苦を思出おもいだして何が苦しいか、かえって面白いくらいだから、私は洋学を修めて、その後ドウやらうやら人に不義理をせず頭を下げぬようにして
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「あッ、その探偵で思出おもいだした」
天狗岩の殺人魔 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
留吉は、長い間こがれていた都を見物することも、何か仕事を見つけることも、また昔のお友達を思出おもいだすことも忘れてしまったように見えました。
都の眼 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
これで思出おもいだしたが、この魔のやることは、すべて、笑声わらいごえにしても、ただ一人で笑うのではなく、アハハハハハとあだか百人の笑うかの如きひびきをするように思われる。
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
思出おもいだしても胸が悪いようです。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それよりも、それから後にAが、あの時のことを思出おもいだして、ちょっと顔を赤くするほどはずかしかったことがありました。
船虫ふなむしむらがって往来を駆けまわるのも、工場の煙突えんとつけむりはるかに見えるのも、洲崎すさきへ通う車の音がかたまって響くのも、二日おき三日置きに思出おもいだしたように巡査じゅんさが入るのも
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
留吉は、小学校時代の友達で、村長の次男がいま都に住んでい位置を得てくらしていることを思出おもいだしました。
都の眼 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
「その時の事を思出おもいだすもの、ほかに何が居ようも知れない時、その蔀を開けるのは。」
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あとの方のお話は、雑誌の挿絵にそえたもので、少年の頃見たり聞いたりした話を思出おもいだしてかいたのです。
はしがき (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
手箪笥てだんす抽斗ひきだし深く、時々思出おもいだして手にえると、からなかで、やさしいがする。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
棟瓦むねがわらをひらりとまたいで、高く、高く、雲の白きが、かすかに動いて、瑠璃色るりいろ澄渡すみわたった空を仰ぐ時は、あの、夕立の夜を思出おもいだす……そして、美しく清らかな母の懐にある幼児おさなごの身にあこがれた。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
で、見なくっても、逢わないでも、忘れもせねば思出おもいだすまでもなく、何時いつも身に着いていると同様に、二個ふたつ、二人の姿もまた、十年見なかろうが、逢わなかろうが、そんなにあいだを隔てたとは考えない。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……思出おもいだしても気味の悪い処ですから、耳は、とがり、目は、たてに裂けたり、というのが、じろりとて、穂坂の矮小僧ちびこぞうおどかしてろう、でもって、魚市の辻から、ぐるりと引戻ひきもどされたろうと
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
顔を見合せたが、お辻は思出おもいだしたやうに、莞爾にっこりして
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
思出おもいだしたように唐突だしぬけにいった。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
出家は思出おもいだしたように
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)