心頭しんとう)” の例文
それが狂念となって潜んでいるが、時としては表面にあらわれてかれをおびやかした。遺伝というものが心頭しんとうからみついていて離れない。
とつ! 心頭しんとう滅却めつきやくすればなんとかで、さとればさとれるのださうだけれど、あついからあつい。さとることなんぞはいまもつて大嫌だいきらひだ。……
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
心頭しんとうを滅却すれば火もおのずから涼し。——そんなむずかしいさとりを開くまでもなく、誰でもおのずから暑中の涼味を見いだすことを知っている。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
胸のせまること急に、身内の血はことごとくその心頭しんとうに注ぎて余さずらるるかと覚ゆるばかりなるに、かかる折は打寛うちくつろぎて意任こころまかせの我が家に独り居たらんぞき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
心頭しんとうめっすれば火もすずし——と快川和尚かいせんおしょう恵林寺えりんじ楼門ろうもんでさけんだ。まけおしみではない、英僧えいそうにあらぬ蛾次郎がじろうでも、いまは、火のあついのを意識いしきしなくなった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
亜米利加アメリカではあるまいし、いかり心頭しんとうに発したものだ。そうおっしゃればそうですが、何でも困ります、あれは酒の讃美ですというんだ。わからないのも程があると思ったね。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
六ヶ月してひそかに長崎の方に行き、松木まつきおよそ一年ばかりも其処そこに居る中に、本藩の方でも松木の事を心頭しんとうに掛けてその所在を探索し、大久保おおくぼ岩下いわした重野しげのを始めとして
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
この言葉を聞くと共に、一時静まっていた心頭しんとう怒火どかが、また彼の眼の中に燃えあがった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
らうたちまかほいろあをあかく、くちびるふるはせて惡婆あくば、とさけびしが、怒氣どき心頭しんとうおこつて、よりは黒烟くろけふりのごとく、紙幣しへいふみ寸斷ずた/\にいててゝ、直然すつくたちしさまひとなば如何いかなりけん。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
見て彌々驚き眼をとぢかしらを下げて居けるに大岡殿如何に半四郎かれの證據を申立よと云れしかば後藤は久兵衞を見るやいなや忽ち怒り心頭しんとうはつしヤイ久兵衞おのれは大膽不敵の惡黨あくたうなり先年三島の一件を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
が、そのときはもう全然ほかの興味に彼女は身をゆだねていた。雨の日のシャンゼリゼエに留度とめどもなく滑る自動車の車輪タイヤのように、彼女は自分の心頭しんとうがどこへ流れて行くかじぶんで知らないのである。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
眼裏がんりちりあれば三界はせまく、心頭しんとう無事ぶじなれば一しょうかんなり」
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
でいまここに、蛾次郎の顔をみ、竹童のすがたを見ると同時に、宮内くないは、みずうみをへだてたかなたのいくさのことも、きれいに心頭しんとうから忘れさって、まことに慈父じふのような温顔おんがんになっていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なんの、心頭しんとうをしずめれば、火もおのずからすずしい——」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大きな鶏どもは呆れかつ怒り心頭しんとうに発して
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)