得度とくど)” の例文
祇園の歌蝶は憲政芸妓として知られ、選挙違反ですこしの間つみせられ、禅門に参堂し、富菊は本願寺句仏上人くぶつしょうにん得度とくどして美女の名が高い。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
彼は得度とくどしがたき悪魔として女人にょにんを憎んでいるらしく、いかなる貴人あてびとの奥方や姫君に対しても、彼は膝をまじえて語るのを好まなかった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「わしの、このまげをひとつ、この剃刀でちょん切っておくんなさい——今日の日を縁に、お前さんに得度とくどをしてもらいてえんだ」
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「伏姫は此形勢ありさまを。つく/″\と見給ひて。此犬誠に得度とくどせり。うらめるものゝ後身さいらいなりとも。既に仏果を得たらんには。」云々しか/″\
得度とくどをうけた時の小さい稚子僧ちごそうの時のすがたと、十九歳の今の範宴とを思い比べれば、まったく、そういう声が出るのだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして其処には実にクラリモンドが横はつてゐた。わしの得度とくどの日に見たのと寸分も違ひなく横はつてゐた。彼女の姿は其時と変りなく美しい。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
「何んだつて頭なんか丸めたのか、色戀沙汰に出家しゆつけ得度とくどは變だと思つて訊くと、成程これには深い仔細があつたさうで」
大臣参議の思いものや夫婦仲のいい判官府生ふせいの北ノ方、得度とくどしたばかりの尼君など、むずかしければむずかしいほどいいので、いちど見こまれたら
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
彼は間もなく、浪華に近い曹洞の末寺に入って得度とくどした。そこで、一年ばかりの月日を過してから、雲水の旅に出て、こし御山みやまを志して来たのである。
仇討三態 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それから趙州の観音院に移つて、始めて人を得度とくどし出した。さうして百二十の高齢に至る迄化導けだうもつぱらにした。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
得度とくどの御儀式が終りも果てず、折からさし上つた日輪の爛々らんらんと輝いた真唯中から、何やら雲気がたなびいたかと思へば、忽ちそれが数限りもない四十雀しじふからの群となつて
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
はな成佛じやうぶつ得度とくどなすともいふ何樣なにさま善惡ぜんあく相半あひなかばすべし偖も源八は彼の與八に暇のいでたるは我故なり今は云寄いひよる手蔓てづるもなく成りしかば通仙夫婦の者に遺恨ゐこんはらさばやと思ひてひそか鹿しか
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その得度とくどして名を公瑜と号することになったのは、翌々明応七年十五歳の時である。
そなたはまだ、出家をするのに一二年があるが、まろはことし得度とくどするのだと、上人が仰っしゃっていらしった。だが、この忌まわしい根性が直らぬうちは、菩提の道へ志したとて何のかいがあろう。
二人の稚児 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
春の雨高野の山におん稚児の得度とくどの日かや鐘多く鳴る
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
春の雨高野の山におんちご得度とくどの日かや鐘おほく鳴る
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
特にここにくだって得度とくどしたもうのじゃ。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「たれが、嘘や手段に、頭をるか。——わしはついきのう、上人のおゆるしを賜わって、岡崎の善信どのの手で得度とくどしていただいたのだ」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
凡夫の初心より仏果の極位ごくいに至るまで、修行の方法や、得度とくどのすがた等をつぶさにのべ、これ等の方は皆義理も深く利益もすぐれているから、機法さえ相応すれば得脱は疑う処ではないが
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
上人の手によって得度とくどして、了海りょうかいと法名を呼ばれ、ひたすら仏道修行に肝胆を砕いたが、道心勇猛のために、わずか半年に足らぬ修行に、行業ぎょうごう氷霜ひょうそうよりもきよく、朝には三密の行法を凝らし
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「……実は、この十八公麿に、お得度とくどを賜わりまして、末ながくお弟子の端にお加えくださるわけには、参りますまいか」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何をいうぞ忘れッぽいという一病があると申すのじゃ。得度とくどのさい授けた五つのかいと、三を忘れたの」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あたまは、きれいに剃髪ていはつしており、それもこんどは、かりでなく、真光寺の内で得度とくどをうけていたのである。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
源五兵衛は、主人の出家した日から、自分も、武門に望みを絶ち、まだ髪こそろさないが、すでに西行が得度とくどした寺に誓いを入れて、西住さいじゅうという法名までこい受けていた。
本格に得度とくどをうけて、それ以後は法名崇鑑そうかんを名のり、また世上、相模入道どのとも称されたが、まだその頃は、伊吹の道誉とおなじように、青い剃り頭も、つまりは時好の新粧として
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さて入寺にゅうじ登山の日となれば、二ちょう山轎やまかごの荷持ちの男どもが五台山へさしていった。すでに一山の長老や僧衆とも、得度とくどの式、贈物ぞうもつ施入せにゅう、あとの祝いなど、諸事しめし合せはついている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
香炉こうろ薫々くんくんたる龍煙りゅうえんを吐き、この日長者が供えたお香料こうりょう銀子ぎんす、織物、その他の目録にまずうやうやしく敬礼きょうらいをほどこす。そこでがいせい、魯達が発心ほっしんによる出家得度とくどの願文を高々と読む。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鉄之丞は、高僧が、得度とくど授戒じゅかいでもするように、厳粛な顔つきをして、剃刀をうごかしていたが、半分ぐらいまで剃って、きれいな大坊主が出来かけると、誰か、くすッと笑った者があった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——すこしその、わけがありまして、急に私は、還俗げんぞくしようと思い立ちました。もっとも、まだ、和上わじょうから、ほんとの得度とくどもうけていない身ですから、還俗するといっても、いわなくても、元々、ありのままなんですが」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)