嶮路けんろ)” の例文
けれど途中に、呉の蒋欽しょうきん、周泰の二将が、嶮路けんろやくして待っていた。河辺にたたかい、野にわめきあい、闇夜の山にまた吠え合った。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
提灯の火影に照らして、くらき夜道をものともせず、峻坂しゅんはん嶮路けんろおかして、目的の地に達せし頃は、午後十一時を過ぎつらん。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
案内は白衣にへいさゝげて先にすゝむ。清津きよつ川をわたりやがてふもとにいたれり。巉道さんだうふみ嶮路けんろに登るに、掬樹ぶなのき森列しんれつして日をさへぎり、山篠やまさゝしげりてみちふさぐ。
高崎から平久里へぐりに滞在してさき、白浜、野島の嶮路けんろ跋渉ばっしょうして鏡ヶ浦に出るやはるかに富岳を望み見た。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
バンヤンの嶮路けんろに向けて悪魔と戦わせてやろうか、気難し屋のBをラ・マンチアの紳士と相対せしめて問答させてやろうか、ピザの学生をスウィフトの飛行島に赴かせて
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
そこは大仏岳の南側にあり、断崖の多い嶮路けんろをゆかなければならない。特に「大崩れ」と呼ばれる崖道は岩質がもろいとみえ、皿大さらだいに欠けた岩が、狭い道の上へ絶えず落ちて来る。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
箱根の嶮路けんろにかかって、後部の大きな硝子戸がらすどに、機関車がぴったりとくっつき、そのまま轟々ごうごうと真っ黒い正面をとどろかして押し昇った時にもそれを見たこの子は、それこそひとりで大喜びであった。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
六根清浄ろっこんしょうじょう、六根清浄、そうして、人生の嶮路けんろを互に手をとり合ってきた道づれが、途中でこごえてしまったようなさびしさを感じた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
案内は白衣にへいさゝげて先にすゝむ。清津きよつ川をわたりやがてふもとにいたれり。巉道さんだうふみ嶮路けんろに登るに、掬樹ぶなのき森列しんれつして日をさへぎり、山篠やまさゝしげりてみちふさぐ。
遠隔から急いで来る時は、馬の使える地帯では馬を用い、嶮路けんろにかかると、自身の脛で飛ぶことにしているらしかった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
清水川原しみづかはらは越後の入り口、湯本ゆもとは信濃に越るの嶮路けんろあるのみ。一夫いつふこれを守れば万卒ばんそつがた山間幽僻さんかんいうへきの地也。里俗りぞくつたへに此地は大むかし平家の人のかくれたる所といふ。
また味方のうちにすら嫉視しっしはいも尠なくない——いわゆる人生の嶮路けんろにさしかかっている彼として——竹中半兵衛をたのむことはなおさら切実であった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふもとでもらった、蛍火ほたるびほどの火縄ひなわをゆいつのたよりにふって、うわばみの歯のような、岩壁をつたい、百足腹むかでばら、鬼すべりなどという嶮路けんろをよじ登ってくる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど、貞光口さだみつぐちから難なくここへ来た三位卿の一行と、道なき裏山の、それも山番の目を忍び忍びくる彼とは、時間にして半日、嶮路けんろの不利にしてだいぶな差がある。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、徳川家とくがわけの者や、諸藩しょはんのものは、この嶮路けんろの遠駆けに、馬をひきだしてきた無智むちをわらった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
木曾の刃囲じんいを切り破って、お綱と万吉を助けながら、あの夜、からくも裏街道の嶮路けんろへ脱した弦之丞は、それから数日の間に、夜旅を通して大阪表へまぎれて来ていた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さては、うしろへ出たか」と、あわてて引っ返して、途中の有名な嶮路けんろ陳倉峡口きょうこう洞門どうもんまで来ると、上から大岩石が落ちてきて、彼の部下、彼の馬、みなくじきつぶされた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
谷あり、絶壁あり、渓流あり、断崖あり、雪崩なだれありといったような、嶮路けんろにぶつかって
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くつわをならべて、同時にあてた三むち! 一声ひとこえ高くいななき渡って、霧のあなたへ、こまも勇士もたちまち影をぼっしさったが、まだ目指めざすところまでは、いくたの嶮路けんろいくすじの川
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まだ、この上には一ノ森、二ノ森の嶮路けんろがある。そんなことでは心細いぞ」
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
趙、鄧の二部隊は、やがて全軍すべてが漢中に集まった最後になって、ようやく嶮路けんろをこえてこれへ着いた。その困難と苦戦を極めた様子は、部隊そのものの惨たるすがたにも見てとれた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや、御落胆ごらくたんなさいますな。失敗もしてみなければ、人生の嶮路けんろはわかりません。失敗の反省こそ、その人間に重厚じゅうこうな味と深みを加えてゆくので、失敗は、天の恩寵おんちょうだと思わねばなりません。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一七日いちしちにちのあいだに、一万度の護摩ごまいて、祈りに祈り、のろいに呪ったしるしもなく、なおこの上柿岡へ立ち越えて、愚婦愚男をたぶらかそうとする親鸞も、この板敷山の嶮路けんろへかかるが最期」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人数もずっと増し、かつぐというより持ち上げるように、真っ暗な嶮路けんろを登って行く様は、この箱根山でも滅多にない非常事だった。えいや、えいやという汗の声が、谷間にこだまを呼んで物々しい。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここは国境第一の嶮路けんろである。加うるに友軍はみな漢中へ退いて、いわば掩護えんごのために、山中の孤軍となった二将であったが、趙雲子龍はさすがに千軍万馬の老将、おもむろに退却の準備にかかった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
美濃から越前へ出る大日越だいにちごえ嶮路けんろであった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)