小家こや)” の例文
二人は小さな落葉のがさがさと音のするみちを通って、あっちこっちと小家こやのある処を探して歩いたが、どこにも家らしい物はなかった。
草藪の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
もしくは茶を売る道傍みちばた小家こやに、腰を掛けて休んでいたのでもよい。そういう旅の女をも、あの頃は一目見て遊女と呼び得たのか。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
二人の子供はきずの痛みと心の恐れとに気を失いそうになるのを、ようよう堪え忍んで、どこをどう歩いたともなく、三の木戸の小家こやに帰る。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
や、笑顔ゑがほおもふては、地韜ぢだんだんでこらへても小家こやへはられぬ。あめればみのて、つき頬被ほゝかぶり。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
渡邊祖五郎はしきりに様子を探りますが、少しも分りません、夜半よなかに客が寝静ねしずまってから廊下で小用こようしながら見ますと、垣根の向うに小家こやが一軒ありました。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
動物園の入口から、右手の方へ進んでゆくと、鸚鵡おうむや小鳥の檻があって、その先に「閑々亭」という額をかけた、茶室めいた四阿あずまやが一軒たっている。この小家こやの由緒来歴は私は何も知らぬ。
動物園の一夜 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
ところで、わたしが、おうらすくみちとして、すゝむべき第一歩だいいつぽは、何処どこでもい、小家こいへ一軒いつけんさがことだ。小家こやでもいゝ辻堂つじだうほこらでもかまはん、なんでもひとない空屋あきやのぞみだ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
のどのかわいている道家はいきなりしゃがんで流れに口をつけた。そして、思うさま飲んで顔をあげたところで、すぐ眼のまえの樹木の陰に一軒の小家こやがあって、そこから焚火たきびの光がもれていた。
赤い土の壺 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
さあ、身代みがはりは出来できたぞ! 一目ひとめをんなされ、即座そくざ法衣ころもいはつて、一寸いつすんうごけまい、とやみ夜道よみちれたみちぢや、すた/\と小家こやかへつてのけた……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いくら俳諧師だといって、昼顔の露は吸えず、切ない息をいて、ぐったりした坊さんが、辛うじて……赤住まで来ると、村は山際にあるのですが、藁葺わらぶき小家こやが一つ。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(と袖でしめつつ)小父おじちゃんもお早くお帰りなさいまし、坊やが寂しゅうございます。(と云いながら、学円の顔をみまもり、小家こやの内を指し、うつむいてほろりとする。)
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お百合、いきを切って、つまもはらはらとげ帰り、小家こやの内に駈入かけいり、隠る。あとより、村長畑上嘉伝次はたがみかでんじ、村の有志権藤ごんどう管八、小学校教員斎田初雄、村のものともに追掛おっかけ出づ。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一軒二軒……三軒目の、同じような茗荷の垣の前を通ると、小家こや引込ひっこんで、前が背戸の、早や爪尖つまさきあがりになる山路やまみちとの劃目しきりめに、桃の樹が一株あり、葉蔭に真黒まっくろなものが、牛の背中。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あだしあだ浪いとまなみ、がらがらと石をいて、空ざまにけ上る、崖の小家こやの正面に、胡坐あぐらを総六とも名づけつびょう、造りつけた親仁おやじのように、どっかりといしきを据え、山からす日に日向ひなたぼっこ
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)