家内やうち)” の例文
家内やうちが珍らしくも寂然ひっそりとしているので細川は少し不審に思いつつ坐敷に通ると、先生の居間の次ぎの間に梅子が一人裁縫をしていた。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
狭い家内やうちの闇試合で、どうにか男ひとりを取り押えたが、ほかはどこにいるのか見当が付かなかった。徳次は大きい声で呼んだ。
半七捕物帳:49 大阪屋花鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お蓮様が引っ込んで行ったあと家内やうちはいっそう静まり返って、峰丹波をはじめ、誰一人、この部屋に挨拶にでる者もありません。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
土塀の頂上てっぺんで腹這いになり、家内やうちの様子を窺ったが、樹木森々たる奥庭には、燈籠のがともっているばかり、人の居るらしい気勢けはいもなかった。
柳営秘録かつえ蔵 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
第一、女たちの生活は、起居たちいふるまいなり、服装なりは、優雅に優雅にと変っては行ったが、やはり昔の農家の家内やうちの匂いがつきまとうて離れなかった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
しかし東京へ移ってから、子供が大ぜい生れたりして、家内やうちせまくなった上に、貯財も少し出来て来たので、夫人のすすめで売家を一軒買うことにした。
寄って来る日は、眼鼻口はもとより、押入おしいれ箪笥たんす抽斗ひきだしの中まで会釈えしゃくもなく舞い込み、歩けば畳に白く足跡がつく。取りも直さず畑が家内やうちに引越すのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
たちまち柱時計は家内やうちに響き渡りて午後二点にじをうちぬ。おどろかれし浪子はのがるるごとく次の間に立てば、ここには人もなくて、裏のかたに幾と看護婦と語る声す。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
硝子張ガラスばりの障子を漏れる火影ほかげを受けているところは、家内やうちうかがう曲者かと怪まれる……ザワザワと庭の樹立こだちむ夜風の余りに顔を吹かれて、文三は慄然ぶるぶると身震をして起揚たちあが
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
鎭めて聽居きゝゐたりしがいまかたをはりし時一同にどつほめる聲家内やうちひゞきて聞えけり此折しも第一の客なる彼の味岡勇右衞門は如何いかゞ致しけんウンと云て持病ぢびやう癪氣しやくき差込さしこまれ齒をかみしめしかば上を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
最早もはや三月みつき近くなるにも心つかねば、まして奈良へと日課十里の行脚あんぎゃどころか家内やうちをあるく勇気さえなく、昼は転寝うたたねがちに時々しからぬ囈語うわごとしながら、人の顔見ては戯談じょうだんトつ云わず、にやりともせず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
家内やうちを歩く足音が水底みなそこのように冷めたく心の中へも響いて聞える。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
ある時はおのが家内やうち盗人ぬすびとのごとく足音あのとをぬすみてあるも
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あつじめる家内やうちは蒸しぬ。
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
それで老母を初め細君娘、お徳までの着変きかえやら何かに一しきりさわがしかったのが、出てったあとは一時にしんとなって家内やうち人気ひとげが絶たようになった。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
苧殻おがらのかわりに麦からで手軽に迎火むかえびいて、それでも盆だけに墓地も家内やうちも可なり賑合にぎわい、緋の袈裟けさをかけた坊さんや、仕着せの浴衣単衣で藪入やぶいりに行く奉公男女の影や、断続だんぞくして来る物貰いや
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
家内やうちへ引っ込もうとした時である。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
『そうね』とお絹がこたえしままだれも対手あいてにせず、叔母おばもお常も針仕事に余念なし。家内やうちひっそりと、八角時計の時を刻む音ばかり外は物すごき風狂えり。
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
午後二時ごろで、たいがいの客は実際不在であるから家内やうちしんとしてきわめて静かである。中庭の青桐あおぎりの若葉の影がきぬいた廊下に映ってぴかぴか光っている。
疲労 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
家をめぐりてさらさらと私語ささやくごとき物音を翁は耳そばだてて聴きぬ。こはみぞれの音なり。源叔父はしばしこのさびしきを聞入りしが、太息ためいきして家内やうちを見まわしぬ。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
家内やうち暗し。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)