子守こもり)” の例文
西村さんがお土産みやげをさし出すと、両手を合わせて泣きながら受け取っているのを見た……と……これは村の子守こもりたちの話であった。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
子守こもりがまた澤山たくさんつてた。其中そのなか年嵩としかさな、上品じやうひんなのがおもりをしてむつつばかりのむすめ着附きつけ萬端ばんたん姫樣ひいさまといはれるかく一人ひとりた。
迷子 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
こうしてって見れば造作ぞうさもないようなものだがね、三年の子守こもりはなかなかえらかった。これまでにするのが容易じゃなかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「足軽の子守こもりしている八つ下がり」その他には少なくも調子の上でどことなく重く濁ったオボーか何かの音色がこもっている。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかし十七の娘盛なのに、小間使としても少し受け取りにくい姿である。一言で評すれば、子守こもりあがり位にしか、値踏が出来兼ねるのである。
花子 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
子守こもり丁稚でっちが、あるいは車屋さんが車上の客と話しながら、珍らしい看板にはゆったりと見惚みとれているという有様であった。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
脊中せなか子供こどもをおぶわされては、びまわることもできず、くらくなるまで子守こもりをするのは、いやであった。それをいやといえば、母親ははおやにしかられる。
高い木と子供の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
一団の桜樹さくらが葉になって、根元の土に花びらがひらひらしているところもあった。百姓家でははねつるべの音がきしんで、子守こもりが二人を見送っていたりした。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
話が別のことに移りますが、はつより先に、主人の郷里長岡の旧藩士で小林という家のちか子という十五になる子が、子守こもりにどうかとのことで来ていたのでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
通りみちは、どこを見ても、皆窓の戸をして寝ているかと思ううちばかりで、北風に白くさらされた路のそこここに、てついたような子守こもりや子供の影が、ちらほら見えた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
……そんなものが、全体どこにいるのでしょう。その辺に、ほこりまみれになって遊んでいる、汚らしい子守こもり女でさえ、私なぞには、見向いても呉れはしないのでございます。
人間椅子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
高い土手の上に子守こもりの小娘が二人と職人体しょくにんていの男が一人、無言で見物しているばかり、あたりには人影がない。前夜の雨がカラリとあがって、若草若葉の野は光り輝いている。
窮死 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ちょうど愛におぼれる母親が悪戯わるさをする子供を擁して、あわれな子守こもりをしかるように。私は私の心のその弱みを知っている。それを知っているだけ私は善鸞を許し難いのだ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
そこで巳之助は、よその家の走り使いをしたり、女の子のように子守こもりをしたり、米をいてあげたり、そのほか、巳之助のような少年にできることなら何でもして、村に置いてもらっていた。
おじいさんのランプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
寺本さんの作代さくだいは今年も勤続つづくと云うが、盆暮の仕着せで九十円、彼様あんな好い作代ならやすいもンだ、と皆が羨む。亥太郎さんの末の子は今年十二で、下田さんの子守こもりに月五十銭でやとわれて行く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
どうしてもお前達を子守こもりに任せておけないで、毎晩お前たち三人を自分の枕許や、左右にふせらして、夜通し一人を寝かしつけたり、一人に牛乳を温めてあてがったり、一人に小用をさせたりして
小さき者へ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
公園で子を遊ばしている子守こもり達の会話がふと耳に入る。
巴里の秋 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
へずにたおら子守こもり
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
いつも、子供こどもをおぶって、子守こもりうたをうたいながら、みせさきにやってくるおばあさんがありましたが、河骨こうほねても、べつになんともかんじないようでした。
ガラス窓の河骨 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あの変人が、何をまた思いついて、子守こもりをなぞ使いに、そんなことをいわせてよこしたのだろう——。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
甲板の寝椅子ねいすで日記を書いていると、十三四ぐらいの女の子がそっとのぞきに来た。黒んぼの子守こもりがまっかな上着に紺青こんじょう白縞しろじまのはいったはかまを着て二人の子供を遊ばせている。黒い素足のままで。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
おら子守こもり
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
そうかとおもうと子守こもりをしながらほんんでいるものもいる。まち子供こどもたちのように、あそんでばかりいないよ。
赤土へくる子供たち (新字新仮名) / 小川未明(著)
「おら、うちへかえって、子守こもりしなければ、しかられるから、おにごっこをよしておこう……。」
高い木と子供の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたしが、くちなかで、となえますのは、子守こもりです。不幸ふこうなおつたという孤児みなしごであった子守こもりです。わたしが、六つばかりのとき、かわなかちました。おつたは、九つだったといいます。
二人の軽業師 (新字新仮名) / 小川未明(著)