太々ふてぶて)” の例文
妙に太々ふてぶてしく、度胸をすえて人生を達観しているようなところもあり、腹の中に何を企らんでいるか見当がつかないような感じであった。
淪落の青春 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
にも拘らず、国府金弥老人は、太々ふてぶてしい寛大さで、森川森之助を家庭に近づけ、相変らず自分の秘書のように使っておりました。
そして、静かに、がった烏帽子えぼしをむすび直すあいだに、薄い自嘲と度胸をすえた太々ふてぶてしさとを、どこやらにたたえていた。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おや、こわい、恐いこッた。へん、」と太々ふてぶてしい。血眼ちまなこでもう武者振附むしゃぶりつきそうだから、飽気あっけに取られていた円輔が割って入った。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
兄弟達に食物をけるとき、お島だけは傍に突立ったまま、物欲しそうに、黙ってみている様子が太々ふてぶてしいといって、何もくれなかったりした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そして反動から、より頑強がんきょうな心を持った、神経の太々ふてぶてしい、大胆無法な勇気をもった、真の英雄的なものに憧憬している。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
義太夫は飽くまで太々ふてぶてしく徳川時代趣味に執着しているところが、到底そばへも寄りつけないように思えたのであった。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「はッはッはッ」と「右足のない梟」は太々ふてぶてしく笑って、「わしに聞くことはないでしょう。御覧のとおりですから、勝手にお読みになったがいいでしょう」
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おかみは行々ゆくゆく彼をかゝり子にする心算つもりであった。それから自身によく太々ふてぶてしい容子をした小娘こむすめのお銀を、おかみは実家近くの機屋はたやに年季奉公に入れた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
なんてまあ太々ふてぶてしい爺だったろう! こんな悪党とは夢にも知らず、あんまり様子が可哀そうだったので、金貨一枚投げ出して、この合宿へ入れてやったのが
死の航海 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
哥薩克の拳を怖れぬとは太々ふてぶてしい野郎だ! 万に一つ俺の配下の哥薩克で、ほんの心持だけでも、これに関係してをると分つたなら……俺はそ奴にどんな刑罰を加へてやつたらよいか
そこでアンポンタン、大成した彼の舞台を見、舞台の悪党ぶりを見、息をひいて、白い眼をむいて、あごでしゃくった太々ふてぶてしさを見ると、ウフッという笑いが、表面へ出ずお腹の底の方で笑う。
太々ふてぶてしいというのか、それともうらやましいというのか、あきれ返ったものだ。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その流れのなかに、飛躍もあれば墜落もある。だが、昔の女は何の変化もなく太々ふてぶてしくそこに坐っている。田部はじいっときんの眼をみつめた。眼をかこむ小皺こじわも昔のままだ。輪郭もくずれてはいない。
晩菊 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
今までの少し太々ふてぶてしい態度は、一瞬にして消えると、五体の骨を抜かれたように、よろりと下っ引の四本の手の中へよろけ込んだのです。
「やあ、それはわが輩から盗み取った名馬烏騅うすい太々ふてぶてしい盗賊めが。よくもしゃしゃアと出て来おッたな。覚悟しろ、人民の敵」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はたゞ、生死の覚悟をかためることが大事であり、その一線を越したが最後鼻唄まじりで地獄の道をのし歩く頭ぬけて太々ふてぶてしい男であつた。
二流の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
さんざんに銀子とやり合った果てに、太々ふてぶてしく席を蹴立けたててち、段梯子だんばしごをおりる途端にすそが足に絡み、三段目あたりから転落して、そのまま気絶してしまった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ものを壊すにしても、良心にとがめるといったような菩提心ぼだいしんを出さないで、こんな壊れ物を扱わせるから壊れるんじゃないの……ぐらいの太々ふてぶてしさでやってください。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
トひょいとこうべを下げた、小田原無宿の太々ふてぶてしさ、昔のさまこそしのばるれ。あら、面白の街道や。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
悪の性根がいよいよますます、彼に太々ふてぶてしくよみがえって来た。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
東作の太々ふてぶてしさと、その企みの深さに圧倒されて、彦兵衛は燃ゆる眼に宙を見たまま、血の出るほど唇を噛みました。
憎むべき太々ふてぶてしさ。そして憎むべき冷酷さ。他人へ報ゆるに残忍無残な冷めたさと、自分勝手があるばかりなのだ。
「エエ、太々ふてぶてしくしらを切る浪人だ。女はあのように怖れ入っているのに、思い寄りがないとは、人をばかにした奴」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何のことだかわからなかった。北山や史朗にきいてみるのも無駄であった。庸三は煙草をふかしながら、しばらく横になって目をつぶっていたが、太々ふてぶてしくも思えて、やがてそこを出て来た。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「行く処が無えというんだよ。」「や、此奴こいつ太々ふてぶてしい、乞食こつじき非人の分際で、今の言草は何だ。夫人おくさまの御恩を忘れおったか、外道げどうめ。」と声を震わし、畳を叩きていきまけば、ニタニタと北叟笑ほくそえみ
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
桝形は太々ふてぶてしく言い放った。
断層顔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それを女の太々ふてぶてしさと云つてよいのだか、悲しさといふのだか、それまでを、馬鹿々々しいと言ひ切る自信が私にはないので、私は尚さら、せつないのだ。
二十七歳 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「やあ、お耳にさわりましたかの」と、賀相も太々ふてぶてしいところがある。年からいえば秀吉の親ぐらいな甲羅こうらかぶっているので、びくともする様子ではなかった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一つは、商人の家の空気の中に住むと、六郎は全く始末の悪い存在で、その荒々しい気風と、喧嘩早い太々ふてぶてしさは、皆んなから反感を持たれるのも無理のないことだったのです。
「いや太々ふてぶてしい野郎だなあ。」
金時計 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
太々ふてぶてしい若者
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それを女の太々ふてぶてしさと云ってよいのだか、悲しさというのだか、それまでを、馬鹿馬鹿しいと言い切る自信が私にはないので、私は尚さら、せつないのだ。
二十七歳 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
名だたる三婆娑羅の一人といわれるだけあってさすが太々ふてぶてしく、一戦も辞せずのつらがまえであり、幕府も大事をとってか、この日には何らの沙汰もしていない。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次もツイ、この女のあまりの太々ふてぶてしさに、日頃にもない叱咤しったを浴びせます。
時代をおれの時代のように振舞ってゆくぞ、と、いつの時にか腹をすえたような太々ふてぶてしいものがあった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は当然のことを主張してゐるやうに断定的であつたが、女の笑ひ顔は次第に太々ふてぶてしく落付いてきた。
いづこへ (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
七平は太々ふてぶてしくつばを吐き散らします。
私は当然のことを主張しているように断定的であったが、女の笑い顔は次第に太々ふてぶてしく落付いてきた。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
かく申せば、なお太々ふてぶてしき虚構をと、お憎しみもございましょうが、あのときは、本心、あの通りな善心でありました。まったく悔い悩んでいったことに相違ございません。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そしてなお申すには。——いつかまた、きっと尊氏の命を狙うぞ、目的をとげるまでは、所望しょもうしてやむまいと、太々ふてぶてしくも言い払い、どこへやら姿をかくし去ってござりまする」
あの太々ふてぶてしい親父の奴が、弱つたやうな様子はしても、どうして弱つてゐるものか! 今に東京へ現れてくる。まさかに女がアトリヱに待ちかまえてゐやうとは夢にも思ふことはあるまい。
狼園 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
このままいつ死んでもそれでよし、さういふ肚の非常にハッキリした家康で、さういふ太々ふてぶてしい処世の骨があつたから、野心家のやうにあくせくしないが、底の知れないやうなところがある。
家康 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
すると、もう度胸をすえて、太々ふてぶてしくなっていた強力ごうりきの兵たちが
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私と和解して後は凡そ死を平然と待ちかまへてゐる太々ふてぶてしい老婆であつた。
石の思ひ (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「とんでもねえや」と、船頭もまた太々ふてぶてしい。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このままいつ死んでもそれでよし、そういうはらの非常にハッキリした家康で、そういう太々ふてぶてしい処世の骨があったから、野心家のようにあくせくしないが、底の知れないようなところがある。
家康 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
彼は太々ふてぶてしかった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私と和解してのちは凡そ死を平然と待ちかまえている太々ふてぶてしい老婆であった。
石の思い (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
太々ふてぶてしい男……」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)