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おほだんな
前申せし
通り
短氣の
大旦那さま
頻に
待ちこがれて
大ぢれに
御座候へば、
其地の
御片つけすみ
次第、一日もはやくと申
納候。
その
代り
吝き
事も二とは
下らねど、よき
事には
大旦那が
甘い
方ゆゑ、
少しのほまちは
無き
事も
有るまじ、
厭やに
成つたら
私の
所まで
端書一
枚、こまかき
事は
入らず
その代り
吝き事も二とは
下らねど、よき事には
大旦那が甘い
方ゆゑ、少しのほまちは無き事も有るまじ、
厭やに成つたら私の
所まで
端書一枚、こまかき事は入らず
此身は
雲井の
鳥の
羽がひ
自由なる
書生の
境界に
今しばしは
遊ばるゝ
心なりしを、
先きの
日故郷よりの
便りに
曰く、
大旦那さまこと
其後の
容躰さしたる
事は
御座なく候へ
共
大旦那はお
歸りに
成つたか、
若旦那はと、これは
小聲に、まだと
聞いて
額に
皺を
寄せぬ。
かけ
硯を
此處へと
奧の
間より
呼ばれて、
最早此時わが
命は
無き
物、
大旦那が
御目通りにて
始めよりの
事を申、
御新造が
無情そのまゝに
言ふてのけ、
術もなし
法もなし
正直は
我身の
守り
何うも
是れも
授り
物だからと
一人が
言ふに、
仕方が
無い、十
分先の
大旦那がしぼり
取つた
身上だから、
人の
物に
成ると
言つても
理屈は
有るまい、だけれどお
前、
不正直は
此處の
旦那で
有らうと
言ふに
も
遊ばすまじき
物ならず
御最愛のお
一人娘とて
八重や
何分たのむぞと
嚴格い
大旦那さまさへ
我身風情に
仰せらるゝは
御大事さのあまりなるべし
彼につけ
是につけ
氣づかはしきは
彼の
人の
事よ
有りし
日の
對面の
時此處に
居給ふとは
思ひがけず
郷里のことは