呆然ぼんやり)” の例文
あゝ、おさだ迄かと思うとペタ/\と臀餅しりもちいて、ただ夢のような心持で、呆然ぼんやりとして四辺を見まわし、やがて気が付いたと見えて
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
……私は母指を口の中に入れて、それをチュウチュウと吸いながら、眼を細めて呆然ぼんやりとしていたの、けれども私は寂しかったのよ。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「あつしも見たわけぢやありませんが、縛られると、それまで呆然ぼんやりしてゐた勘六が、急に氣狂ひのやうに騷ぎ出したさうですよ」
姫は昨夜も夜通しまんじりともなかったので、呆然ぼんやりしながら起き上って顔を洗い御飯を喰べて、何気なく縁側に出て庭の景色に見とれた。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「なんでも、妾を呆然ぼんやりにさせてしまって、それで『あの事』をすっかり妾から忘れさせてしまおうというんだわ。」と思った。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
其麽そんな誰方どなたから習つて? ホホヽヽ、マア何といふ呆然ぼんやりした顔! お顔を洗つて被来いらつしやいな。』と言ひ乍ら、遠慮なく座つた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
だが呆然ぼんやりと眼を開くと、血の鳴る音がすっと消えてお隣でやっている蓄音器のマズルカの、ピチカットの沢山はいった嵐の音が美しく流れてくる。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
呆然ぼんやり縁側に立って、遠くの方を見ると、晩秋あきの空は見上げるように高く、清浄きれいに晴れ渡って、世間が静かで、ひいやりと、自然ひとりでに好い気持がして来る。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
勿論本当の骰子の目は五でもなく、二度の合計が十三でもない。それを勝手にそうだと読みとってしまうので、皆が呆然ぼんやりしているときにはうまくかかってしまう。
麻雀インチキ物語 (新字新仮名) / 海野十三(著)
海老屋へ行った禰宜様宮田は、きっとふんだんな御褒美ほうびにあずかって来るものだと思って、待ちに待っていたお石は、空手で呆然ぼんやり戻って来た彼を見ると、思わず
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
彼はすっかり懐疑家になり、しばらく呆然ぼんやりとして暮していましたが、反撥心を起して、こう言いました。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
呆然ぼんやりと戸外の気勢けはいを覗っていた藤吉の耳へ、竹筒棒たけづっぽうを通してくるような、無表情な仙太郎の声が響いた。瞬間、藤吉はその意味を頭の中で常識的に解釈しようと試みた。
為吉は呆然ぼんやりと突っ立って、大きくなって行く場を見詰めていた。建福丸けんぷくまるが一人で集めていた。
上海された男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
泉原は人気のない共同椅子ベンチ疲労つかれた体躯からだを休めて、呆然ぼんやり過去すぎさった日の出来事を思浮べた。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
「あっしも見たわけじゃありませんが、縛られると、それまで呆然ぼんやりしていた勘六が、急に狂ったように騒ぎ出したそうですよ」
其麽そんな事誰方から習つて? ホホヽヽまア何といふ呆然ぼんやりした顏! お顏を洗つて被來いな。』と言ひ乍ら、遠慮なく坐つた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
青眼先生も最早手の附けようもなく、紅矢の死骸を見詰めたまま、呆然ぼんやりと突立っていました。そうして独り言のように——
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
清左衞門は実に呆然ぼんやりして、娘は盗賊どろぼうの汚名を受けこれを恥かしいと心得て入水じゅすい致した上は最早世にたのしみはないと遺書かきおきしたゝめ、家主いえぬしへ重ね/″\の礼状でございます
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ところで呆然ぼんやりとしたこんな時の空想は、まず第一に、ゴヤの描いたマヤ夫人の乳色の胸の肉、頬の肉、肩の肉、酢っぱいような、美麗なものへ、豪華なものへの反感! が
放浪記(初出) (新字新仮名) / 林芙美子(著)
そうしてよそ目には気抜けのしたもののように呆然ぼんやりとして自分一人のことに思いふけっていた。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
愛するものの為ならば、人間はどのような犠牲をも払う事が出来る……彼はそう思って慄然とした。ビアトレスはブラウスの襟に顎を埋めて、呆然ぼんやりと、足下の床に視線を落していた。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
この場合、他の連中は緊張の途中、思いもうけぬ方角からザブリと水を浴せかけられたようなもので、呆然ぼんやりしてしまう。そして二十二で和った人の牌をしらべもせず、二本棒をれちまう。
麻雀インチキ物語 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこで一人で牀几しょうぎに腰かけ、窓から呆然ぼんやりと外を眺め、行末のことなどを考えた。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
翌朝、寝床を離れた時、曽根の頭は呆然ぼんやりしていた。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
お定は呆然ぼんやりと門口に立つて、見るともなく其を見てゐると、大工の家のお八重の小さな妹が驅けて來て、一寸來て呉れといふ姉の傳言ことづてを傳へた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
青眼先生は何だか狐につままれたような気がして、呆然ぼんやりと立っていました。けれどもそのうちに又不図これは悪魔の計略はかりごとだなと気が付いて、急いで紅矢のへやに帰って見ますと、こは如何に。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
お靜は相變らずまめに立働いて、何の蔭もないやうに暮して居りますが、氣を付けて見ると、呆然ぼんやりして溜息ためいきを吐くといつたやうな樣子が、ちよい/\平次にも見られるやうになつて來ました。
パタリ/\雨滴あまだれの落ちる音を聞きながら、障子もしめない座敷にじっとして、何を為ようでもなく、何を考えようでもなく、四時間も五時間も唯呆然ぼんやりとなって坐ったなり日を暮すことがあった。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
と云っている内におくのは絶命こときれましたから、茂之助は只呆然ぼんやりして暫く考えて居ましたが、ふら/\ッと起上たちあがって、自分の帯を解いてへっついかどから釜の蓋へ足を掛けて、はりへ二つ三つ巻きつけ
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
広い縁側を持った、宏壮な主屋を背後にし、実ばかりとなった藤棚を右手にし、青い庭石に腰をかけ、絶えず四辺あたりから聞こえてくる、老鶯うぐいす杜鵑ほととぎすの声に耳を藉し、幸福を感じながら彼は呆然ぼんやりしていた。
鸚鵡蔵代首伝説 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お定は呆然ぼんやりと門口に立つて、見るともなくそれを見てゐると、大工の家のお八重の小さな妹が駆けて来て、一寸来て呉れといふ姉の伝言ことづてを伝へた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
お静は相変らずまめに立働いて、何の蔭もないように暮しておりますが、気を付けて見ると、呆然ぼんやりして溜息をくといったような様子が、ちょいちょい平次にも見られるようになって来ました。
お宮は、心は何処を彷徨うろついているのか分らないように、懐手をして、呆然ぼんやり窓の処に立って、つま先きで足拍子を取りながら、何かフイ/\口の中で言って、目的あてもなく戸外そとを眺めなどしている。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
呆然ぼんやり帰って来て。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
殊に私は、習字と算術の時間が厭で/\たまらぬ所から、よく呆然ぼんやりして藤野さんの方を見てゐたもので、其度先生は竹の鞭で私の頭を軽く叩いたものである。
二筋の血 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
殊に私は、習字と算術の時間がいやで/\たまらぬ所から、よく呆然ぼんやりして藤野さんの方を見てゐたもので、其度先生は竹の鞭で私の頭を輕く叩いたものである。
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
恰度ちやうど私が呆然ぼんやりと例の氣持になつて、向側の壁に貼りつけた北海道地圖を眺めて居た時なので、ハッとして
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
恰度私が呆然ぼんやりと例の気持になつて、向側の壁に貼りつけた北海道地図を眺めて居た時なので、ハツとして
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
お定は暫時しばし水を汲むでもなく、水鏡に寫つた我が顏をみつめながら、呆然ぼんやりと昨晩ゆうべの事を思出してゐた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
お定は暫時しばし水を汲むでもなく、水鏡に写つた我が顔を瞶めながら、呆然ぼんやり昨夜ゆうべの事を思出してゐた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
『ドツコイシヨ。』と許り、元吉は俥を曳出ひきだす。二人はその背後あとを見送つて呆然ぼんやり立つてゐた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
朝餐後の始末を兎に角終つて、旦那樣のお出懸に知らぬ振をして出て來なかつたと奧樣に小言を言はれたお定は、午前十時頃、何を考へるでもなく呆然ぼんやりと、臺所の中央まんなかに立つてゐた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
朝餐後あさめしごの始末を兎に角に終つて、旦那様のお出懸に知らぬ振をして出て来なかつたと奥様に小言を言はれたお定は、午前十時頃、何を考へるでもなく呆然ぼんやりと、台所の中央まんなかに立つてゐた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
それは大抵大工か鍛冶屋か荒物屋かである。又、小娘の時に見覺えて置いた女の、今は髮の結ひ方に氣をつける姉さんになつたのが、其處此處の門口に立つて、呆然ぼんやり往來を眺めて居る事もある。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
それは大抵大工か鍛冶屋か荒物屋かである。又、小娘の時に見覚えて置いた女の、今は髪の結ひ方に気をつける姉さんになつたのが、其処此処の門口に立つて、呆然ぼんやり往来を眺めて居る事もある。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
二人は其後を見送つて呆然ぼんやり立つてゐた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)