厖大ぼうだい)” の例文
総持寺の厖大ぼうだいな建築や記念碑を見廻した時に私を襲った感じが、どういうものかこのケンプェルの挿絵の感じと非常によく似ていた。
雑記(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
スワンソン氏はタイムスの厖大ぼうだいな紙量の上に遠視眼鏡を置き、霧の朝の薄暗い室内を明るくする為に卓上電燈のスイッチを捻った。
バットクラス (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「国家論」は政治学の中でも一番厖大ぼうだいな部門を占めるし、あるいは政治学と別に「国家学」という学問として取扱うこともできる。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
まるで厖大ぼうだいな腕に力をこめて、馬鹿騒ぎに騒ぎ立てながら、水沫を四方八方へ投げ飛ばしているような観があった。難儀な航海だった。
しかし、新しきナポレオン・ボナパルトは、またこの古い宮殿の寝室の中で、彼の厖大ぼうだいな田虫の輪郭と格闘を続けなければならなかった。
ナポレオンと田虫 (新字新仮名) / 横光利一(著)
旅行後二年半ほどして、厖大ぼうだいな報告書『サガレン島』が出来あがった。いわゆる「冷厳なること重罪裁判所の公判記録のごとき」
各郡ではまた郡制廃止の記念とし、やはり厖大ぼうだいな郡誌などを編輯へんしゅう公刊して、その序文にはいずれも郷土研究の抱負が掲げてある。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
お恥かしいが、曹操の堅陣に対し、その厖大ぼうだいな兵力を眼のあたりにしては、まったく手も脚も出ないというのが事実ですから仕方がない。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
厖大ぼうだいなものの気配が見るうちに裏返って微塵ほどになる。確かどこかで触ったことのあるような、口へ含んだことのあるような運動である。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
作品及びレコードに関する厖大ぼうだいな記述と、別伝数十ページことごとく書き下しで、そのために私はひと夏五十余日を費さなければならなかった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
その厖大ぼうだいな蒐集や展観は松坂屋の服部氏や高島屋の川勝氏等の経済的応援があったためで、今も想い出して感謝している。
厖大ぼうだいなる蔵匿ぞうとく物資を商人どもから召し上げ、横へ流して巨利を占めようという計劃は、蓑賀殿と持木成助と来六屋出平の三者合議によるものだった。
そしてアメリカ人に幸福をもたらしている、あの厖大ぼうだいな生産の基礎は、この能率生活にあることを痛感させられる。
日本のこころ (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
マタ・アリは、欧州大戦の渦中にあって、策をけずり、あらゆる近代的智能を傾けて闘った、あのドイツスパイ団という厖大ぼうだいな秘密機構の一重要分子であった。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
それは人間の顔をしている時もあるし、千人くらいを一つにした形容のできない厖大ぼうだいな顔のときもある。
石ころ路 (新字新仮名) / 田畑修一郎(著)
小山の如く厖大ぼうだいなタウイロ夫人が素晴らしく良い声なので一驚する。その途中、又スコール。母もベルもタウイロも私も海亀も豚もタロ芋も鱶も瓢箪も、みんなびしょ濡れ。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
頭ばかり厖大ぼうだいになって、シネマとシャアローとエロチックか、顔を鏡にてらしあわせてとっくりとよくお考えの程を……ところで浅草のシャアローは帽子を振って言いました。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
湿地を乾しあげる灌漑溝と、幅五十八間乃至ないし二十一間という厖大ぼうだいな道路普請が行われた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
それを信じさせたものはさかのぼって行けば「大火に対してなんの防備もない厖大ぼうだいな都市」
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
この厖大ぼうだいな建物は広くて、うすぐらいので、神秘的な深い畏怖いふの念をおこさせる。
梯子はしごを掛けなければ届かない高い所にある戸棚には、夫の日記帳が何十冊となくほこりにまみれて積み重ねてあるのを知っているけれども、私はそんな厖大ぼうだいな記録に眼を通すほどの根気はない。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
すると、今湯気の立昇っている台のところで、茶碗ちゃわんを抱えて、黒焦くろこげの大頭がゆっくりと、お湯をんでいるのであった。その厖大ぼうだいな、奇妙な顔は全体が黒豆の粒々で出来上っているようであった。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
他には規模の厖大ぼうだいとか煩瑣はんさな技術の目まぐるしい積みかさねとか、偏った末梢美の誇示とかいう類のものはあっても、よく美の中正を行き芸術の微妙な機能の公道を捉えているものは甚だ少い。
美の日本的源泉 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
昔の境遇にくらべれば、はげしい転変を見せてるとはいえ、まだこれだけの厖大ぼうだいな地所を持って、立派な家があって、庭園があって……たとえこの湖や、地所の一部農場の一つも手離したとしても
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
たとえばあの厖大ぼうだいなアフリカ大陸のどの部分にこれだけの気候の多様な分化が認められるであろうかを想像してみるといいと思う。
日本人の自然観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
また厖大ぼうだいな地域には、桑田そうでんもあり、塩焼く海女あまの小屋もあるうちから、もう宏大な一門の別荘などを建て出したものである。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かなり厖大ぼうだいなトランクを二つかついで来て、それぞれの位置にそれを置いて、自分は、一行の一番はずれに老紳士と並んで坐り、しきりに何か話し初めた。
動かぬ女 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
充分に時間の余裕があったのですから、それに尚家に保存されていた沢山の貴重な古記録、例えば厖大ぼうだいな「家譜かふ」など湮滅いんめつしてしまったと聞きました。
沖縄の思い出 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
いやいやそれどころではなく、こう厖大ぼうだいな全集物が氾濫はんらんしては、評判のやかましい名作も、ツンドク居士こじの蒐集の目的物でおわることも少なくはないであろう。
この方面の実験には厖大ぼうだいな設備と莫大ばくだいな費用とを要するのであるが、米国ではほとんどこの方面の研究を一手に引き受けた形で、どんどん施設をして行ったのである。
原子爆弾雑話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
我等二人の公敵が、それぞれ、厖大ぼうだいにして尊敬すべき二人の婦人に抱きかかえられつつ、手を組み足を蹴上げて跳ね廻る時、大法官も大作家も共に、威厳を失墜することおびただし。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そのうえ厖大ぼうだいな対外債務を作った責任はわれわれにある、……われわれは祖国をこんな状態につきとして子供に譲るんだ、われわれの子や孫は、この息詰まるような狭い国土の上で
花咲かぬリラ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
世界のひとかけにすぎない、この船が、厖大ぼうだいな人間社会にもどろうとして船路をいそいでいるすがたはなんとおもしろいではないか。船はまさに人間の発明力のえある記念塔ではないか。
船旅 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
考古学的時代からの数万年に亘るエジプト文化が生んだ所謂いわゆる「死の書」の宗教に伴って、王と奴隷とを表現する雄渾ゆうこん単一な厖大ぼうだいな美の形式であり、今日でもその王は傲然ごうぜんとして美の世界に君臨し
美の日本的源泉 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
この厖大ぼうだいな都会のなかで、世界の塵埃棄場ごみすてばと呼ばれる細民さいみん街イースト・エンド、そこへ踏み込もうとするアルドゲイトと、多く、ユダヤ人が住んでいるので有名なホワイトチャペル街との間の、あの
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
中華民国には地方によってはまれに大地震もあり大洪水だいこうずいもあるようであるが、しかしあの厖大ぼうだいなシナの主要な国土の大部分は
災難雑考 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そのうえ、持明院統には、後嵯峨からうけた厖大ぼうだいな所領もあったが、帝位を離れた大覚寺統には党臣のる財源もない。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かつて私が報知新聞社時代、懸賞小説の選をしたことがあったが、三〇〇〇篇という厖大ぼうだいな作品のうち九九%までが、全く同じような筋を持ったものであった。
芸術としての探偵小説 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
その上に土をかぶせてあなをあけ、その孔から或る薬液を注ぎ込んで火をつければ、それだけで立派に製錬が出来るので、あの厖大ぼうだい鎔鉱炉ようこうろなどを造るのは全く馬鹿気た話だ
千里眼その他 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
厖大ぼうだいな幾層かの建築の中に何万という蒐集品がぎっしりとつまっている。木工、金工、染織、陶器の類、凡てにわたって北方の民族が有つ美への官能の優れたしるしである。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
イギリスの紳士は、厖大ぼうだいな親族をもっていて、しかも財産は少ししかないとなると、よくこういうことをするのだ。彼の気質は賑かで、浮き浮きしており、いつもそのときそのときを楽しんでいた。
厖大ぼうだいな人数の輪が車形くるまなりめぐるように、徳川勢も鶴翼の陣形をそのまま向きをかえて、敵のまえに人間の堤をきずいた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの厖大ぼうだいな南極大陸の上にすむ「陸棲動物りくせいどうぶつ」の中で最大なるものは何か、という人困らせの疑問に対する正しい解答は「それは羽のない一種の蚊である」というのである。
日本人の自然観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
支那の民藝を解するにはまずその自然の悠大さを考えに浮べねばなりません。御承知のように支那は厖大ぼうだいなる大陸であります。仮りに、山東から足を踏み入れるとしましょう。
北支の民芸(放送講演) (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
消霧車は普通では貨車輸送の出来ない厖大ぼうだいなもので、そのまま飛行場に残して来た。
硝子を破る者 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ただ、去年の陣には、叡山のうえに、浅井、朝倉の大軍がのぼって協力していたが、こんどはそのいとまを敵に与えなかったので、当面の勢力はさして厖大ぼうだいではない。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが石見のこれらの窯では赤瓦のみではない、大甕おおがめを焼き、捏鉢こねばち、すり鉢、べに鉢、片口かたくち、壺類を焼く。厖大ぼうだいな窯であるからそれも多量に焼く。なかんずく来待石きまちいしを使った赤褐色の大甕が多い。
雲石紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
長坂刑部と西国浪人や密貿易者ぬけがいたちの治世破壊の陰謀に置いて、ひとり一町奉行の白洲では裁決し難いものとなし、一切の下調書や吟味書上げの厖大ぼうだいな書類つづらを
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旧北条領の全国にわたる厖大ぼうだいな土地が、自分も入れて、誰にどう分け与えられるのか、それの発表がないうちは落ちつき得ない風であり、それの運動や猟官のうごきには
そう呟いた山陽の心には、厖大ぼうだいな稿本の八九分どおりまで校正の朱筆に染まって、あともう僅かな所もみ疲れかけている日本外史の業が、陣痛のように、焦々じりじりと悩んでいた。
梅颸の杖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)