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出帆
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しゆつぱん
呼て只今
番頭樣より今日は
殊によき
日和ゆゑ
出帆すべしとの事なり我等も
左樣に存ずれば
急ぎ
出帆の用意有べしといふ
水差是を
南部の
才浦と
云ふ
處で、
七日ばかり
風待をして
居た
内に、
長八と
云ふ
若い
男が、
船宿小宿の
娘と
馴染んで、
明日は
出帆、と
云ふ
前の
晩、
手に
手を
取つて
けれど、
誰だつて
信ぜられませんはねえ。
船の
出發が
魔の
日魔の
刻だなんて。あゝ
亞尼がまた
妙な
事をと、
少しも
心に
止めずに
出帆したのが、あんな
災難の
原因となつたのです。
見て吉兵衞は杢右衞門に向ひ
兵庫の
沖を今日
出帆せんは如何といふ杢右衞門は
最早三が日の
規式も
相濟殊に
長閑なる
空なれば
御道理なりとて
水差を
其夜に
出帆した
弦月丸は、
不思議にも、
豫言の
通りに
印度洋の
沖に
沈沒して、
妾が
英國郵便船に
救はれて、
再び子ープルスの
家に
歸つた
時には、
亞尼の
姿は
既に
見えませんでした。
不思議なる
縁につながれて、
三人は
日本へ
皈らんと、
弦月丸に
同船した
事、
出帆前、
亞尼といへる
御幣擔ぎの
伊太利の
老女が、
船の
出帆が
魔の
日魔の
刻に
當るとて、
切に
其夜の
出發を
止めた
事。
突て
挨拶をぞなしたり其夜吉兵衞には
酒肴を
取寄せ
船頭はじめ
水主十八人を
饗應し
酒宴を
催しける明れば
極月廿九日此日は早天より
晴渡り其上
追手の風なれば船頭杢右衞門は
水主共に
出帆の
用意を