凌辱りょうじょく)” の例文
が、もし強いて考えれば、己はあの女をさげすめば蔑むほど、憎く思えば思うほど、益々何かあの女に凌辱りょうじょくを加えたくてたまらなくなった。
袈裟と盛遠 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
どうかしてあの悪党に渡さないことです! そりゃもうわかり切ってる、やつはまたこの娘に凌辱りょうじょくを加えるに決まってる! やつが何を
しかもだれによってであるか。祖父によってではないか。一方を凌辱りょうじょくすることなくして一方を復讐ふくしゅうすることがどうしてできよう。
家も国土も蹂躙じゅうりんされ掠奪凌辱りょうじょくのうき目にあうはいうまでもなく、永く呉の奴隷どれいに落され、魏の牛馬にされて、こき使わるるは知れたこと。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もともと、戦慄せんりつに依ってのみ生命いのちの在りどころを知るたちの男であった。アグリパイナは、唇を噛んで、この凌辱りょうじょくに堪えた。
古典風 (新字新仮名) / 太宰治(著)
柔弱者だといってなぐり、結盟に加わらぬといって凌辱りょうじょくした。人々はかれらを避けた。かれらのすることに目をつむった。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その副知事はコサックに命じて、一揆をおこした農民たちをむちで殴り殺させたり、その妻や娘に凌辱りょうじょくを加えさせたり、暴虐のかぎりをつくした。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
意志の弛緩しかんとして男みずから恥ずべきことであるのみならず、その妻の愛と貞操を凌辱りょうじょくするものであり、子孫の徳性と健康とを破壊するものである。
私娼の撲滅について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
如何いかなる露国ロシアの、日本に対する圧迫、凌辱りょうじょくって、日本の政府が、あのごとく日本国民を憤起させてあえて満洲の草原に幾万の同胞のしかばねさらさせたかは、当時
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
あの女の財産を奪い、あの女を凌辱りょうじょくし、最後にあの女を殺してやります。どうせ僕はお上からにらまれている悪人だ。どんな罪を犯した処で五分五分なんだ。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
若い時は気が荒く、ややもすれば人を凌辱りょうじょく軽佻けいちょうと思われるくらいでしたが、剣の筋は天性で、二十歳の頃はすでに免許に達していたということであります。
彼らがそうして彼の好きな作品をほめると、彼は自分が凌辱りょうじょくされたような気がした。彼は堅くなり、あおくなり、冷酷な様子をし、音楽に興味をもたないふうを装った。
終生浮ぶのなき凌辱りょうじょくこうむりながら、なお儒教的教訓の圧制に余儀なくせられて、ひそかに愛の欠乏に泣きつつあるは、妾の境遇に比して、その幸不幸如何いかなりやなど
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
標本室のドアの鍵をコッソリとけておいたのも貴様だろう、クロロフォルムの瓶をあすこに置いたのも貴様かも知れない。……男爵未亡人を凌辱りょうじょくしたのも貴様に違い無い。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
九万ハ性放誕不羈ふき嗜酒任侠ししゅにんきょうややモスレバすなわチ連飲ス。数日ニシテ止ムヲ知ラズ。ヤヽ意ニ当ラザレバすなわチ狂呼怒罵どばシテソノ座人ヲ凌辱りょうじょくス。マタ甚生理ニつたなシ。家道日ニ日ニくるシム。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
木魚にされた提紙入には、美女の古寺の凌辱りょうじょくあやぶみ、三方の女扇子には、姙娠の婦人おんな生死しょうしを懸念して、別に爺さんに、うら問いもしたのであったが、爺さんは、耳をそらし、口を避けて
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これはユダヤ人から見れば、神殿の凌辱りょうじょく、国威の汚損、言うに忍びざる国辱でありました。ダニエル書はこの時代を背景として、ユダヤ人の信仰を励ますために書かれた黙示文学であります。
きょうでは暴民の凌辱りょうじょくを受けようとし、宋では姦臣かんしん迫害はくがいい、ではまた兇漢きょうかん襲撃しゅうげきを受ける。諸侯の敬遠と御用ごよう学者の嫉視と政治家連の排斥はいせきとが、孔子を待ち受けていたもののすべてである。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
大きらいだ、鈍く光るドラムのペダルをみつめながら、信二は瞼のうえに滴る汗を手でぬぐった。彼はあえぎ、凌辱りょうじょくをうけたように自分が泥まみれの憤怒をなにかに叩きつけたがっているのがわかった。
その一年 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
可愛い娘がこれほどに凌辱りょうじょくされたことを知って、六兵衛は燃えるような息をついて磯貝を呪った。かれは仕事を投げ出してしまって、傷ついた野獣のように奥のひと間に唸りながら横になっていた。
慈悲心鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
口でこそそれとは言わんが、明らかにおれを凌辱りょうじょくした。おのれ見ろ。見事おれの手だまに取って、こん粉微塵こみじんに打ち砕いてくれるぞ。見込んだものを人に取らして、指をくわえているおれではない。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
「何故と云ッて、貴君に凌辱りょうじょくされたんだもの」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ヤスを凌辱りょうじょくしたことになっている。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
雉も鋭いくちばしに鬼の子供を突き殺した。猿も——猿は我々人間と親類同志の間がらだけに、鬼の娘を絞殺しめころす前に、必ず凌辱りょうじょくほしいままにした。……
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
歴史の意義を失った歴史的人種。ナポレオンの仲間を軽蔑するシャールマーニュ大帝の仲間。上に述べきたったとおり、剣戟けんげきは互いに凌辱りょうじょくし合った。
なんじの上に襲いかかる凌辱りょうじょくをばつとめて耐え忍び、かつなんじを汚す者を憎むことなく、みずからの心を
良兼の部下は、余勢を駆って、さらに、豊田郷の深くに進攻し、放火、掠奪、凌辱りょうじょくなど、悪鬼の跳躍をほしいままにして、その日の夜半頃、筑波へひきあげた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
犬や狼の凌辱りょうじょくから救って置きたい——イヤなおばさんの最後の肉体に対しての、自分の為し得た好意と親切の全力が、あれだけのものであった、あれより以上には
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかし彼は知っていた、それは菊千代にとっては凌辱りょうじょくに等しい。
菊千代抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私たち夫妻を凌辱りょうじょくし、脅迫する世間に対して、官憲は如何なる処置をとるきものか、それは勿論閣下の問題で、私の問題ではございません。
二つの手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ところがあとで、その小娘は……スヴィドリガイロフのために無残な凌辱りょうじょくを受けたと、密告する者があったんです。もっとも、その辺がどうもあいまいなんで。
一度跪拝きはいせしものを凌辱りょうじょくしながら、汚行より汚行へ移りゆきしあの上院の前から、遁走しながら偶像を唾棄だきするあの偶像崇拝の前から、顔をそむけるのが正当であった。
こいつの凌辱りょうじょくを蒙った無惨な尼たちが幾人あるか知れない——そのうちに、露見し、捕手二人を傷つけたが、ついにからめ取られて入牢じゅろうの身となったのが、安政年間だとかいうこと。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その背のかがめ具合にまで、恐ろしい凌辱りょうじょくを背負っている、とでもいうような感じが現われていた。
日頃彼に悪意を抱いていた若者たちは、まりのように彼をいましめた上、いろいろ乱暴な凌辱りょうじょくを加えた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
はずかしめられた良人という滑稽こっけいな役割を演じたり、あまつさえ、いろんな潤色まで施して自分がこうむった凌辱りょうじょくを事こまかに描き出して見せるのが、彼にとっては愉快なばかりか