倨傲きょごう)” の例文
謙譲のつまはずれは、倨傲きょごうの襟より品を備えて、尋常な姿容すがたかたちは調って、焼地にりつく影も、水で描いたように涼しくも清爽さわやかであった。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
相手が高官とみて、孟は挨拶に出たが、張は酒を飲んでいて顧りみないので、孟はその倨傲きょごうを憤りながら、自分は西の部屋へ退いた。
上野介の倨傲きょごうな日ごろの振舞も吉保という重要な地位にある人間の後楯うしろだてを意識して、特に、横着ぶりを、押している風もかなり見える。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ゲルマン魂は国民的倨傲きょごうのうちにくるまっていながら、ヨーロッパのあらゆる魂のうちで、最も国民性を失いやすいものである。
桑の葉以外には食べない虫に他の草を持って行って宛てがっても見向きもせずに痩せ細って行く。本能の倨傲きょごう。それに似た癖であります。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
今までの倨傲きょごうな青木、絶えず雄吉を人格的に圧迫していた青木が、今やまったく地を換えてしまって、そこに哀れな弱者として蹲っていた。
青木の出京 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
自分の天分にぴったりとはまった仕事を見出すと、彼女の倨傲きょごうは頭を持上げはじめた。勝気で通してゆく彼女は気におごった。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
丁度其の時、そのスリツパをぬぎ揃へられた廊下の扉口に背の低い小柄な、頭の白くなつた如何にも看守らしい倨傲きょごうな顔付をした老看守が立つた。
監獄挿話 面会人控所 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
駈けつけた敵の助勢であろうか、それにしても、このものものしい火事場の身固めと、なんとなく迫ってくる威圧、倨傲きょごうの感とは、なんとしたことだ……。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
例えば従順と倨傲きょごうと、あるいは礼譲とブルタリティと、二つの全く相反するものが互いに密に混合して、渾然こんぜんとしたものに出来上がったとでも云ったらよいか。
雑記(Ⅱ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「仙台びとのの強いのと倨傲きょごうにはうんざりする、平穏だという状態は半年とつづかず、いつもなにかしらごたごたを起こし、互いに相手を凌ごうといきりたつ」
それで、なかには、忍従と完全な自己制御におもむかないで、反対に悪魔的な倨傲きょごうへ、すなわち自由へではなくて、束縛へ導かれる者がないとも限らないのである。
川は彼のひざでしぶきをあげた。さえぎるものに当って不遠慮な音をたてた。両手を左右にひろげ、のしのしと進んで行く阿賀妻はそれよりもなお倨傲きょごうであったと云える。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
れいのそのひとが、あまり弱すぎるせいであろうか。おれのこんな、ものの感じかたをこそ、倨傲きょごうというのではなかろうか。そんなら、おれの考えかたは、みなだめだ。
姥捨 (新字新仮名) / 太宰治(著)
私も実際あれにはりたからネ——人間なぞがノコノコ出掛けて行ってはたして尊大倨傲きょごうな大使館の英人連中が私を太子に逢わせてくれるだろうかという懸念であった。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
もししからずして、倨傲きょごう自ら処り、唯我独尊、他を視る事ひくく、従って自己の短を補うに他の長を以てするの工夫を怠らんか、ただに限り無く実生活を向上するあたわざるのみならず
列強環視の中心に在る日本 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
が、同時に政治家型の辺幅へんぷく衒気げんき倨傲きょごうやニコポンは薬にしたくもなかった。君子とすると覇気はきがあり過ぎた。豪傑とすると神経過敏であった。実際家とするには理想が勝ち過ぎていた。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
人々は己を倨傲きょごうだ、尊大だといった。実は、それがほとん羞恥心しゅうちしんに近いものであることを、人々は知らなかった。勿論もちろん、曾ての郷党きょうとうの鬼才といわれた自分に、自尊心が無かったとはわない。
山月記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
過激派らがきわめて傲然ごうぜんとしていたところに、正理派らは多少の恥を感じていた。彼らは機才を持っていたし、沈黙を持っていた。その政治的信条には、適当に倨傲きょごうさが交じえられていた。
オオヤマネコに感動してまだ幾日もたたぬうちに、一介の野良猫にすぎぬが、その倨傲きょごうな風格において、一脈相通じるところのある奴が我が家の内外に出没することになったのは愉快だった。
黒猫 (新字新仮名) / 島木健作(著)
今までの冷やかにも倨傲きょごうな表情から、少し取り入るような——しかもその急激な変化に自分自身多少のうしろめたさを示さないではない——それに変っていくのを見てしすましたりと思った。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
一度は恐れおののいてこの声にひれ伏した。が倨傲きょごうな心はぬっと頭をもたげる。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
毅堂が晩年往々にして人より倨傲きょごうそしりを受けたのは全く故なき事ではない。毅堂は三礼の攻究にもっとも力を尽した学者で、その平生においても辞容礼儀には極めて厳格でごうもこれをゆるがせにしなかった。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
するとその時、認識の苦悩と倨傲きょごうとを伴って、孤独がやって来た。
謙譲のつまはづれは、倨傲きょごうえりよりひんを備へて、尋常じんじょう姿容すがたかたち調ととのつて、焼地やけちりつく影も、水で描いたやうに涼しくも清爽さわやかであつた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
常に大藩の誇りを鼻にかけて、尊大で倨傲きょごうな振舞のおおい京極方の惨敗は反動的に無暗に群集の溜飲りゅういんを下げて鳴りもやまぬ歓呼となった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
身のほど知らぬ倨傲きょごうである。こんどは私も用心した。よろいかぶとに身を固めた。二枚も三枚も、鎧を着た。固め過ぎた。動けなくなったのである。部屋から一歩も出なかった。
春の盗賊 (新字新仮名) / 太宰治(著)
略奪者たる大貴族の跋扈ばっこした幾世紀かが、一民族の中に、たとえば猛禽もうきん倨傲きょごう貪欲どんよくな面影を刻み込むときには、その地金は変化することがあっても、印刻はそのまま残るものである。
蜜のごときささやきを交わし合うべき婚約成立の場合にさえも、妻の言葉のいかに倨傲きょごうを極めたものであったか! おそらくは、今まで眼中にさえも入れていなかった私風情の人間から
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
それは倨傲きょごう無頼な夜の一場面であった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
やはり自分は田舎侍であったという正直なである。しかし相手がそれを見下みくだしているような倨傲きょごうでないことは十分にわかっていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人もしその倨傲きょごうなるを憎みて、の米銭を与えざらむか、乞食僧はあえて意となさず、決してまたえむともせず。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
倨傲きょごうなヴィーナスの神となし、人の魂のあらゆる激情の化身けしんとなした。
まったく陰惨な倨傲きょごうさというの外はなかったのであった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
周馬はちょッとしゃくにさわったようにくちをゆがめた。こんな時、いつでも一角の倨傲きょごうとお十夜の図々しさから、自分が立ち用をさせられるのが不満なのだ。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宋大人そうたいじん。きのうまでの自分の倨傲きょごうは、慚愧ざんきにたえん。まったく、迷いの夢がさめた。わしは梁山泊というものも、また広くはこの社会よのなかをも、見損なっていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
倨傲きょごうに云い放った。変った物は何でも望むところと新九郎は勇気凜然。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
倨傲きょごうというか、不行儀をもってむしろほこるようなところがあった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしていつもの倨傲きょごうな彼とは別人のように、腰ひくく
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)