仕着しきせ)” の例文
強飯こわめしを云附けて遣り、箱屋や何かにも目立たんように仕着しきせは出しませんけれども、相応の祝儀を遣りまして、美代吉を引取ってまいる。
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
よく召使めしつかい仕着しきせに、じぶんの着料きりょうよりもじょうとうな布をもちいるものがありますが、わたくしもじぶんの影を人間にしたててあるのです。
あわてて、伝馬牢のお仕着しきせに着かえ直した彼は、赤合羽を貰って、頭からかぶると、裏口から夜明けの町へ駈け出した。
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
気の強い蔦芳は、いきなり足で其の男をっておいて二階へあがり、俳優やくしゃのお仕着しきせの浴衣をって来たが、おりる時にはもう其の男は見えなかった。
幽霊の衣裳 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
だが患者たちはそれを好まない、床板に薄縁という部屋の造りと共に、どうしても牢屋の仕着しきせのような感じがする、という不平が絶えないそうであった。
銘酒屋は、十九年の裏田圃たんぼ(六区)が、赤い仕着しきせの懲役人を使用して埋め立てられてから出来た、新商売だった。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
えらび突出しの仕着しきせより茶屋々々の暖簾のれんに至る迄も花々敷吉原中大評判おほひやうばんゆゑ突出つきだしの日より晝夜ちうやきやくたえる間なく如何なる老人みにくき男にても麁末そまつに扱はざれば人々皆さき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
俺は門番にして貰ったり、仕着しきせをして貰ったり、そんなようなことをしてもれえてえ、って言うつもりじゃねえんだぜ。そんなこたぁ俺の目当じゃねえんだよ、ジム。
お婆さんはそのお仕着しきせのお神酒がまはると、好い機嫌になつて唄など口吟みながら、笑つたり泣いたりして嬉しがるのであつたが、何うかすると姑風しうとかぜを吹かしなどして
余震の一夜 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
目鼻立めはなだちあいくるしい、つみ丸顏まるがほ五分刈ごぶがり向顱卷むかうはちまき三尺帶さんじやくおびまへむすんで、なんおほき染拔そめぬいた半被はつぴる、これは此處こゝ大家たいけ仕着しきせで、いてるくすのき持分もちぶん
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「コ、こんな浴衣は二十が三十でも俺んところにはお仕着しきせ同様転がってらあ。なあ、なあお絲」
円朝花火 (新字新仮名) / 正岡容(著)
仕着しきせをつけた馬上の從僕に附添はれて、彼女は、入口まで小馬を驅け込ませるのが常であつた。
歩道の盡きるところに、眞面目くさつた顏の老僕が仕着しきせを着て、少年たちの迎ひに出てゐた。
駅伝馬車 (旧字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
小僧達も新しい仕着しきせに着更えて、晴々しい顔付をして、提灯ちょうちんのかげを出たり入ったりした。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
下職への仕着しきせも紋無しの浅黄あさぎにするといまからでも間に合いますから、お金の事など心配せず、まあ、わしたちにまかせて、大船に乗った気で一つ思い切り派手に年越しをするんだね。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「ふ、ふ、ふ、お前には綿銘仙めんめいせんの羽織か、双子ふたごの綿入あたりが相当しているよ、どこのおたんちんが、こんなゾロリとしたお仕着しきせを、ほかならぬ金公にかぶせてやる奴があるものか」
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
仕着しきせの軍服をきて、手に小さい包みを持った少年が婦人のお供について行った。
黒と銀の簡素な仕着しきせを着た召使が一人、うしろの座席を飾っている。
道化者 (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
「大名の話の續きだが、——夏冬の仕着しきせにも不自由はなく」
「春着でも仕着しきせでもこしらえてやるがいいじゃあねえか」
半七捕物帳:11 朝顔屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
浅黄あさぎぼけのお仕着しきせ、青白い額をおお五分月代ごぶさかやき、彼は、自分の肩や胸の薄ぺッたさを感じながら、砂利を見つめた。
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「病人たちの不平は知っている」新出去定にいできょじょうは歩きながら云った、「病室が板敷で、茣蓙ござの上に夜具をのべて寝ること、仕着しきせが同じで、帯をしめず、付紐つけひもを結ぶことなど、 ...
目鼻立めはなだちの愛くるしい、罪の無い丸顔、五分刈ごぶがり向顱巻むこうはちまき三尺帯さんじゃくおびを前で結んで、なんの字をおお染抜そめぬいた半被はっぴを着て居る、これは此処ここ大家たいけ仕着しきせで、挽いてる樟もその持分もちぶん
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お客へは出ないという書附を伊之助と取合った仲でございます事がぱッと致しますと、芸妓げいしゃ幇間たいこ仕着しきせも出さなければならず、総羽織そうばおりを出すと云うので、さとの金には詰るが習い
年に二度や三度はお仕着しきせもやらなけりゃならず、それからまた時たまは、芝居
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
みんな水玉模様の仕着しきせでなく、縞かめくら縞のふだん着で、あぐらをかいたり片膝かたひざ立てをしたりして、湯呑で冷や酒を飲みながら、茣蓙の上の花札に眼を凝らしていた。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
儲かったら釜の祝いと云って仕着しきせをお出しなさいな、羽織の紋や何かに釜はいけませんな可笑しい、釜屋堀かまやぼり*の六右衞門ろくうえもんさんのうち仕着しきせ見たようですが、浴衣ゆかたを染めて釜の模様……これも困りますが
帯を解く、お仕着しきせを脱ぐ。
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この大あらしで向う河岸がしには警護の人数が出ているだろう、そこへみんなでぞろぞろいってみろ、この仕着しきせの水玉模様を見ただけで、寄場人足の島ぬけだとみられるだろう、そうは思わねえか
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それで夏冬の仕着しきせ雇主やといぬしより与える物でございます。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)