すこし)” の例文
神には撃たれ友には誤解せらる、みずから自己のために弁明するもすこしの効なく、神の我を苦むる手はゆるまず友の矢はますますしげきたり注ぐ。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
それ來りてこの報知しらせを聞く者甚だまれなり、高く飛ばんために生れし人よ、汝等すこしの風にあひてかく墜ちるは何故ぞや 九四—九六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
思い切ってうふいと何処どこかへ行って仕舞しまおうかと思って、それには下総にすこし知己しるべが有りますから其処そここうかと思うので
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そして信吾は、加藤に対してすこしの不快な感を抱いてゐない、かへつてそれに親まう、親んでして繁く往来しよう、と考へた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「フロオベル、モオパッサン、それから、ブウルジェエ、ベルジックのマアテルリンクなんぞをすこしばかり読みました」
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しずかに匂う木犀の花と夜寒とがぴたりと一緒になって、すこしすきも見せないのは、実感によるより仕方がない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
赤ぐろい治部太夫のまじろぎもせぬ眼の光に脅迫をすこしも感じていない、平常とただ違うのは呼吸のみだれだけだ、それも気がつくとほどなく、平調に復しかけてきた。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
それにも拘らず人類はすこしも神の国に近づかうとしない、などと遁口上にげこうじやうを言つてはならない。仏の慈悲、神の愛を知つたものは、知つただけで、神の国へ近づいてゐるのである。
工場の窓より (新字旧仮名) / 葉山嘉樹(著)
この行事中余りに劇しく笞うたれて辛抱ならず、用事にかこつけ退き去るも構わねど、もし眼をうごかすなどすこしでも痛みに堪え得ぬしるしを見せると大いに嘲られ殊に婦女に卑しまると。
路は山の脊に出でゝ、裸なる巖にはすこし許りなる蔓草つるくさ纏ひ、灰色を帶びて緑なる亞爾鮮アルテミジアの葉は朝風に香を途りぬ。空には星猶輝けり。脚下には白霧の遠く漂へるを見る。是れ大澤たいたくの地なり。
いけかこんだ三方さんぱう羽目はめいたはづれてかべがあらはれてた。室數へやかず總體そうたい十七もあつて、には取𢌞とりまはした大家たいけだけれども、何百年なんびやくねん古邸ふるやしきすこしはひらないから、ねずみだらけ、ほこりだらけ、くさだらけ。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
すこしも勞れ不申、朝暮は是非散歩いたし候樣承り候得共、小あみ町に而は始終相調あひかなひ申候處、青山之ごく田舍ゐなか信吾しんご之屋敷御座候間、其宅をかり養生中に御座候間、朝暮は駒場野はわづか四五町も有之候故
遺牘 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
心は、すこしも中心人物と共に鼓動していない。
印象:九月の帝国劇場 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
彼等かれら其處そこすこし遠慮ゑんりよをもつてらぬ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
またかれのいみじき小人なるをさとらせんため、その記録には略字を用ゐて、すこしの場所に多くの事を言現はさむ 一三三—一三五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
しかし手島が渋江氏をうて、お手元てもと不如意ふにょいのために、今年こんねんは返金せられぬということが数度あって、維新の年に至るまでに、還された金はすこしばかりであった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
さて鶴がすこし休息しようとしだすと蝶はたちまちその背を離れ予の方が捷いと言いながら前へと飛んで行く、小癪こしゃくなりと鶴が飛び出して苦もなく蝶を追い過すと蝶また鶴の背に留まり
わが目のこれにふるをえしはたゞすこしの間なりしも、そがあたかも火よりいづる熱鐡の如く火花をあたりにちらすを見ざる程ならざりき 五八—六〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
我は死せるにもあらずまた生けるにもあらざりき、汝すこし理解さとりだにあらば請ふ今自ら思へ、彼をも此をも共に失へるわが當時のさまを 二五—二七
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
あゝわがおもひくらぶればことばの足らず弱きこといかばかりぞや、而してこの想すらわが見しものに此ぶればこれをすこしといふにも當らじ 一二一—一二三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
われ目をさだめて見しに一旒の旗ありき、飜り流れてそのはやきことすこし停止やすみをも蔑視さげすむに似たり 五二—五四
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
かくて血にくろずむにおよびてまた叫びていひけるは、何ぞ我を裂くや、憐みの心すこしも汝にあらざるか 三四—三六
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
かたく目の手綱をめてこゝを過ぎよ、たゞすこしの事のために足を誤るべければなり。 一一八—一二〇
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)