二本ふたもと)” の例文
眼をあげよ、今、くわつと明りし二本ふたもとの楠の梢を、サンシユユの黄なる花の光を、枯草の色を、淡青きヒヤシンスの芽のにほひを。
春の暗示 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
初は「麹町二本ふたもと傳次方江かたへ同居」と云ふことになり、後「傳次不勝手に付金澤丹後方江又候またぞろ同居」と云ふことになつた。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
その女のつれが、摘んで、渡すのを、自分の見つけたのと二本ふたもと三本みもと、嬉しそうに手にした時……いや、まだ、その、一本ひともと、二本、三本をかぞえない時であった。
いけ菖蒲あやめかきつばたのかゞみうつはな二本ふたもとゆかりのいろうすむらさきかむらさきならぬ白元結しろもとゆひきつてはなせし文金ぶんきん高髷たかまげこのみはおな丈長たけながさくらもやう淡泊あつさりとしていろ
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
其の後船もとめて難波なにはの方にのがれしかど、御消息せうそこしらまほしく、二三六ここの仏にたのみを懸けつるに、二三七二本ふたもとの杉のしるしありて、二三八うれしき瀬にながれあふことは
石の巻の町に入るすぐ手前の畑に今でも「蛇田」といふ名所がある。「……五十八年の夏五月さつき荒陵あらはか松林まつばやしの南の道にあたりて、忽に二本ふたもと櫪木くぬぎ生ひ、路をはさみて末合ひたりき」
大へび小へび (新字旧仮名) / 片山広子(著)
愉園ゆゑんはひつて蒸す様なまぶしい𤍠帯花卉の鉢植の間のたくり、二本ふたもとのライチじゆの蔭の籐椅子を占領して居る支那婦人の一団を眺めながら、珈琲カフエエを取つて案内者某君の香港ホンコン談を聞いた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
二本ふたもととお書きになるのでは、もう一度お逢いになりたいと思う方があるのですね」
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
二本ふたもとの桂の立木ありて、その根よりおのづから清水を噴き、末は修禪寺にながれて入れば、川の名を桂とよび、またその樹を女夫の桂と昔よりよび傳へてをりますると、お答へ申上げましたれば
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
名も無き小川のほとりなる農家の背戸の方に一本ひともと二本ふたもと一重なるが咲ける、其蔭に洗はれたる鍋釜の、うつぶせにして日に干されたるなんど、長閑なる春のさま、この花のあたりより溢れ出づる心地す。
花のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
二本ふたもとの梅に遅速を愛すかな
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
かぶりてる二本ふたもと
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
はなの、うして、二本ふたもとばかりかれたあとを、をとこかごのまゝ、撫子なでしこも、百合ゆりむね滿つるばかりあづけられた。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
二本ふたもとの桂の立木ありて、その根よりおのずから清水を噴き、末は修禅寺にながれて入れば、川の名を桂とよび、またその樹を女夫めおとの桂と昔よりよび伝えておりますると、お答え申し上げましたれば
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
はかなくて世にふる川のうき瀬には訪ねも行かじ二本ふたもとすぎ
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
薄暮くれがた河岸かしのあかしや、二本ふたもと海岸かしのあかしや
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
二本ふたもとの梅に遅速を愛すかな
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
車で見た合歓ねむの花は、あたかもこの庭の、黒塀の外になって、用水はその下を、門前の石橋続きに折曲って流るるので、惜いかな、庭はただ二本ふたもと三本みもとを植棄てた、長方形の空地に過ぎぬが
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
散策子はくびすめぐらして、それから、きりきりはたり、きりきりはたりと、にわとりうつようなおさおとしたう如く、向う側の垣根に添うて、二本ふたもとの桃の下を通って、三軒の田舎屋いなかやの前を過ぎるあいだに、十八
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……二人は邑知潟おうちがたみぎわに、二本ふたもとのうつくしい姉妹きょうだいであったんです。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)