二室ふたま)” の例文
翁の書斎は予が見たこの国のの文学者の書斎に比べて非常に狭くつ質素な物で、六畳敷程の二室ふたまを日本の座敷流に真中まんなかを打抜き
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
縁側もない破屋あばらやの、横に長いのを二室ふたまにした、古びゆがんだ柱の根に、よわい七十路ななそじに余る一人のおうな、糸をつて車をぶう/\、しずかにぶう/\。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
へやは繁昌する割に狭くて、たった二室ふたましかない。天井も低くて薄暗い上に昨夜ゆうべのまままだ掃除しないと見えて卓子テーブルの覆いも汚れたままである。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
玄關から上ると、右と左が事務室に宿直室、奧が印刷工場で、事務室の中の階段を登れば、二階は應接室と編輯局の二室ふたま
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
先ず貴老あなたのような有力者が発起人となって第一回を貴老のお屋敷で開くとしたらあのお客座敷を二室ふたま打抜ぶちぬいて二、三十人のお客は楽に出来ます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それでも六でふと三畳と二室ふたまあツて、格子かうしを啓けると直ぐに六畳になツてゐた。此處でお房の母は、近所の小娘や若い者を集めてお師匠ししやうさんを爲てゐる。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
覗くともなく見ると、なるほどたった二室ふたまの浅まな住居すまいで、雇人などを置く場所があろうとも思われません。
如何に貧乏な書生生活でも、東京で二十円の借家から六畳二室ふたま田舎いなかのあばら家への引越しは、人目ひとめには可なりの零落れいらくであった。奉公人にはよい見切時みきりどきである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
夏の真盛りで、宿という宿は皆ふさがって、途方に暮れておられるのを見兼ねて、さいと相談の上自分らが借りていた八畳二室ふたまのその一つを御用立てることにした。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
東紅梅町ひがしこうばいちやうのあの家は書斎も客室きやくまも二階にあつたのでした。階下した二室ふたま続いてあつた六畳にわかれて親子は寝て居ました。亡霊の私が出掛けてくのは無論よる夜中よなかなのです。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
家は上り口と、奥の八畳との二室ふたまであつたが、八畳から二階へ梯子はしごかけわたされて、倉を直したものらしく、木組や壁は厳重に出来てゐたが、何となく重苦しい感じを与へた。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
二室ふたまへだてし簾障子すしやうじ
かさぬ宿 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
玄関から上ると、右と左が事務室に宿直室、奥が印刷工場で、事務室の中の階段はしごを登れば、二階は応接室と編輯局の二室ふたま
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「旦那様の前ですけど、この二室ふたまが取って置きの上等」で、電報の客というのが、追ってそこへ通るのだそうである。——
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
第一前に述べた来るみちの淋しさと物凄さとに驚かされて居るところへ、四百年以上経て居ると云ふ古い建物の酒場キヤバレエが、石と土とを混ぜて築き上げた粗末な壁の二室ふたましかない平家で
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
と見舞を云う男や女の群で、二室ふたましかない福太郎の納屋が一パイになってしまった。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「内じゃお客様が多いから、離れた処で、二室ふたま借りておくけれど、こんな時はお隣が空室あきまだとさびしいのね。ほほほほほ、」
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
隔てのすすびた障子一重で、隣りは老母の病室——畳を布いた所は此二室ふたましかないのだ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
中に這入はいると居間兼台所と土間と二室ふたましかない。
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ここに赤城得三は探偵の様子をうかがえとて八蔵をいだりたる後、穏かならぬ顔色がんしょくにて急がわしく座を立ちて、二室ふたま三室通り抜けて一室の内へきぬ。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ところが——その姿の、うしろ向きに曲る廊下が、しかも、私の座敷の方、もっと三室みま並んでいるのですが、あと二室ふたまに、客は一人も居ない筈、いや全く居ないのです。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
半ば西洋づくりのかまえは、日本間が二室ふたまで、四角な縁が、名にしおうここの名所、三湖の雄なる柴山潟しばやまがたを見晴しの露台のあつらえゆえ、硝子戸がらすどと二重を隔ててはいるけれど、霜置く月の冷たさが
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うしろ片手でとあとをしめて、三畳ばかり暗い処で姿が消えたが、静々と、十畳の広室ひろまあらわれると、二室ふたま二重ふたえの襖、いずれも一枚開けたままで、玄関のわきなるそれも六畳、長火鉢にかんかんと
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
時にふすまと当った、やわらかきぬ気勢けはいがあった——それは次の座敷からで——先生の二階は、八畳と六畳二室ふたまで、その八畳の方が書斎であるが、ここに坂田と相対したのは、壇から上口あがりぐちの六畳の方。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)