久振ひさしぶり)” の例文
卯平うへい久振ひさしぶり故郷こきやうとしむかへた。彼等かれらいへ門松かどまつたゞみじかまつえだたけえだとをちひさなくひしばけて垣根かきね入口いりくちてたのみである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
空は一面にくもっていた。近所の溜りの池で再び蛙の声が起った。これは聞慣れた普通の声であった。わたしは久振ひさしぶりで故郷の音楽を聴いた。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
だが今云う通り一寸ちょっとお出でになり、どう云う訳だか取急ぎ、横浜へ買出しにくと云って、こうとなさるから、久振ひさしぶりで逢って懐かしいから
其間に親戚故旧の間に種々の変化もあつた様だから、久振ひさしぶりに其等の人々に遇つて色々と話合つたらさぞ楽しいゆかしいことであらうと思つたからである。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
それから「只今は帰りがけに巴里によりて遊居候その内に帰朝致久振ひさしぶりにて御伺申すべく存候御左右その後いかが被為なされ入候。三十四年八月十八くれ秀三」
呉秀三先生 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
此度は十分に御推敲ごすいこう下され大痴帰山候節御遣し下されたく御失念なく願上候。なお又過日の絶句四首此の間久振ひさしぶり(?)参候故見せ申すべくと存じ草稿尋ね候処紛失。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
久振ひさしぶりで東京へ帰ッて参りまして、安心して休むつもりであッたところが、突然お呼出しになりまして、定めしにか御馳走でもあるじゃろうと思ッて来たところが
人格の養成 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
山を一面に包んでいた雪が、いただきにだけ残って方々のもみの木立が緑の色を現して、深い深い谷川の底を、水がごうごうと鳴って流れる頃の事である。フランツは久振ひさしぶりで例の岩の前に来た。
木精 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そして私は、この久振ひさしぶりう友の様子が、大体想像の通りであったのを感じた。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
大阪着大阪に着て久振ひさしぶりで兄に逢うのみならず、屋敷の内外に幼ない時から私を知てる者が沢山たくさんある。私は三歳の時に国にかえって二十二歳に再びいったのですから、私の生れた時に知てる者は沢山。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
彼もすこぶる不思議だとは思ったが、ただそれくらいのことにまって、別に変った事も無かったので、格別気にも止めずに、やがて諸国の巡業を終えて、久振ひさしぶりで東京に帰った、すると彼は間もなく
因果 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
私は久振ひさしぶり展墓てんぼの為帰省した。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
『先生、お久振ひさしぶりで。』
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
奥方宗悦が久振ひさしぶりで来たからなんでも有合ありあいで一つ、随分飲めるから飲ましてりましょう、エヽ奥方勘藏かんぞうは居らぬかえ、エ、ナニ何か一寸、少しは有ろう、まア/\宗悦此方こちらへ来な
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
滋幹はその時ほんとうに久振ひさしぶりに父を見かけたのであったが、そうして石にいこうている父の恰好には、長い道中を歩いて来て、くたびれ切って道ばたに休んでいる旅人のようなところがあった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
まア久振ひさしぶりねえ。どうして。
美「わちき久振ひさしぶりですから長者町ちょうじゃまち福寿庵ふくじゅあんへ往っておらいさんに逢って、義理をしてきたいんですが、帰りに他家ほかへ寄っておまんまを食べるなら、福寿庵へって遣っておくんなさいよ」
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
久振ひさしぶりに御前で夜をかしてから出て来ると、よいのうちは入梅にゅうばいらしくしょぼ/\降っていた雨が、にわかに大降りに降り出したので、此の雨をいて自分の家まで帰るのはえらくわずらわしい気がしたが
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
定「ナニ寄る気でもないんですが、近いから、あのお寺の前を通ると曲角まがりかどのお寺だもんですから、よく門のとこなんぞをいてゝ、久振ひさしぶりだ、お寄りなてえから、ヘイてんでもと朋輩ほうばいだから寄りますね」
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)