下世話げせわ)” の例文
あるいは機先を制して、むこうから逆寄さかよせに押しかけて来るかもしれない。下世話げせわのことわざにもある通り、いては事を仕損ずる。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
けれど、下世話げせわに通じている紺足袋の若様とはいえ、先は尾張中将の御末子、正面から行ったところで番士が会わせるはずがない。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「戸部氏のご立腹、ごもっともでござる。下世話げせわにも、とかく女子おなごにもてる男には嫌なやつが多いと申す、ぷッ! 高慢面こうまんづら鼻持はなもちならぬわ」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
富は富者に集まると下世話げせわに言われている。力は強者に集まるものである。クリストフはオリヴィエの思想で自分を養った。
又聞またぎきにしたくらいの人の秘密をおもしろ半分に振り回し、下世話げせわにいう肘鉄ひじてつを食わせたはしたない女の話なぞに興がって
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかしてすべて此の世界の飽くまで下世話げせわなる感情と生活とは又この世界を構成する格子戸、溝板どぶいた、物干台、木戸口、忍返なぞ云ふ道具立だうぐだてと一致してゐる。
路地 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
下世話げせわに、犬は貰われる時お子様方はお幾たりと尋ねるが猫は孩児がきは何匹だとくという通りに、猫は犬と違って児供にいじられるのをうるさがるものだが
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
下世話げせわに謂う探偵、世に是ほどいまわしき職務は無く又之れほど立派なる職務は無し、忌わしき所を言えば我身の鬼々おに/\しき心を隠し友達顔を作りて人に交り
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
いつもりの玄竹げんちくると、但馬守たじまのかみ大抵たいていむかひではなしをして障子しやうじには、おほきな、『××の金槌かなづち』と下世話げせわ惡評あくひやうされる武士髷ぶしまげと、かたあたまとがうつるだけで
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
音信おとづれして、恩人おんじんれいをいたすのに仔細しさいはないはず雖然けれども下世話げせわにさへひます。慈悲じひすれば、なんとかする。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そもそも愚老の易断えきだんは、下世話げせわに申す当るも八卦はっけ当らぬも八卦の看板通り、世間の八卦見のようにきっと当ると保証も致さぬ代り、きっとはずれると請合うけあいも致さぬ。
「でも、このあたり下世話げせわに、上布シイツは自分のためには七日目に、お友達にはその日その日にと言ひますから、王様には一時間ごとに取替へなくつちやと存じまして。」
しかしわたしは、すっかりもう幸福感に酔いしれていたので、誰が冷笑しようが誰が白い眼でにらもうが、下世話げせわに言うとおり、どこく風で、一文の価値も認めなかった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
... 下世話げせわにも鼻より団子と申しますれば美的価値から申しますとまず迷亭くらいのところが適当かと存じます」寒月と主人は「フフフフ」と笑い出す。迷亭自身も愉快そうに笑う。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その訳は——下世話げせわにいう、うじより育ち、二十を越すまで、素性すじょう卑しく育った者を、この城中へ入れることは、いろいろとへいがある。二つには、この周囲には、浪人者の不逞ふてい徒輩とはいがいるらしい。
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
下世話げせわにいううり二つ」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
田楽屋へはいッて、あのようなものという注文は、かなり下世話げせわに通じているようでも、やはり大身の若殿らしい。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしてすべてこの世界のあくまで下世話げせわなる感情と生活とはまたこの世界を構成する格子戸こうしど溝板どぶいた物干台ものほしだい木戸口きどぐち忍返しのびがえしなぞいう道具立どうぐだてと一致している。
下世話げせわにもよく言ふことであるが、一切をさゝげて惜まないほどの人間の情熱にすら、それを根から覆さずには置かないやうな破壞と、矛盾と、悲哀と、不安との伴つて來ることを
桃の雫 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「ははははは、この刻限にこの道、これはいかさま野暮なことをおきき申した。雨の夜の北廓ほっかくもまれには妙でござろう。下世話げせわにも気散じとか申してな、武骨ながら拙者もお供つかまつろう」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
下世話げせわにいう「無い子に知恵をつけた」その責任は自分にもある。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「いや、くわしいことはいっこうに存じませぬが、その、あの、下世話げせわに申す若気のあやまち——とでもいうようなところならば、はっはっは、私が栄三郎殿になりかわってこの通りお詫びつかまつるゆえ、一つこのたびだけはごかんべんのうえ——」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)